2014年3月27日木曜日

レビュー:堂本秋次さんレクチャーノート(1作目)


堂本秋次さんのレクチャーノート「Now I don’t have a piece of thumbs in my pocket.」のレビューです。





特に準備が必要ない、借りたデックでもできる即興的なカードマジックが5紹介されています。それぞれのトリックに関して考察のような項が設けられており、そのトリックに関わるコツや考え方も書かれています。


1:Doppelganger


一言で現象を説明できないマジックです。
マジシャンはまず、1枚のカードをポケットに入れます。そしてお客さんにカードを1枚選んでもらいます。お客さんはそのカードを覚え、デックの中に戻します。マジシャンが1枚カードを取り出しますが、それはお客さんの選んだカードではありません。しかし、それが一瞬だけお客さんの選んだカードになります。なったような気がするのです。しかしまた違うカードへと戻ってしまいます。そんな現象が繰り返され、最終的にはお客さんが選んだカードに完全に変わります。しかしまたお客さんの手の上で、それは違うカードへと戻ってしまいます。マジシャンが最初にポケットに入れたカードを取り出すと、それはお客さんが選んだカードです。

Nathan Kranzoっぽい現象だなぁと思っていたら、ちゃっかりクレジットもされていました。スタンダードな現象のカテゴリに当てはまらない、とてもユニークなマジックだと思います。

考察部分に書かれている1つ目のポイントは、僕が普段から「なぜデックからジョーカーを抜いておくのか」として考えていることと全く同じで、頷けました。
もう1つのポイントは、サインに関する話題です。堂本さんは、このマジックにおいてカードにサインさせることを推奨していません。その理由は小さなサトルティの効果を最大限に引き出すため、という感じなのですが、僕はここについては完全に同意はできませんでした。
「借りたデックで」「即興的に」行う分には、書かれている通りサインは不要だと思います。しかし、もしも仮にこのマジックを「自分のデックで」「準備して行うようなショーで」演じるのであれば、お客さんにサインしてもらうメリットは充分に大きいと思います。サインによるメリットが、サインしないことによるサトルティへのメリットを下回っているかというと、そうではないと感じました。

手順としては非常におもしろく、技術的にもそこまで難しくないと感じました。衣装の制約についての記述もあったのですが、まあフォーマルな感じの衣装であれば問題ない条件なので、全然ストレスにはならないでしょう。

最後の変化現象だけ、少し惜しいと感じました。そこまではずっと、変化現象ではなく「選んだカードがあるような、ないような。見えるような、そうじゃないような。」という曖昧な雰囲気の現象として成り立っています。しかし最後のところだけ、ガッツリお客さんのカードへの変化現象なのです。そしてそれがクライマックスではなく、また別のカードに戻るという構成です。こうなるとポケットから出てくるお客さんの選んだカードは、「交換」あるいは「飛行」の現象に見えてしまいます。
なんだか、凄くもったいないんですよね。他には無い独特の雰囲気を持った現象なのですから。
最後まで「あるような、ないような。」そして、お客さんが選んだカードは実は最初からずーっと、ポケットの中にあったんだよ。え?じゃあ私が選んだカードは?さっきからチラチラ見えていたカードは??という空気が、このトリックだとオイシイんじゃないかなぁと思います。
となると、最後の変化現象は変化として見せるのではなく、例えばフェイスを見せるのは一瞬だけにして、お客さんの手にそのカードを置いた後、マジシャンは数枚のパケットをそのカードの上でドリブル。ここに有ったような気がしても、こうやって他のカードに紛れこませるとやっぱり無かったような気がしてきますよね、ほら確認してみると実際……って空気で、少なくとも僕なら演じると思います。しかし、そうすると考察のところで述べられていたサトルティの考え方からは少し遠のきますから、難しいところですね……

このトリック、カードトゥーポケットなら間違いなく使ってるだろうあの技法は一切使われていません。また、即興的にできるということで当然デュプリケートもナシです。ここも、かなり素敵なポイントだと思いました。



2:Secretion


2枚、赤2枚のオイルアンドウォーターです。最後には、そのうち2枚がデックの中に飛行してしまいます。

4枚でのオイルアンドウォーターって、そんなに不思議に思えなかったりする場合もしばしばあります。しかしこの手順は、非常に自然な動きの中で検めやディスプレイを行っていくので、かなり不思議に現象を見ることができます。レクチャー通りに手を動かしてみると、本当にちゃんと現象が起きていくので練習していて楽しいです。

後半、表裏ごちゃまぜで行う辺りから少し煩雑になってくる印象がありました。フラリッシュ的というか、不自然な動きも増えてきます。実際にやってみると「こういうムーブをすると、こう見えます」と書いてある通り確かに見えるので、練習している分には楽しいです。ただ、お客さんから見てどういう印象になるかを考えると、後半は人を選ぶ手順だなと感じました。

クライマックスも、確かに大きな現象なのですがオイルアンドウォーターとして脈絡が無いです。ステージで言うと、でっかいもの出したら受ける感覚に近いと思います。実際、ステージで最後にでっかいもの出したらウケるのでなんとも否定できませんが、個人的にはあまり好きではないクライマックスです。



3:Houseguest


カードの箱を使った、少し変わったビジターです。
箱に2枚の(例えば)赤いキングを入れます。お客さんにはカードを1枚選んで貰い、覚えて貰ったらデックに戻します。そして2枚の黒いキングをデックの上に置くと、お客さんが選んだカードが間に挟まって出現します。そしてその後、黒いキングの間のお客さんの選んだカードが、箱の中の赤いキングの間に飛行してしまうのです。

途中のハンドリングも非常にシンプルで、検め方も思わず「おお!」と唸ってしまうほどクレバーです。
最後の、箱からカードを出す動きだけ、文章では分かりづらかったです。僕はThomas FrapsA FACE IN THE CASEの雰囲気だと思っていたのですが、そうではなかったみたいです。僕の最近のトレンドからピンと来たのは、大原正樹さんのBirthのイメージです。そんな]動きでした。
この辺、写真が1枚でもあると分かりやすかったのになぁと思います。たまたまトップダウン式にピンと来てどんな構図になるのか分かったらよいのですが。文章からボトムアップ式に構図を作ろうとすると複数の意味に捉えられる表現があったりして混乱しそうです。特に僕のように、全く別のトリックからトップダウン式に、間違った構図が思い浮かんでしまうと絶望的です。かなり混乱しました。
まあそれも、インターネットで対話しながら買える電子書籍の強みで、分からなかったら堂本さんに直接メールか何かで尋ねることができるので大丈夫ですね。とても親切に対応して頂きました。

お客さんから見てどの程度不思議に見える現象なのかなぁ、というのは未知数です。でもスムーズにやると、不可能性が高くて尚且つビジュアルにインパクトの強いトリックだと感じました。

サインについての言及は特に無かったのですが、Doppelgangerと同じことが言えると僕は思っています。つまり、借りたデックで即興的にやるなら不要、自分で準備してやるならサインは効果的だと思います。

考察の部分で、飛行現象を「消失」と「出現」に分解して考えたとき、どちらを先に示すのが効果的かということについて言及しています。これは、もっとガッツリ書いて頂いても良かったと思います。
僕は昔、「原則としては消失→出現の順番。」であり、なぜなら「飛行現象で出現が先に起きると、消失したことがもう分かってしまうから。」だと習いました。しかし堂本さんは、必ずしもそうではなく、このトリックに関しては逆(出現→消失)だと書いています。
僕も、そう思います。先に出現させたときの「と、いうことは…(消失しているのでは)」っていう意識、かなり強いキューとして認知に関わってくるはずです。そのキューは、お客さんの意識を操作するのに非常に有用ですから、活用できるのであればどんどん使っていくべきだと思います。このトリックで堂本さんは、箱を振って鳴る微かな音なんかまで綿密に練って、「出現→消失」を効果的に用いようと試みています。それがベストなルーティーンなのかは分かりませんが、そういった試行の過程を考察部分で読み取ることができます。



4:Operation “2 of 4”


3枚の予言でお客さんの選んだカードを示すマジックです。ざっくり現象を説明すると、同じスートの3枚のカードを予言にしておいて、その数字で加法と減法を行うと、お客さんの選んだカードとその位置になるという内容です。

このレクチャーノートの中で、僕が一番好きなトリックが実はこれなんです。非常にシンプルで、全然難しい要素も無く、単に予言のマジックの演出方法近い内容です。と言っても、具体的なハンドリングで綺麗に工夫されているポイントも多く、侮れません。初心者の練習用手順としても、現場での実用的な手順としても有用な、良作だと思います。

なぜこのトリックが非常に気に入っているかというと、これ、ほとんどこのままジャンボカードで行って、サロンマジックにも昇華できますよね。しかも、加法と減法が出てくる辺り、小学生向けのキッズショーでも有用です。子供にもウケるでしょうけど、何より保護者ウケがバツグンだと思います。
3枚の予言を特性のスタンドに立てて、予言を3枚見せた後にカードの間の「-」の記号、そして一番右に「=」の記号。これを黙ってペラッと見せたときの、子供の反応を想像するとワクワクしてきます。そしてそこからもう1段階ひねりがあって、子供がしっかり参加しながらマジックすることができるのです。
まあジャンボカードに応用するとなると、マジックの本質的なところで「どうやって処理するんだ?」ってポイントがあるかと思いますが、サロンのカードマジックに慣れた人ならすぐに解決策が思い浮かぶでしょう。ストレスも少ない良作だと思います。



5:Overkill prediction


ポーカーをモチーフにしたマジックです。まずマジシャンは、4枚のカードを取り出します。これは「あと1枚でポーカーの役が完成する、一種の予言」だと説明します。そしてお客さんに、1枚カードを選んで貰います。先ほどの4枚の予言を表向けると、「10」「10」「10」「2」です。ということは、お客さんが選んだカードは「2(フルハウス)」もしくは「10(フォーカード)」のどちらかだと説明します。しかし、やはり強い役は……お客さんが選んだカードは「ハートの10」で、見事フォーカードが完成します。
ところが、お客さんが選ぶカードが「ハートの10」だと分かっていたなら、もっと強い役になる予言ができたはず。そういってマジシャンが先ほどの4枚の予言のカードをもう一度表に向けると、それはハートの「J」「Q」「K」「A」に変わっており、見事ロイヤルストレートフラッシュが完成します。

プロットとしてはとてもおもしろく、シナリオ構成やクライマックスの持って行きかたなど、非常にドラマチックで素敵です。最後のハンドリングが、どちらかと言うと「いつのまにか系現象」として処理されています。僕としてはもっと技巧的に「ビジュアルな現象」として処理した方が、クライマックスのインパクトが引き立つのではないかと考えました。しかし演者のストレスの部分や、借りたデックでもできるというコンセプトを考えると、あまりカードのコンディションに左右されない堂本さんの方法が一番賢いようにも思います。

1ヶ所腑に落ちなかったのは、なぜマジシャンは「10」「10」「10」「2」のように、お客さんの選んだカードが「2通り有り得るようなパターン」を予言として選んだのか、という点がスルーされているところです。
手順として仕方ない組み合わせなのはよく分かるのですが、この部分がトリックにおけるシナリオ構造を大きく壊してしまう違和感を生じさせてしまうと思います。

例えば「103枚、そして2です。もう12があれば、役が完成します。」と、あえて一度フルハウスに振ってみて「確かにフルハウスはできるのですが、実はこの組み合わせからさらに強い役ができる可能性があります。フォーカードです。」のように「もっと強い役の可能性」の伏線を張る材料にするのが、簡単で筋道立った構成のように感じます。
あるいは「あとハートの10で、フォーカードができますね。」と言って「フルハウスもできるよ!」と言われるまで、マジシャンがその可能性に気付いていなかった体にする、というのもアリかも知れません。いずれにせよ、この違和感は払拭すべきだと感じました。

あと、些細なことなのですが、ロイヤルストレートフラッシュってなんとなくスペードのイメージありません?ハートだと、直感的にモヤモヤします。特に根拠もないので、僕だけかもしれませんが……



Bonus:Ambush


ボーナストリック。ちょっと変わったコレクターです。
4枚のキングをカードの箱の上に置き、お客さんに3枚のカードを選んで貰います。それぞれ覚えてもらったら、3枚のカードをデックに戻します。マジシャンが指を鳴らした瞬間、箱の上にあったはずのキングがいつの間にか消えており、デックの中から4枚のキングが、3枚のカードを挟んだ状態で出てきます。挟まれた3枚のカードが、お客さんに覚えてもらったカードです。

サインの無い状態で3枚のカードが見つかる現象が「カード当て」っぽくなり、キングが消えるのが「いつの間にか系現象」として処理され、肝となる現象が探偵カードというか、コレクターなワケです。
もちろん「当てるマジックじゃない」と言えばカード当てではないんですが、お客さんに覚えてもらうコストを減らすためにもサインが有用であり、しかしそうすると、借りたデックでできる即興性は失われてしまうワケで……どうも上手く行きません。

考察の部分で「追えないマジック」の話が書かれていました。同じ「追えない(タネがわからない)」マジックでも、意表をついた現象が「とても不思議でおもしろい」のと「何をやっているのかわからない」は、お客さんが受ける印象として全然違うことだと思います。このマジックは、何がしたいのか分からない現象に感じました。

プロットとしては1つひねりの入ったコレクターで、そこまで変には感じないのです。極端に言うと、サイン1つで印象が変わるのではないかとも思います。僕が受けたごちゃごちゃした感じも、単純に演技の骨格が「借りたデックで即興的にできる」というコンセプトに合っていなかったということなのかもしれません。



全体:


総じて、かなり良いレクチャーノートだと思います。6つのトリックが紹介されたレクチャーノートとなると、これ良いな!と思うものが1つ有ればもう充分で、レパートリーに入るものが1つ有ればもう万々歳です。そう考えると、これはかなり当たり率が高い内容だったと言えます。値段も1000円弱と、非常に手を出しやすく設定されていますので、気になった方は読んでみるのをお薦めします。

堂本さんは、インターネット上で自分の考えを発信したり積極的にされています。その内容は、掻い摘んで読んでも、どうも要領を得ないと言うか、何を言っているんだろうという印象が強かったです。
しかしこのレクチャーノートで、堂本さんが初めて思想を「作品で語る」ということをされました。言葉で見てもあまり伝わらなかった思想が、作品を見るとひしひし伝わります。ああ、堂本さんはこういうことを考えているマジシャンなんだなぁと、その思いの一端が垣間見れました。

若いマジシャンが自分の思想を発信するのはとても大事なことだと、僕はずっと考えています。そういう意味でも、非常に意義の有るレクチャーノートだと感じました。

0 件のコメント:

コメントを投稿