堂本秋次さんの3冊目のレクチャーノート「Show
off your modesty」のレビューです。
ついに出ましたね!1作目が即興をテーマにした作品集で、2作目がギャフなしのパケットトリックをテーマにした作品集と来て、この3作目はセミオートマチックやメンタルのカードマジックが5作品収録された作品集です。
いつも通りレビューするのですが、セミオートマチックの特性上、レビューではあまり詳しく現象は書きたくない反面、現象をちゃんと書かないとどんな手品なのか伝わりにくいという部分があり、非常に読みにくい感じになってしまいました……ご了承下さい。
・Antinomy
まず演者はデックから4枚のカードを抜き出します。
そしてお客さんが選んだカードが、その4枚のカードによって示されています。
さらに、抜き出していた4枚のカードの数字を足すと、お客さんがストップを掛けた枚数になっています。
注釈でも述べられているように、こういうプロットだと『カードを選ばされたのではないか』という印象がかなり出てしまいます。この作品では、そんな「選ばされた感」をいかに軽減するかにすごい労力を割いているようです。
しかしながら、クライマックスの「4枚のカードの数を足すと、お客さんがストップを掛けた枚数になっている」というのが、僕には蛇足に感じられました。つまり
「上から何枚目を選ぶか分かってたなら、そりゃあ、それが何のカードなのかも分かるだろう」
という感覚です。カード当ての後に「実はそれが予言されていた」というクライマックスを付け足すと、予言できてたならそりゃ当たるだろ、という感覚に近いかも知れません。
4枚のカードがお客さんのカードを示しているという場面までは、お客さんはその仕組みが全く読めず非常に不思議かもしれませんが、クライマックスの現象でどうしても「選ばされた感」が出ると思います。
また、想定通りに行かなかった場合のアウトが色々と解説されているのですが、どうにも苦しいケースが有ったりと、そこまでして実現したいような現象かな?と思ってしまうのが正直なところでした。
ただ、そのアウトの中に1つ、ああこれが決まればめちゃくちゃ面白いだろうなあという、想像すると思わずニヤリとしてしまうようなアウトが入っていまして。堂本さん、実はこれが一番やりたかったんじゃないか?とまで思えてしまいます。
あと書きでは『ガツンとパンチが効いているものではない』と書かれていますが、そのパターンにクリティカルにはまったとき、この作品でガツンとパンチが効くと感じました。
・Unconquered
お客さんはデックのトップから数枚のカードを取り、その枚数を数えて覚えます。
さらにお客さんは、カードのスートを1つ任意に決めます。
そのスートでかつ最初に覚えた数字のカードを、マジシャンが当てます。
非常に不思議な現象であり、解説を読むと原理的にも無理なく賢い方法で、上手く出来てるなあと感じられます。
ただ、後半でカードを当てていく演出が、
「ポーカーをやるようにカードを配って、演者がカードを絞り込んで当てる」
というもので……突然ポーカーが出てきます。
本当に、なぜか、ここで突然のポーカー!って感じなのです。
色々考えてみると、確かにここで突然ポーカーが出てくるのが一番スマートで無難な方法かなとも思うのですが、やはりどうにも唐突過ぎて違和感があります。
また、この作品ではもう一段階クライマックスの現象が付加されているのですが、それについては注釈でも書かれている通り、場合によっては蛇足になるためやらなくても良いと思います。
ただ、そのクライマックスの準備をしておく利点についても注釈に書かれている通りで、なるほどよく出来た作品だなあと感じました。
ただ、突然のポーカー……
・Axiom
ポーカーをするよう5人に配ったカードのうち、お客さんは手札を自由に1つ選び、その中から自由に1枚を覚えます。
再びポーカーをするようにカードを配ることで、お客さんが覚えたカードが選び出されます。
こちらの作品は先ほどのUnconqueredと違い、最初からポーカーの形をとっています。ただ、ギャンブリングデモンストレーションというよりは、ポーカーを主題にしたセルフワーキングトリックのような雰囲気です。
これはセルフワーキングかなと思って見ていると、所々で不思議な箇所というか、どう考えても追えないところがあり、煙にまかれてしまいそうです。
僕ならたぶん引っ掛かってただろうなあと思います。
技術的に難しいところもほぼ無く、覚えることも非常に少ないので、多くの人にとって身につけやすい作品だと感じます。
いくらか手続き的だとは感じるものの、セルフワーキングにありがちな
「ああ絶対そうなるような手続きなのね」
という感じはありません。
それでいてクライマックスがそこそこ衝撃的な、非常に良い作品だと思いました。
・Bulletproof
まず演者は、デックから取り出した1枚のカードをお客さんに渡しておきます。
そしてお客さんに1枚カードを引いて覚えてもらい、デックに戻します。
そこから、ポーカーをやるように5人にカードを配ると、お客さんの覚えたカードが選び出されるだけでなく、3段階の現象が立て続けに起こります。
これもポーカーですが、今度は先ほどのAxiomと違ってかなりギャンブリングデモンストレーションの色が濃いです。
3段階の現象が非常にリズミカルで、非常に良い作品だと思いました。
ただ、演出面でとても惜しいと感じています。
ギャンブリングデモンストレーションを題材にした手品って、たとえばただ特定の人に特定のカードを集めるデモンストレーションをしても、それが巧妙な仕組みによるものだろうと、純粋なギャンブリングスライトによるものだろうと、お客さんとしては
「本当だ、こんなことできるんだ、すごい」
ぐらいの感想で終わってしまいます。
なので僕は、ギャンブリングデモンストレーションを題材にした手品は、そのプロットのドラマツルギーが非常に大事だと思っています。
(こざわまさゆきさんのErdnase Not Requiredなんかはその辺りが秀逸でした。)
そういった面からこの作品を見ると、いくつかの現象について、それがポーカーとして何の意味があるのかよく分かりませんでした。
それによって、プロット自体が非常に尻すぼみな印象を受けました。
なんと言うか
「マジシャンが最初に余計なことをしたせいで、揃うかも知れなかった役が揃わなかった」
という印象です。
でもそれは、演出の工夫次第でなんとでもなると思いますし、上手くやれば非常にインパクトのあるクライマックスになることは間違いないです。
演出部分でもうひと工夫いけたな、と感じる、非常に惜しいながらも秀作でした。
・Aufheben
Do as I Doの現象です。
ラストはお客さんが好きな数字を決め、デックを演者とお客さんで半分ずつ持ちます。
すると、お客さんの覚えたカードと演者の覚えたカードが、それぞれの山の上から決めた数字分カードを捨てたところで出てきます。
システム的にも非常に秀逸で、上手くできてるなあ!と唸ってしまう作品です。
演者がお客さんのカードを当て、お客さんが演者のカードを当てるという面では、齋藤修三郎さんのとある作品を思い出しました。
それと比べると不思議さでは劣るかも知れませんが、演者がほとんどストレス無く演じられて、なおかつクライマックスの絵面が非常に整っていて綺麗です。
また、あくまでもカードを当てるという演出ではなく、お客さんが演者と同じ手順を踏んでいくと最終的に当たるというDo as I Doのプロットにしているのも良いと感じました。
解説の中で『数理トリック的な手法』ではないことを目指したと書かれていましたが、セルフワーキングらしさを上手く取り除くことに成功しています。
完成された作品だと思います。
・全体
Bulletproofはポーカーの想定で5人にカードを配るストーリーですが、なぜ5人なのかと疑問に思いました。別に4人でも3人でも良いのではないかと。
しかしこれは、どうも1つの長いアクトの中でAxiomと繋げて演じられるように構成されているのではないかと思います。
そう考えると、Unconqueredの突然のポーカーに対する違和感も、繋げ方次第で自然にできるのかも知れないなあと感じられます。
作品ごとに注釈として、その箇所に関する考察や思考の軌跡が書かれていたのは非常に分かりやすく丁寧だと思いました。
作品としての完成度はAufheben、実戦投入するなら少し演出に気を使ってBulletproof、多くのマジシャンに親しまれるのはAxiomかなと思います。
特にAxiomは、ネタに困っている学生マジシャンさんにもオススメです。
総じて、この値段でこのクオリティというのはレクチャーノートとして大当たりだと思います。
(値下げ中に買っておいてずうずうしいかも知れませんが……)
これで予告されていた堂本さんのレクチャーノート3部作が完結したわけですが、何やら次もあるようなことが、あと書きで匂わされていたので、次回作も楽しみに待ちたいと思います。
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