デビッド・ケイ氏のキッズショーのDVD、日本語字幕版のレビューです。
同氏の著書「マジシャンのためのウケるキッズ・ショーの作り方」のエッセンスをしっかりと取り込んだ、キッズショーライブのDVDです。書籍の方のレビューはこちら。
このDVDは大きく分けると、6つの手品のパフォーマンスと解説、理論の説明、ボーナストラックが収録されています。
ボーナストラックは……
ボーナストラックは正直、ほとんどが茶番としか言いようのない下らない映像で、残念な出来です。くだらないことをやっている微笑ましさとかとかもなく、完全にスベってます。なぜこれを収録したのか疑問です。
唯一、ボーナストラックの中で「キッズショーに必要な33のポイント」というpdfファイルだけが真面目なコンテンツですが、特筆して良いテキストでも、一覧表として便利なものでもありませんので、まあ特に気にしなくて良いと思います。
理論は書籍のほうが分かりやすい
理論の説明については、同氏の書籍の方に詳しく解説されているのでそちらで学ぶほうが良いように感じます。映像だとあまり頭に入ってこないと思うのは僕の性質なのかもしれませんが、書籍のほうが分かりやすかったです。
と言うわけでこのレビューでは、DVDの中で演じられているキッズショー向けの6つの手品についてレビューしていきます。これに関しては書籍の方にも解説があるのですが、DVDの方が圧倒的に雰囲気を掴みやすいです。
バニシング・コーク・ババ
バニシングコークの演技です。
紙袋を使って消すタイプの製品ではなく、いわゆる魔法のマティーニです。
この手品って「なぜハンカチを一度かぶせるのか」という理由付けを上手く扱えていない演者を結構見るのですが、この演技のプロットではそこが非常に綺麗で、論理的にしっかりしています。
そしてこのマジックを、未就学児にするとしたら、子どもの認知段階として「消失」を不思議な現象として楽しめるようにするのが非常に困難なのですが、この演技ではそこを実にスムーズにクリアしています。
消えるぞ、消えるぞ、と予告しておいて、実際は違う現象に帰着させているのです。このアプローチは、キッズショーで消失のマジックを行う上で非常に勉強になりました。
ただ、オチの哺乳瓶の出現は、ちょっとどうかなと思いました。
僕自身、演技映像を見てドン引きでしたし、横で見ていた妻は
「うわぁ、気持ち悪ぅ……」
って言ってました。
一応ワワワワエンディングらしいのですが、このコメディは日本では通用しないな、と思いました。プロットとしてもオチだけ意味不明ですし……
ミルクピッチャー・プラス
ミルクピッチャーの演技なのですが、テンヨーの消えるミルクと併用して非常にビジュアルな現象に改良されています。
特にディミニッシングミルクのような現象を行う際、「減る」という現象ではなく「飲む」と表現しているのは非常に秀逸だと感じました。
液体の減少は、未就学児だとなかなか理解できないのですが、飲むという表現なら理解できます。
液体の取扱いのコツについても丁寧に解説されており、非常に勉強になりました。
さて、これは他の演技でも言えることなのですが、子どもの扱いが非常に雑だと感じました。
舞台に上げた子どもを笑いものにするジョークが多く、これはお国柄によっては確実に認められないなぁと思います。
例えば自分の子どもが、日本でのキッズショーで同じ扱いを受けたとしたら、二度とこのマジシャンは呼ばないなと感じると思います。
デビッド・ケイ氏自身も、自分は尖った演者だと仰っていますので、これがキッズショーのスタンダードでは無いと考えているのでしょう。
なので、この子どもいじりのアプローチやキャラクターをそのままコピーすると、痛い目を見るでしょう。
クリスタル・シルク・チューブ
クリスタルチューブの演技です。
シルクをチューブになかなかちゃんと詰められなかったり、シルクが繋がらなかったりというコメディの繰り返しがメインの、非常にコミカルな演技でした。
大人向けのジョークとしてコメディ要素を取り入れたクリスタルチューブは見たことがあるのですが、子ども向けのコメディとしては初めて見ました。
とてもおもしろい演技だったと思います。
普段はこんなコメディなキャラクターは演じないという方でも、4歳~6歳ぐらいを相手するには、これ以上良いアプローチは無いのではないでしょうか。参考になりました。
プレジデンシャル・ミスメイド・フラッグ
数枚のシルクで星条旗を完成させようとするけれど、なかなか上手くいかないという手品です。非常にテンポが良く、見ていて飽きない演技でおもしろかったです。
子どもを大統領に見立てて行うストーリーにも感心しました。
President's
Dayはアメリカのナショナルホリデーですから、大統領の日の行事モノのイベントではすごく効果を発揮すると思います。
日本ではもちろんマネできないですし、日の丸の国旗で似たような演技を行うと色々ややこしいクレームが来そうです。
参考として、非常に勉強になりました。
ブレッド・トリック
白いシルクを赤くしようと思ったら、パンになってしまうというマジックです。
RedとBreadをかけたジョークなのですが、当然日本ではできません。しかし子どもの反応を見ていると、しっかりウケているのが分かります。言葉遊びのおもしろさは万国共通なんだろうなぁと思いました。
この演技の中で、いくつか特殊なマジックウォンドが登場します。
ハタキが出てくるウォンドは、日本で全く同じように使用すると今のご時世だとセクハラになりそうです。
伸び縮みするシリーウォンドもすごく面白いですが、上手く扱わないと子どもが思った通りの反応をしてくれなくなりそうです。
「○○はしちゃだめ!」と言って、子どもに○○をあえてさせるというのは非常に難しい技術です。
言い方1つで、子どもはしゅんとして「ごめんなさい、もうしません。」となります。
そうならずに、子どもの行動を促すには熟練が必要で、一筋縄で真似できるものではないと感じました。
後述しますが、デビッド・ケイ氏もこれが原因の1つとなって、トラブルを引き起こしてしまっています。
巨大な風船ウォンドは、すごく良いなぁと思いました。
おみやげにもなりますし、扱いも楽そうです。
風船ウォンドがマジシャンに頭に当たるという、ちょっと暴力的な描写もありますが、上手くやればジョークとして扱えそうです。
値段によっては欲しいなと思いました。
さて、この演技映像の中で少しトラブルが起きていました。
パンが出てきたとき、子どもが「食べろ!食べろ!」とコールを始めたのです。
それにつられて他の子どももコールを始め、「食べろ!」の大合唱になります。
こんなトラブルよく有ると思うので、デビッド・ケイ氏はどんなユーモアで乗りきるのかなと期待して見ていました。
すると氏は、ちょっと困って、若干引きつった顔で、大きな声でプロットを進めて、子どものコールを完全に無視して次に進んだのです。
言うまでもなく、このコールの原因はシリーウォンドのときに作った空気です。
完全に自分が引き起こしたトラブルなのですが、氏は完全スルーという手立てを選んで場を沈めました。
正直、このトラブル現場を見て少しホッとしました部分もあります。
どんなに熟練したプロでも、そしてそのトラブルがいかに予測可能な簡単なものでも、いざその瞬間になってしまうと、やはり顔はひきつるし、声は大きくなるし、子どもを無視して次に進めたくなるものです。
どんな手段で乗りきれば良いのかなんて、その瞬間には分からなくなってしまうものなんだなぁと再認識しました。
しかし「食べろ!」コールなんて定番の状況でこうなってしまうのですから、もっと酷い状態になると氏はどうやって場を沈めるのか、それも気になりました。
書籍の方には一応載っているのですが、理論通りになんて氏自身でもいかないものだということは、この演技映像を見てよく分かりました。
トラブルをいかに打開するかって、本当に難しいテーマなのだと思います。
ワールド・グレイテスト・カラーリングブック
カラーリングブックを用いたコメディの演技です。
全体的にくどい印象で、日本の児童集団だと後ろの方から順に帰るか、別のことを始めてしまうでしょう。
マジシャンが困っている様子を演じるコミカルなキャラクターや、ワワワワエンディングも、日本ではほとんどなじみがないので、この演技を日本で成功させるのは難しいだろうなぁと思いました。
これをやるなら、テンヨーの魔法のキャンディーを演じた方が良いなと感じました。
全体の流れも、中程での遊びの入れ方も、オチに関しても、魔法のキャンディーの方がウケさせやすいと思います。
参考にする分にはとても良い!
以上、6つのマジックのレビューでした。
そのままマネして使える演技はほとんど無いと思いましたが、理論のパートや書籍の方で、デビッド・ケイ氏の言いたいこと、やりたいことをしっかり知った上でこの映像を見ると、非常に参考になる部分が多いと思います。
キラリと光る何かを自分のキッズショーに取り入れられる、そんな可能性を秘めたDVDだと感じました!
書籍かDVD、どちらか一方だけを購入するなら、書籍の方かなぁとも思います。
もちろん、両方しっかり目を通すのが一番だと思います。
DVDだけというのは、誤解が生じてしまったり理解が疎かになってしまいそうで、コストパフォーマンスも悪いので、個人的にはナシです。
0 件のコメント:
コメントを投稿