2025年3月8日土曜日

レビュー『The GREEN NECK System 2』


Gabriel Werlen『The GREEN NECK System 2』のレビューです。

同著者の『The GREEN NECK System』の続編という位置づけの本ですが、前作は読んでいなくても大丈夫です。私も前作は読んでいません。
なぜ大丈夫かというと、本書の本番は後半の「Equilibrium Force」の章だからです。ここがマジですごい。

いきなりこんな言い方をしたのは、本書を買った人の中には、読んでいる途中でもう疲れてしまって「Equilibrium Force」まで到達していない人も多いのではないかと思ったからです。
非常にもったいないので、途中をすっ飛ばして「Equilibrium Force」だけでも読んでください。

さて「Equilibrium Force」は、基本的にはボブ・ハマーの原理みたいな、3つのオブジェクトをごちゃごちゃやる数理原理です。(「GREEN NECK System」もそうです)
私がこの本を読もうと思ったのは、盲学校マジックの関係で、プロップレスなフォースに使えるボブ・ハマーの原理のバリエーションを探していたからです。

結果的に「Equilibrium Force」はプロップレスなフォースには使えない感じだったのですが、まあそれはそれとしてすごい原理でした。
シャッフル状態で始まる点や、操作がシンプルな点、演者も観客も負担が少なめな点など、良い点は挙げればきりが無いのですが、特筆してすげぇー!っていう部分を述べます。

それは、当てる段階まで3つのオブジェクトが何なのか演者が知らなくても良い点です。
つまり、お客さんに適当な小物を3つ用意してもらったら、何を持ってきたのか確認しなくても手順を始められます。

ということで、この原理が最も効果を発揮するシチュエーションは、リモートです。
より具体的には、手元が映っていないZOOM環境なんじゃないかなと思います。
ZOOMで「何かやってよ」と言われたときに「じゃあ、適当な小物を3つ持ってきて、机に並べてください」から始められるリモート手順が習得できます。
しかもそこで、何を持ってきたかは聞かなくて良いのです。
もちろん技術的に難しいことは何もないです。いや、すごくないですかこれ。

ちなみに小物が用意できないとき、プロップレスで演じられるかというと、可能です。
ただ個人的には、現物があるほうがインパクトが強くて良いかなと思います。

フォースに使う場合、すなわち特定の何かを選ばせるのには使いにくいです。
しかし本書の「Investigation」で使われている手法を応用すれば、フォースもいけそうです。変にぼかしましたが、要するにお客さんの当て方ですね。

その合わせ技としてプロップレスなフォースに使えるかというと、それは残念ながら使えなかったな、という結果なのですが、逆に私が求めている"プロップレスなフォースに使えるボブ・ハマーの原理のバリエーション"の条件が整理できたので、得るものはありました。
というか、「Equilibrium Force」を知ることができただけで充分な収穫です。
もうZOOMで急に何かやってと言われたら、間違いなく「Equilibrium Force」を使った何かを演じます。

途中まで読んだけど「Equilibrium Force」は読んでないなあという方、187ページからが「Equilibrium Force」なので、とりあえず読んでください。
このレビューを読んでいる場合ではないです。


一応、前半についても少し触れます。
まず1章目では基本的な「GREEN NECK System」について、具体的な手順を通して紹介しています。
面白かった手順は、リモートに特化した「Mental Monte」と、見えない力に操られる感じがある「Mantra」です。

2章目は「GNS Force」で、フォースに使うバリエーションです。
面白かった手順は「Scripted Will」で、原理の持つある種の弱点の克服というか、「GREEN NECK System」ではできないことをできるようにするアイデアが素晴らしいです。

3章目は「GNS Reversed」で、手続きを逆転したようなバリエーションです。
数理原理によくある、できるからやってみただけのやつかと思いきや、結構印象が変わって興味深いです。
面白いのは最初の原理説明の見せ方だと思います。なかなか良いです。

4章目は「GNS Extended」で、オブジェクトの個数を増やすバリエーションです。
興味深いことに、この章の原理はボブ・ハマーの原理ではなくジャック・イェーツの原理をベースにしています。
数理的にはこれまでと全然違うことをやっているのですが、だからダメということではなく、ボブ・ハマーの原理とジャック・イェーツの原理を「GREEN NECK System」という枠組みで統合的に記述したことにすごい功績があると感じています。
この2つの原理って、マーチン・ガードナーの数学マジック(Mathematics, Magic And Mystery)でも並んで出てきて、なんかガワが似てるなあと感じるものだったのですが、これらの似てる部分を抽象化して統合できたのは、今後の発展にすごく貢献すると思います。
面白かった手順は、まあ「Safari」かなと思うのですが、それよりも数学的な興味が大きいです。

そのあと5章目が「Equilibrium Force」です。ここを読みましょう。


MAJIONで買えて、1万円くらいですね。
まあまあ値が張りますが「Equilibrium Force」でそこそこ元が取れると思うので、この原理自体に興味がある人にとっては良い買い物だと思います。

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