2025年1月5日日曜日

レビュー『Nothing But Mystery』シリーズ


Jim Steinmeyer『Nothing But Mystery』シリーズ3部作のレビューです。

準備が少ないスタンドアップでのマジック作品集です。
同著者による『IMPUZZIBILITIES』シリーズとの重複があるということで、どのくらい重複しているのかが気になるところだと思うので、その辺も踏まえながらレビューしていこうと思います。
『IMPUZZIBILITIES』シリーズのレビューは下記です。


1巻『Nothing But Mystery』

・The Nickel Under Your Foot
想像の中でコインを踏んづけてもらい、そのコインに書かれた年号を当てる。
道具不要の数理トリック。ただ、この計算はさすがにバレると思います。

・The Six Chair Concert
色々な手法を駆使して行うチェアテスト。
難しいと思うのですが、バーグラスほどバキバキのメンタリズムではなく、なかなか興味深いです。

・Fingertip Mentalism
『SUBSEQUENT IMPUZZIBILITIES』に収録。(そちらでは「Fingertip Mindreading」)
道具不要の名作だと思います。

・The Three Ball Test
『DEVILISH IMPUZZIBILITIES』に収録。
道具不要で、ちょっと面白いです。

・The "Passing Fancy" Deck
『ENSUING IMPUZZIBILITIES』の「Equivoque:The Cardless Cantico」の実用例ですが、まあそのままです。

・Lesson in Wonder
お客さんと錯覚遊びをする感じで、クライマックスにサイキックタッチの現象が起きる。
慣れないと難しそうですが、面白いです。
クライマックスがバシッと決まればすごい反応が得られそうです。

・The Empty Bag
空っぽの紙袋の中身を複数のお客さんに触ってもらいますが、みんな違うものを言う。
道具の説明が詳しく、解説が分かりやすいです。
紙袋の中身についてはもうちょっと一貫性が欲しいかなというのと、3人目はちょっとナシかなって感じです。

・The Anomaly
結べないロープを結ぶパズル。
考えれば普通に結んでいるだけなのですが、パズルとしては面白いです。

・The Adept
ロープで縛られたアシスタントが一瞬でジャケットを着る。
まさに準備が少ないイリュージョンという感じで、実用的です。

・An Audience on Mars
『UNEXPECTED IMPUZZIBILITIES』に収録。
割と好きです。


2巻『Still Nothing But Mystery』

・Your Friend in Oz
『UNEXPECTED IMPUZZIBILITIES』に収録。
道具不要で、ちゃんと応用すれば使える良作だと思います。

・My Word!
『UNEXPECTED IMPUZZIBILITIES』に収録。
ここまでガチガチに手順を組んだことがすごいです。感服。

・Automatic Palmistry
『FURTHER IMPUZZIBILITIES』に収録。
これ自体は練りこまれていない手順な感じもしますが、道具不要のパーラーマジックとして大事な考え方がたくさん詰まっていると思います。

・3-Part Harmony
厚紙を使ったメンタルエピック。
デックなどの余計な道具を使わないので準備が少ないと言われればそうなのですが、もっと良い解決策が有りそうで、これをやるなら違う手法を使うかなあという感じです。

・The Read Letter
ポエムを使ってお客さんが思い浮かべた文字を当てる。
細かい部分まで工夫されていて、作りこみがすごいです。
英語の手順なので演じにくいのですが、面白いです。

・The Great Silverware Scam
『FURTHER IMPUZZIBILITIES』に収録。
これは微妙です。

・Mad Marketing
厚紙を使ったチェアテスト風手順。
『FURTHER IMPUZZIBILITIES』の「Enigmatic Poker」の応用と書かれていますが間違いで、「Enigmatic Poker」は『SUBSEQUENT IMPUZZIBILITIES』に収録されています。
しかも、使われている原理が「Enigmatic Poker」のものではなく、別の原理です。
その原理をそのまま使って演出を付けただけという感じです。

・Poetry in Motion
封筒を使ったチェアテスト風手順。
巧妙な仕組みで上手く攪乱していて面白いです。
英語のニュアンスがあまり分かっていないのですが、これがちゃんと自然に現象として成立しているのなら、とても賢い手順だと思います。

・Mrs Houdini Steps Out
ロープで縛られたアシスタントが脱出する。
これも準備が少ないイリュージョンという感じで、実用的です。
1巻の「The Adept」よりも演じやすそうです。

・Free Lunch
メニューから選ばれたランチの値段が予言されている、2段階の手順。
『ENSUING IMPUZZIBILITIES』の「Dining Out」のアレンジという感じです。
原理の面白さは「Dining Out」が良いと思いますが、「Free Lunch」はやりようによっては日本語でできそうで良いです。
2段目の現象は正直いらないと思います。


3巻『With Nothing But Mystery』

・The 4 Envalope test
4つの封筒のうちひとつに、お客さんが頭の中で選んだカードが入っている。
カードの扱いに賢い工夫があって、面白いです。
ただこれは、準備が結構大変です。

・A Tin Can Phone
『ENSUING IMPUZZIBILITIES』に収録。
準備不要にできそうな手順に、演出のためにあえて面倒な準備をするのですが、その価値があると思える見せ方です。

・Stand Up for McDonald
グラスを使ったマクドナルドエーセス。
スタンドアップではあるのですが、そこまで視認性は良くないので、使いにくいかもしれません。

・Hamlet, Jack of Denmark
ハムレットのパロディのサムザベルホップ風手順。
使うカードの構成がちょっと笑えますが、全体としてはストーリーがそんなに面白くないです。

・La Forza del Destino
3つの紙袋を使った、選ばれたカードがボトルの中に飛行する手順。
現象も面白く、手法も面白いです。
複数のお客さんが参加できて、現象も分かりやすいので他のお客さんにも伝わります。
良い手順です。

・The Unthinkable Stack
お客さんが思い浮かべたカードを当てる。
これで上手くいくんだという驚きがありますが、ごちゃごちゃしすぎていてやろうとは思わないかなという感じです。
あんまりスタンドアップっていう感じでもなく、普通のクロースアップマジックな気もします。
似たやつで『VIRTUAL IMPUZZIBILITIES』の「The Deck That Knows」という名作が有るので、まあそっちをやるかなって感じです。

・The Sargical Cards Across
封筒を使ったカードフライト。
とても賢くて面白いです。
ちょっとだけ難しそうな部分があるのですが、そこさえ上手くできればレパートリーに取り入れやすい、即戦力な手順だと思います。

・The Poem What Reads Your Mind
『CURIOUS IMPUZZIBILITIES』に収録。
道具不要でよくできた手順です。

・Verse and Obverse
ポエムを使った単語当て。
こんなこと良く考えたなという感じです。
なんか気づかれそうな気もするのですが、大丈夫なのでしょうかね。
ひとつ前の「The Poem What Reads Your Mind」のほうが完成度は高いかなと思います。

・Six Chairs, No Waiting
お客さん1人だけで行うチェアテスト。
現象は面白く、チェアテストをカジュアルにしたプロットも良いです。
手法も工夫されているのですが、後半で減速していく感じがありちょっと残念です。

・Imaginary Creatures
想像の中で最後に残る空想上の生き物を当てる。
道具不要で、2巻の「Your Friend in Oz」と比べると頭の中での操作が少しシンプルになっています。
ただその分、これはさすがにバレるだろうなという操作になってしまっています。惜しいです。

・A Pretend Magic Show 
『CURIOUS IMPUZZIBILITIES』に収録。
道具不要で、頭の中でマジックショーをするという発想が素晴らしいと思います。


全体として、結構『IMPUZZIBILITIES』シリーズと重複しています。
しかも、これは良いなと思うやつが割と重複分のやつなので、『IMPUZZIBILITIES』シリーズを読めばそれで良いかなとも思います。こちらにはない名作も読めますし。

特筆しておすすめするとすれば、ロープに関する作品は良かったです。
少ない準備でイリュージョンを見せようという目的がはっきりしていて、それを実現しています。(3巻にはロープマジックがないですが……)
また、各巻に載っているチェアテスト風のアプローチも挑戦的で、勉強になりました。

2巻のイントロダクションを読むと、このシリーズでテーマにされている"準備が少ない"というのは、クルーズ船などでのレパートリーを想定しているみたいです。
なので確かに、これは準備が大変だなあと感じた手順も、一度しっかり準備して船に乗ってしまえば、あとは繰り返し演じられるようなものでした。
ロープは荷物が少ないですし、椅子は船で借りられそうです。
基本的に消耗品もなく、道具の破損リスクも少ない手順がそろっています。

道具不要の手順も多いですし、クルーズ船のようなシチュエーションでマジックを演じる機会が多い人にとっては、少ない道具で持ち歩けるレパートリーが予想以上に増えそうで、良いかもしれません。

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