2013年12月22日日曜日

レビュー「第10回アンタイトルドコンサート」


20131221日に行われた、第10回アンタイトルドコンサート「The Excellent Night」のレビューを書きたいと思います。


いつも通り、率直に書かせていただきます。





第1部


1:Celebrate Your Happiness(京都大学)

女性のパラソルの演技でした。助手なしで、1人での演技です。
京大の学祭でも拝見していた演技で、基本的には同じ手順でした。

台が結構かわいらしい感じで、出現するものもパラソルやファウンテンシルクなどカラフルで楽しいものだったのですが、演者本人の動きはがさつな感じで、かわいらしいと言うよりは勇ましい印象を受けました。
また、手順にも一貫性が無く、傘の出現の合間にファウンテンシルクやストリーマーなど関係のない現象が挟まっていた感じです。それを使って何かをするというわけでもなく、出現の理由付けも特にないので、何がしたかったのだろうかと感じました。

そんな道具と演技のミスマッチ感と、手順の一貫性の無さから、全体構成がはっきりしない演技となりました。
台が小さいのは、京大の発表会との兼ね合いで仕方がないのでしょうけれど、できればアーチ部分の横幅はもう少し広げておくべきだと思います。演者1人通れるかどうかの幅しかなかったので、窮屈に感じました。

動きも大舞台に慣れていないのがひしひしと伝わりました。
大舞台用に調整すれば、より良い演技になると思います。


2:蜃気楼(関西大学)

四つ玉です。
不思議さを追求したということなのですが、僕には不思議というよりも「不自然さ」が際立って見えました。

例えば右手に持ったボールを左手に握りこみ、それが消えるとします。このとき、左手にモーションを行う前に右手を開くのは、お客さんのディレクションが一度右手に移ってしまい、また左手に戻ったときにはいつの間にか消えているので不自然です。一瞬関係のないところにわざと視線を誘導した「あっ!UFOだ!」の手法だと感じてしまいます。
例えば先ほどの例で、右手が完全にパーになっていると、隠し持つことが出来るはずないので不思議です。でも、ボールを左手に握りこんだはずなのに、右手をわざわざパーに開くのは不自然です。ナチュラルな状態にすべきだと思います。

終始、そんなイメージの動きが多かったです。手順を追いながら見ているマジシャンにとっては不思議に感じると思いますが、純粋に手品を見に来たお客さんにとっては不自然に感じる動きが多いでしょう。

とは言ったものの、僕自身、技術や手順構成はすごく楽しむことが出来ました。
マニアックな目線で、おお、すげぇと思いながら見させていただきました。

残念なのは、カラーチェンジの部分です。
あとで知人から言われて知ったのですが、途中でカラーチェンジが結構入っていたそうで、赤から緑のチェンジも含まれていたと。色弱には視認できない色の変化です。
僕も全く分かりませんでした。
色弱は、日本人の2.5%ほど居るとされています。
ということは、あの会場に居たお客さんのうち40人に1人は赤から緑の色の変化に気づいていないということになります。
もっと多くの人に楽しんで貰える演技にするためにも、色のチョイスは再考して欲しいなと思います。


3:Luv letter(高知大学)

カードとバラを使った、しっとりとした演技です。
昨年の四つ玉に続き、2度目の出演です。

特筆して面白いとは感じませんでしたが、技術自体は安定していて、特に言うことのない演技だったと思うのです。

ですが……

演技途中で、赤い封筒からカードが出てくるシーンが有ったり、大きな赤い封筒が出てきたり。
うーん、どこかで見たような。

世界的に有名になったアクトに、流行は左右されるものだと思うので、プロの演技をパクるのは絶対ダメとまでは決して思っていないのですが、ここまであからさまなのはどうなんでしょう。
動きなんかもDavid Sousa氏を意識しているように見えましたし、やはり「赤い封筒」というモチーフをそのまま流用しているのはパクリ感が強いと感じました。

終わり方、バラを特に使わなかったのはちょっと唖然としました。


4:カラルの月(近畿大学)

ライトポイのジャグリングです。
司会が前もって「次はジャグリングです」とアナウンスしていたので、違和感無く見ることが出来ました。
「独特な曲を使った」というアナウンスもあったのですが、別に独特な曲ではなかったです。
前半、曲の打点というよりも単純に拍子に合わせて演技していたので、なんとなく単調なイメージを持ったのですが、後半に行くにしたがってどんどん盛り上がり、クライマックスが綺麗に決まっていたと思います。


5:if you can dream it, you can do it.(近畿大学)

ウォンド&シンブルのマニピュレーションです。

ウォンドが非常に安定しており、スタイリッシュな動きの中で演技されていて、見ていて心地よかったです。
途中のウォンド&シンブル部分は、シンブルの謎の物体感が払拭されておらず、何をしているのか分かりにくかったですね。これはウォンド&シンブル全般に思うことなのですが。
シンブル部分の演技は至って普通で、少し全体の流れが減速してきているように感じました。

シンブルの最後に8本シンブルを示したとき、なんだか地味な流れになって来たなぁと少し退屈に感じたのですが、そこからシンブルがニョキーッ!っと8本ウォンドになったのは良いクライマックスエフェクトでした。

ウォンドが4本一気に消えるシーンなども有り、せせこましい演技になりがちなウォンドやシンブルを、かなりダイナミックな演技へと昇華させていました。

面白かったです。


6:だいすき!!(大阪大学)

アンタイ初演目、ダイスです。

ダイスというと、謎の四角い筒からなぜかサイコロが出てきたり、空中からなぜかサイコロが出てきたり、シルクの中からなぜかたくさんサイコロが出てきたりと、意味不明な演目の印象が強かったのですが、この演技は違いました。

スケッチブックを利用して、絵に書かれたサイコロがどんどん立体になって飛び出すという演出で、プロットが統一されていました。
スケッチブックのおかげで、立体サイコロが登場したときの「なぜサイコロ?」感は無く、スムーズに現象が頭に入ってきます。
また、2次元から3次元への変換という、また新しいジャンルの現象として終始一貫した構成を組んでいたのも素晴らしいです。

物自体も取り扱いやすく、やってること自体も特に難しいことではないですが、コンパクトな構成ながら最高のパフォーマンスを生み出していました。
阪大ではずっとダイスという演目があり、また近年スケッチブックを利用した演技の優秀な演者が多く生まれています。
そんな阪大だからこそ、ダイスとスケッチブックを上手く融合したこの演技が作り出せたのだと思います。

ダイスの新たな可能性、また学生マジックの新しい可能性を見ることが出来ました。
本当に面白かったです。
個人的には、この演技だけで入場料の元が取れたと思っています。



第2部


7:morning and night(近畿大学)

モヤ扇を使った女性のファンプロダクションでした。
全体的に何がしたいのか意味不明で、台も妙な設定をつけたようなデザインでしたが何のつもりなのか分かりませんでした。

タイトルから察するに、朝の部分と夜の部分を構成し分けたのでしょうか。
音響効果なんかも使って演じ分けようとした努力は分かりますが、まるっきり伝わってません。
照明効果も、音響効果も、演者の演じ方も、表現不足です。

途中のシーンで、中央に用意されたカーテンの後ろに立って、カーテンが閉まり、再び開いたときに演者の衣装が変わっていました。

これは、ドレスチェンジではなく単なる早着替えですね。

後半は煌びやかなドレスで演技していましたが、動きはぎこちない中年男性のような感じで、のそのそと動いていました。¥
手品自体も不思議ではなく、ファンや羽の出現の際にモゾモゾすることが多かったり、舞台奥を向いた状態でファンを出現させたりという場面が多かったように感じます。

最後の方、舞台上をくるくる回りながら移動していましたが、踊っているとか舞っているとかいう感じではなく、ちょっとどうかしちゃった風にしか見えませんでした。
回りながらファンを出現させるのかと思ったら、舞台奥を向いて静止。そしてファンを出していました。

これは、手品として成立していたのでしょうか。

ところで、客席で、僕の2つ隣の席に拍手がすごくやかましいオジサンが座っていました。
演技が始まるときや終わるとき、大きな現象が起こったときに大音量の拍手をしているのです。
そのオジサンが、この演技のときだけほとんど拍手をしていなかったのが印象的でした。
カーテンが閉まるシーン、近くの席では「ん?」「え?」「は?」が飛び交っていました。


8:8beat(名古屋大学)

CDマニピュレーションの演技でした。
ケースを使ったり、CDの出現、移動、カラーチェンジなど、オーソドックスな演技でした。

ただ、技術や見せ方が全く追いついていないです。
もう体の前に手を近づけて、肩や脇も小さく縮こまって、せせこましい演技になっていました。
技術的な部分がいっぱいいっぱいなのが伝わって、見ていてハラハラしました。
アンタイの選抜に通るために色々考えたこととは思うのですが、個人的にはあんまり難しいことをやろうとは思わなくて良いんじゃないかなぁと思います。

パンフレットのコメントに「ソルヒを愛しています!」と書いてあるのですが、これはいかがなものでしょう。
ハンソルヒって、手品関係者じゃないお客さんは知っているのでしょうか?
身内に向けた、内輪ウケを狙ったコメントに見えて寒いです。
手品関係者にだけ見てもらって、手品関係者にだけ喜んで貰えれば良い、そんなスタンスの演技なのでしょうか?
誰に向けてのショーなのか、意識した方が良いです。


9:Eightring Manipulation(同志社大学)

8リングを使ったジャグリングです。
パフォーマー謳歌さんのリングアーツの影響が強いのだと感じました。
ときどき右手のリングが幕と平行になっていなかったのが少し残念でしたが、上手で面白かったです。

この演技の前には司会からの「次はジャグリングです」のアナウンスが入りませんでした。
ボールなどのトスジャグリングであれば、ああ、次もジャグリングを挟むんだなとお客さんにも伝わったと思いますが、8リングはちょっと独特です。
後ろに座っていたお客さんが「いまのは手品か?」「ジャグリングかな?」と困惑していました。
マジックショーにジャグリングを当然のように入れるパターンって結構有ると思いますし、箸休めの意味でも良いとは思うのですが、お客さんにうまく認識されなかったパターンだと感じました。


10:melting of memento(同志社大学)

マスクを主体として、カードも少し交えたマニピュレーションでした。
昨年のウォンド演者で、最近ウォンドの本番が有ったと思うのですが、今回はウォンドじゃありませんでした。お疲れ様です……

全体的に、特に冒頭部分、照明が暗くてほとんど何をやっているのか分かりませんでした。
マスク自体は、やはり暗くて視認が難しいこともありあまり雰囲気が出せていなかったように感じます。

仮面は人の顔なので、基本的にマニピュレーションの際もまっすぐ、悪くとも横向きにした方が、仮面の持つ不気味さが出ると思っています。
また、ミリオンマスクの際に床に捨てすぎると、出てるときは結構たくさん出たような気がしてたのに床を見るとそうでもない、という印象を受けてしまいますので、あまりオススメできない方法です。

曲の最後も中途半端なフェードアウトで、彼のビタッとした曲ハメではありませんでした。本来は最後も合う予定だったのでしょうか……?

とりあえず、何がしたいのかよくわからず残念だったので、もう少し良い環境で改めて見たいです。


11:Mad∞end∞nighT(鳥取大学)

特徴的なキャラクターで演じられる四つ玉でした。

パンフレットには「最高に狂った演技をどうぞ!」とコメントされていますが、キャラクターが定まっていないだけで、ただの一般人でした。いや、一般人のイケメンさんでした。

思うに、マッドハッターのような役柄を演じたかったのではないかなと思います。
しかし途中から、クラウンのような要素が入ってきて、キャラクターが無茶苦茶になっていました。
人を欺く、陥れる役柄のマッドハッターと、おどける、人を喜ばせる役柄のクラウンがごっちゃになってしまうと、もうどうしても役は固められないと思います。

どちらかに絞って、きっちりとキャラクタライズすべきだと感じました。
多分、マッドハッターが適役だろうなと個人的には思います。

手品自体は、そんなに難しいことはせずシンプルに四つ玉を演じており、見やすくて良かったです。


12:ROMANCE FOR STRINGS(京都大学)

最後はグラスのプロダクションです。
キャンドルなんかも交えて、白いクロスの掛かった丸いテーブルの上を装飾していくプロットでした。

しかし流れに一貫性が無く、何がしたいのかはよく分からない印象です。
キャンドルをテーブルに飾るときに火を消すので、すぐにおもてなしが始まるわけではなさそうです。
ですが、出現するグラスには当然ながら飲み物が満たされています。
この辺りでまず、プロットに整合性が取れていないように感じます。
グラスタワーの出現も、バラのブレンドシルクからの出現です。バラに意味は無かったように思います。
使う道具の統一感と、プロットの因果関係をきっちりしていくと、もう少ししっかりした手順になるのではないかと感じました。

ここまでは手順のプロットの話で、そんなことはどうでも良くて「華やかに」「綺麗に」グラスを出現させ、台に飾って行きたいだけなのであればさほど気にすることでは有りません。
ですが、そうだとすればもっと、現象が起こるタイミングや示しの間を精査する必要があります。
間延びする部分が非常に多く、

「いまから何かが起きるぞ!」

という間がしばらく続いて、お客さんが

「……あれ?どうしたんだろう、何も起きないぞ?」

と思った辺りで現象が起きる、という場面がしばしばありました。
「華やかさ」や「綺麗さ」をとにかく重視するのであれば、そこをキッチリやらないといけないなと思います。

大舞台の動きに慣れていないのもよくわかり、大舞台だからこそ種が見えてしまう道具が有ったり、大きく動こうとしすぎて上手く現象が成り立っていないような場面も見られました。

京大は大舞台で練習する機会が少ないと思うので、なかなかフィードバックが得られなくて大変なのだろうなぁと思います。
まだまだ未完成な、物足りない演技だと感じました。

そして、演者の持つ雰囲気と演目の持つ雰囲気が、ミスマッチだったように思います。
これは、どうすれば良いとはなかなか言えません……自分の持つ雰囲気を変えるのって、難しいと思います。
自分に合った演技を選ぶことも、1つの大事な要素なんだなと感じました。


司会(同志社大学)

影アナの段階で、すごく発声の良い司会者さんだなと感じました。
実際に司会として出てくると、姿勢がすぐに崩れてしまったり、多少のアラは目立つ感じだったのですが、さほど問題になるレベルではないと思います。
歴代のアンタイの司会者の中では上手い部類に充分入ってくると思います。

少し気になったのは、お客さんとのやり取りです。
拍手の練習の場面で、予想より早くお客さんが拍手をしてしまいました。
これ自体は、自然にお客さんに拍手して貰える素敵な語り口調だということで良いのです。
しかしそこで「これでも上出来なのですが」、そして拍手の練習の後「さすがです。」という発言が。
内容だけでなく、全体的に話し方が高圧的な印象を受けました。
「盛り上げる司会」に鋭く特化していて、お金を取って開催しているショーで行う丁寧な司会としては上手くいかない部分も有ったのでしょう。

総じて、聞き手を選ぶ司会だったなぁと思います。
僕の周りでは「カチンときた。」「あの司会はムリ。」という意見も聞き、割と不評でした。
若い女の子に高い目線から接せられることに抵抗がない人なら、すんなり受け入れるができると思います。


幕間なし

リピーターの方は皆さん感じていることだと思いますが、寂しかったですね。
アンタイ幕間4連覇の龍谷大学の彼が卒業し、今年は誰が来るのかと思っていましたが、まさかの結果でした。
リピーターとしての残念感もあるのですが、やはり幕間ナシだとこの長丁場を見るのは少し疲れますね。
ショーの幕間って大事なんだぁと、改めて実感しました。


その他

パンフレットが……ビラとの落差にびっくりしました。


全体

全体を通して、昨年よりも面白く、楽しめるショーだったと思います。
全体構成に変に演出を付けているわけではなく、ストーリー仕立ての演者も特にいなかったので、発表会形式のマジックショーとして率直に良かったです。

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