第26回新・箱根クロースアップマジック祭(2019年)のときのレクチャーノートで、訳は佐藤大輔さんです。
今さらこのレクチャーノートに興味を持ったきっかけは、私の盲学校マジックのレパートリーにコインマジックが少ないなあと気づいたことでした。
これまで参考にしてきたコインマジックの冊子として、Aldo Colombini『Easy Coins』や、Nick Trost『Coinman's Packet』などが挙げられます。
これらにも良い作品がたくさん載っているのですが、あくまで作品集の形なので、盲学校マジックにおけるコインマジックの考え方みたいな部分は自分の中でぼんやりしたままでした。
そんな中、この『ルビアレスのやさしいコインマジック』が、似たようなコンセプトの作品集でありながらなんと理論的な部分についても書かれているということを最近知って、興味を持ちました。
読んでみたところ、とても良かったのでレビューすることにしました。
まずは具体的な作品についてレビューして、最後に理論的考察について盲学校マジックの観点からの感想を書きます。
・現金過不足
印のあるコインとないコインの枚数を、観客が正しく数えられない。
良いできた原理で、ほぼセルフワーキングのやさしいコインマジックです。
個人的にはコインに印を描くのはちょっと抵抗がありますが、やり方次第で違う方法にもできそうです。
・放り投げの予言
コインをよく振って取り除いていき、最後に残るコインが予言されている。
これも良くできたやさしいコインマジックで、やはり印を描くのですが、なんかうまいことできそうです。
もともとはカードマジックだったということですが、コインに印を描くという方法が演出としても上手く噛み合っていて、違和感がないです。
・ころころ変化するコイン
ユニークな手法のカード当て。
コインというよりもポーカーチップみたいなちょうど良いサイズの円盤を使ったマジックで、それがたまたまコインだったという感じです。
この作品と、先ほどの「放り投げの予言」は、コインマジックの手法を使ってこんな見せ方ができるんだ!と新たな発見ができるのでオススメです。
・中国の穴
アンビシャスなコイン。
やさしくは……ないかなぁ。
面白いかというと、めちゃめちゃ面白いです。
・ハンカチでの一斉消失
ハンカチを使ってコインを消す。
簡単で、イラストも多く解説も分かりやすくて良いと思います。
・ハンカチ間での交換
観客に持ってもらった銀貨と銅貨の入れ替わり。
シンプルながら上手くできています。ハンカチのおかげで割とやりやすい気がします。
・ハンカチでの変化
ハンカチでコインを包むと変化する。
コイン以外にも応用できる有用な方法だと思います。
・現金な予言
コインがクライマックスになるカードマジック。
意外性があって面白いです。かっちりとした印象で、アクトの最後に演じられる良い作品だと思います。
・ちょっとしたタンゴのタッチを添えて
「現金な予言」の演出のバリエーション。
これも面白いです。「現金な予言」よりは軽くなる印象で、上手く使い分けられると良いと思います。
ちょっとコツが必要かなという感じですが。難しいかどうかは人によるかもしれません。
・アインシュタインがひっかかったトリック
小銭の数理トリック。
コインマジックのレクチャーノートでこういう作品も知れると楽しいですね。
・チョコラテアンド
コインで石取りゲームのようなことをすると、予想外のクライマックスになる。
面白い!好き!やりたい!
原理も演出も素敵で、まさにこういうのを求めていました。
盲学校マジックの観点からも考えられる部分があり、とても勉強になりました。
「理論的考察」の盲学校マジックの観点からの感想
理論的考察の中で、特に「テクニックをわれわれに合わせるということ」が勉強になりました。
盲学校マジックのコインマジックがなかなか作れない原因として、既存のテクニックをそのまま適用できる例がかなり少ないということが挙げられます。
私も、盲学校マジックに使えるテクニックがどこかに眠っていないかと、本を漁ったりしました。
しかしこの考察を読むと、どうやら既存技法探しよりもやるべきことがあったようです。
P26に"結局のところ、自分自身をしっかり理解することに尽きるのです"と書かれていました。まさにその通りです。
すなわち「こういう現象を起こすために、こういう手法をとりたい。ではそのとき、私(演者)はどう動くのか」を深く考える必要があると分かりました。
そしてもちろん、動きの中で何かシークレットムーブをやる必要があるわけですが、具体的に何に気を付ければ良いかという部分は「微動(マイクロモーションについて)」が参考になりました。
当然これは晴眼者に演じる前提で書かれた考察ですが、盲学校マジックに活かせる部分も大いにあります。ここから「身体操作」「ゆっくりゆっくり」までの考察を注意深く読んで、盲学校マジックにおける微動とは何なのか、自分なりの考えをまとめていく必要があると感じました。
これまで朧気だった、盲学校マジックにおけるコインマジックの考え方が、一歩前進できた気がします。
もう少し俯瞰した立場からしっかり考察すれば、盲学校マジックにおけるカバーやイントランジットアクションの概念にも到達できるような気がします。まあそれはちょっと言い過ぎかもしれません。
歴史に残る良い冊子でした。日本語で読めてうれしいです。
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