ナカムラアツキ『Mousa』のレビューです。
ナカムラアツキさんによるオリジナルスタック「ムーサスタック」の解説冊子です。
この冊子が気になっているけれどもまだ入手していないという方は、はたしてどういう特徴を持ったスタックなのかなとか、あえて学ぶメリットがあるのかなとか、(特に何かしらのスタックをすでに利用している場合)そういった疑問から踏みとどまっているのではないでしょうか。
そこで、私もムーサスタックについてしっかりと理解できたわけではないのですが、この冊子に興味を持っているけれども足踏みしている方々に向けて、ムーサスタックの魅力を紹介してみようと思います。
まず、ムーサスタックが何に似ているかというと、ネモニカスタックです。
この辺りは冊子の最初のページに書かれているのですが、そもそもムーサスタックはネモニカスタックから派生したスタックだそうです。
冊子の中ではアロンソンスタックやメモランダムも登場するのですが、それらは発展的な話題として挙げられている感じで、大きな枠組みとしてムーサはネモニカの構造を踏襲しています。(ここからスタック名を略して言うことにしました)
では、ムーサにはネモニカと比べてどのような利点があるかというと、ネモニカよりもムーサのほうがニューデックオーダーから早く組めるという点が挙げられています。
どのくらい早いかというと、これは手数をどのように数えるかで解釈が変わってくるのですが、少なく見積もって1手、多く見積もって26手ほど早く組めます。
また、ステイスタックへの変換もネモニカよりムーサのほうが早いです。これは仕組み的に、ニューデックオーダーからネモニカ/ムーサを組むのと同じくらいの差で早いです。
この約26手の節約がすごくて、ニューデックオーダーからネモニカを組む際に煩わしいと感じる部分をかなり排除できていると思います。
厳密には、ファクトリーオーダーからイニシャルオーダーに変換する部分の煩わしさは残っているのですが、これはネモニカにおいても新品のデックを開ける場合に仕方なくやっている作業みたいなところがあって、そもそもJuan Tamariz『Mnemonica』にはネモニカのイニシャルオーダーをもってニューデックオーダーのように扱う作品もあります。(本書『Mousa』の冊子の中でも引用されていますね)
そんな早さによって、ムーサを使うことにどんな恩恵があるかというと、取り回しがかなり楽になります。
ムーサは、ステイスタックやニューデックオーダーとの関連性に特化した、軽量版ネモニカという感じです。
ネモニカならではの手順をがっつりやりたい場合は面倒でもネモニカを組んで、ネモニカの持つステイスタックやニューデックオーダーとの関連性のみを使った手順を演じたい場合は、26手ほど早くムーサを組んで演じる、みたいな使い分けができると思います。
しかし、ムーサに取り回しのストレス軽減のメリットがあったとしても、すでにネモニカを使っている人にとってはムーサを導入することに大きなコストが予想されると思います。
それはメモライズドデックの観点から、新しいスタックであるムーサを覚えなくてはならないのか……ということです。
この部分もムーサはよく考えられていて、本書『Mousa』ではネモニカのメモライズドデックの側面を流用した手順が解説されています。
つまり、ムーサを使ったメモライズドデックのような手順を、すでに覚えているネモニカの並びを使って演じられるように工夫されているのです。
ということは、ネモニカをすでに覚えている人は、新たにムーサを覚える必要はほぼないかもしれません。これも、ムーサは軽量版ネモニカみたいだなと感じたポイントのひとつです。
この喩えが合っているのか怪しいのですが、ネモニカがiPhone だとしたらムーサはApple Watch みたいな感じです。
iPhone を使えば数多くのことができますが、ちょっとしたことならApple Watch で事足りる、みたいな。でもApple Watch はiPhone も使っているからこそ連携して活きる場面が多いですよね。
まあ私はiPhone もApple Watch も持っていないので、変なことを言っていたらすみません。
最後に、ムーサの持つ面白い性質を紹介します。なお、本書『Mousa』ではムーサだからこそできる作品も紹介されているのですが、特殊なスタックがあればそのスタックだからこそできることは当然あるはずなので、ここでは触れず、ムーサの数理的な側面に注目します。
ムーサの並びにおける14枚目から26枚目は、不完全なステイスタックになっています。
ここで不完全というのは、ペアが厳密にはメイトでなかったり、そもそもペアができなかったりするということです。
ネモニカの構造を踏襲したムーサは、全体の並びがステイスタックを攪乱したような構造になっているのですが、その中にパケットとして不完全なステイスタックが入れ子のように含まれている状態になります。これはネモニカにはない特徴です。興味深いですね。
この不完全なステイスタックは奇数枚のステイスタックであるというのも面白くて、ストラドルファローシャッフルの(ステイスタックに関する)原理が使えます。
不完全であるというのは良し悪しだと思うのですが、使い方が広がる面白い構造だと思いました。
そして驚いたことに、この入れ子構造はアロンソンスタックに似ています。
これはアロンソンスタックに不完全なステイスタックが部分的に含まれているというわけではなく、単に14枚目から26枚目の数理的な構造がムーサとアロンソンスタックで似ているというだけです。
興味があれば、見比べてみてください。
全体として、すでにネモニカを使っている人なら学んで損はない有益な内容です。
また、ネモニカが重く感じられて実勢投入できていない人にとっては、ムーサが突破口を開いてくれる可能性がありそうです。
もちろん、実際にスタックは使わないけれど、その数理的な構造が好きという人にとっても、ムーサは興味深い対象になると感じました。
ナカムラアツキさんのショップで買うことができます。
興味があれば、足踏みせずにぜひ読んでみてください。
0 件のコメント:
コメントを投稿