2014年5月29日木曜日

レビュー:堂本秋次さんレクチャーノート(2作目)




堂本秋次さんの2冊目のレクチャーノート「How many lumps do you have?
」のレビューです。



ギャフカード無しのパケットトリックのみで構成された5作品+αが紹介されています。
前作の倍のページ数、と言っても写真が豊富に掲載されているということで、読むのが大変とかそういうことはありません。むしろ、パケットトリックの解説はごちゃごちゃしがちな割に、前作より読みやすい印象です。


1- Quicksilver


盛りだくさんのスリーカードモンテ。スペードのエースと、2枚の赤いキングを使います。
クライマックスにすごく意外性があり、それでいて普通のスリーカードモンテのカード構成で出来る良作だと思います。
あとでポール・ウィルソンのジプシーモンテの話題をちょっと出すのですが、ジプシーモンテも大きなクライマックスのあるスリーカードモンテです。しかしカードの構成から取扱いが難しい印象を受けていました。その点この Quicksilver って、カードの取扱いに神経質にならなくてもできるスリーカードモンテで、なおかつ大きなクライマックスがあるので良いなぁと思いました。
僕みたいに、ジプシーモンテやりたいけどハードルが高かった人にはクリティカルに面白いと思います。

キングのメイトカードで「一般的にはバレない」とされるポイント、このハンドリングだと結構気づかれる可能性が高いと思います。特に8歳~12歳位の子供相手に演じた場合には顕著に。
この危険性を回避するために、僕だったらキングじゃなくてジョーカー使うかなと思います。まあここはレクチャーノートのコンセプトとか、想定されている環境の話になってくるので、特に否定的に捉えたとかではないです。

最初に手順を追ってみたときは、内容が盛りだくさんになりすぎていて、根幹になるプロットがぼやけている気がしました。
クライマックスへの伏線として、途中でカードトゥーポケットの現象が起きる点は良いと思います。ただ他の、カードのチェンジとか全部スペードのエースになるとかは、あまり必要ないんじゃないの?と感じました。
一応ちゃんとプロットとしてはモンテの中で行われていますが、どうも少し寄り道している印象で、その中で使われている解決策も、さらりと流してしまっているというか、それならわざわざ寄り道しなくても、と思ってしまいました。

しかしながら、いざその辺りを省略した構成を考えてみると逆に、カードトゥーポケットの部分だけが違和感として目立ってしまい、あまり伏線として機能しないかもしれないということに気づきました。
そういった意味で、途中でプロットから少し寄り道したような現象をちょいちょい挟むのは、伏線を伏線として機能させるための必要十分な内容として研磨された結果なのかな、と。

要所要所、方法としてもっと良い解決策が有るのでは?と感じる部分が有りました。
シェイプシフターよりもバリアントスルーザフィストの方が適している場面じゃないかなぁとか、3枚すべてがスペードのエースになる場面ではそれこそジプシーモンテで行われている手法の方が良いんじゃないかなぁとか思いました。

この3枚すべてがスペードのエースになる場面、「提案してる方法じゃなくて普通にフラッシュトレーションカウントでも良いよ」って書いてありますが、良くないでしょ。変化したように見えないですし、全然不思議じゃないです。と言うか、堂本さん自身もこれ絶対「良いよ」って思ってないでしょ。どう考えても堂本さんの提案している方法の方が適してます。そこは自信持って良いんじゃないかと。



2- Acheron


盛りだくさんにしたラストトリックです。
うーん、盛りすぎかなぁ。手法も何だか強引で、あまり良い印象は受けませんでした。この手順で「あ、何かしたな。」って印象を一切受けさせない人って、相当上手い人だと思います。
堂本さん自身も、名作いじっちゃイカンねって書いてて、本当にその通りだと思います。

でもまあ、あれですよね。「ラストトリックって短い手品だけど、これ長くしたらどうなるんだろ?」って、みんな若いうちは1回ぐらい考えますよね。
そうやってアレコレいじった結果、やっぱ原案の方が良いやって結論に至った人、僕だけじゃなくて安心しました。



3- Outfox


ジャック4枚と赤いカード4枚で行うリセットですが、最後に赤いカードがフォーエースに変わります。
冒頭に、この作品への堂本さん自身の思いが書いてあり、共感できる部分はありました。
リセットとかそれに似た手順って、手順の都合で最後にできあがる「状態」を、いかに「現象」に昇華するかがクライマックスの綺麗さを作っているという印象を、確かに僕も持っています。
なのでこの手順は、堂本さんが
「ちゃんと4枚の移動が完了するのを見せられないか」
と、その解決のためのプロットとして
「4枚の赤いカードをフォーエースに変えられないか」
というプロブレムに立ち向かった作品だと認識しています。

結果としてはどうにも強引で、やっぱり荒削りと言うか、綺麗なクライマックスにはなっていないと思います。
最後の部分、そうすれば確かに上手くいくんだろうけど、現実的にそれが良い方法だとは思えないし、そうしないでいかにプロブレムを解決するかが見たかった、って感じです。
プロブレムが一人歩きして、結局解決には至らなかったという印象。

うーん、本当に個人的に思うに、このプロブレムに打開策を与えてくれるのは、クレバーな手順とか超絶技巧とかじゃなくて、パケットトリックの性質部分じゃないでしょうか。
つまり……と具体的なこと書いてたんですが、読み返すとタネ的な話に繋がってるので割愛。
要するに、プロブレムの解決のためにゴリゴリ技法考えるよりは、例えばマクドナルドエーセスみたいなアプローチをした方が良いのでは、ってことです。
そういうのはナシ!って決めつけてかかれば、それは使えない方法になります。でも、そういう技法にこだわらないアプローチをすることによって凄く綺麗にクライマックスをキメることができるのなら、僕はこのプロブレムの解決案はそちらに譲った方が賢明ではないかと感じました。

ちなみにラストの方法が、前作に収録されていた Overkill prediction と違うんですが、何故なんでしょう。きょうじゅさんも書いていらっしゃいますが、ナチュラルブレーク(ブリッジ)とか駆使して Overkill prediction の方法が楽で良い気がするのですが……



4- Authentic authority


エース4枚と、それぞれに適当なカードを3枚ずつ乗せて行うオーソドックスな感じのエースアセンブリです。
……が、最後にお客さんに1枚エースを選んでもらうと、その適当に使った12枚のカードが選ばれたエースと同じスートの2~Kになっています。

プロットとしては本当に面白いと思います。適当に使った12枚がエース以外の揃ったカードになるエースアセンブリって、既に有るんでしょうか?堂本さん自身も「有るかもしれない」って書いているのですが、僕は知らないです。

クライマックスの方法としては Outfox と同じで、やはり強引な気がしました。こちらの場合はあからさまに観客のミスディレクションを誘っていますので、バレるということはほぼ確実に無い構成だとは思うのですが、やっぱり触らんでいいもん触ってますし、パケットトリックとしてもっと綺麗に解決できなかったのかなと思います。とてもとても難しそうですが。

それ以外のエースアセンブリの部分は、簡単かつ綺麗で面白かったです。ここだけでもレクチャーノートに載せる価値は有るかと。
僕自身エースアセンブリで余計なカードをあんまりたくさん使う手順は好きじゃなくて、ピーター・ケーンのジャズエーセスばかりやるので他の手順を全然知らないこともあり、このアプローチが既に発表されているものなのか、何の亜種なのか分からないのですが、純粋に綺麗な方法だなと思いました。さらにプロットとして、余計なカードが余計じゃなくなるのは凄く好きです。

総合して、エースアセンブリの本質的なところがしっかりしていて、プロットとしてクライマックスにやりたいこともよく分かるし好きだけれども、その核となる方法部分が研磨しきれてなくてもどかしい、という印象でした。

余談ですが、解説の中で登場する「左上のAを消す」「続いて真ん中のAも消す」「カードを何らかの方法で消失させ」という表記に笑ってしまいました。
カードぐらい消せる前提で書いてある!これ本当に手品の解説書か!?
っとまあ、実際はそういうことではなく、この方法でやればもうカードが消えてるので適当なこと言って辻褄を合わせてください的な意味なんですが。解説の途中で突然横道にそれてマジカルゼスチャーの話を始めるのも含めてなんか面白かったです。



5- Reverie


20枚のカードを使い、その半分、10枚のうちからお客さんの選んだカードだけ、もう片方の10枚の方に飛び移ってしまいます。いわゆるカードアクロスです。
そんなに目立って面白いとは思わなかったのですが、この手順を通して Authentic authority のセットができるということで、そういう付加価値もあるものだなぁと感心しました。

1枚選んでもらう方法がいまいち綺麗じゃなくて。こういう方法ってなんか確実性を保障すればするほど目立つというか「今のはナシだろ」感が増す気がするんですよね。
でもこういうカードアクロスの手品って、お客さんが心の中で選んだカードが消えるというのがお作法みたいな気がして、1枚指差してもらったら良いじゃん、って話でもない気がします。

ある程度の確実性と、ある程度のフリーチョイス感を担保しながら、失敗したときのルートが解説されている感じの作品で、一応筋は通っているのですがどっちつかずの宙ぶらりんなイメージ。
失敗ルートの手順は本懐ではないにせよ、いまいち何がしたかったのか分からない手品を取って付けた感じがして、ここに価値は見出せないなぁという印象です。

このハンドリング、もしも選ばせ方を一般的なテイクワンで妥協するとしたら、ラリー・ジェニングスのロサンゼルスホップを少ない枚数でやっただけの手順になってしまいます。価値が有るとすれば Authentic authority のセットができるという点だけでしょう。やはり選ばせ方に圧倒的なアイデアや工夫が必要だったなと感じました。



BONUS- Little effort


フォーエースで行うアンビシャスカードです。
堂本さん自身「誰でも思いつく」「新奇性は無い」と書いていますが、意外とそうでもないのでは?と思いました。
少ない枚数のアンビシャスって、3枚なんかは見るんですが、4枚って取扱いとか口上とかが変に難しくて、みんなそこまでしてやりたいとは思ってないんじゃないかなと。
すると、4枚で行うアンビシャスをしっかりとした形にまとめられれば、それなりに価値のある作品になるのでは?というのが僕の印象です。
すでにフォーエースで行われるアンビシャスがどの程度発表されているのか知らないので何とも言えないですが。

3枚だと「上、下、真ん中」って言えるのがメリットだったりしますが、じゃあ4枚のメリットって何だろう?フォーエースでできる。2と2に分けられる。じゃあラストトリックみたいなことする?みたいな流れでとりあえずまとめてみたらこうなりました、って感じです。
完成した形として悪くないと思うのですが、クライマックスがアンビシャスカードからちょっと離れてますし、そこにウェイトを置くならラストトリックやったら良いかなという感じで、魅力は感じられませんでした。

クライマックス直前に「観客はジョークを予測する」って書いてありますが、僕の住む環境の感覚から言うとそれはまずありえないです。
これだけスタイリッシュなプロットで演技してきて、このタイミングでそんな軽いジョークを入れても「それ今ちゃうやろ。」って感じでスベることが明白だからです。
何かお客さんが勘ぐるとして「このタイミングで冗談言うとは思えへんけど、兄ちゃん冗談言うつもりちゃうやろな?絶対言うたらあかんで、滑んで。ここでそんなしょーもない冗談言うたらしばき倒すで。」ぐらいな気がします。



全体


総合して、やはり980円では余りあるほど充実したコンテンツだと思います。前作には図や写真がなくて、まあこの値段だと仕方ないかなぁと目を瞑ったところが補填されているのは素晴らしいです。

レクチャーノートって、3000円~5000円で1ネタ使えるのが有ったらアタリってのが昔から多かった気が気がするのですが、本作は充分モトは取れると思います。
全部が面白いとは言えないのと、個人的には前作の方が総合的には面白かったかなぁとも思いますが、買って損したとか無駄だったとかいう思いは全く感じない内容です。

次回作もあるそうなので、楽しみに待っています。


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