マジケ2023秋【ルーンの帽子】「APPARATUS Vol.Ⅱ」のレビューです。
マジケ2022秋に出たVol.Ⅰに続く、奇術研究家のルーンさんによる作品集第2段です。
今回もセルフワーキングっぽい易しめの手品を中心に、5つの作品が解説されています。
以下、載っている作品をひとつずつレビューしていきます。
・ トランプの神様
Jim Steinmeyer の有名な原理を使ったプロットで、リモートでも演じられ、それどころかラジオトリックとして成立する作品です。
日本語が持つ独特な言葉の揺れのようなものを上手く吸収する構造になっており、原理が堅固に機能するよう工夫されています。
知っておくと役に立ちそうな、便利な手順ですね。
・ 無責任なカード当て
有名な原理を応用したカード当てです。
補足の部分で、手順の骨組み自体はほぼ既出であることが書かれています。
ですがこの原理を使ったシンプルな手順で工夫すべき部分は、どうやって狙ったセットアップを達成するかと、操作にどういった理由付けをするかという点が多くを占めると思っています。そして、そこを工夫することで無限に化ける可能性があります。
なので、「無責任」という一貫した演出で全体に上手く筋を通したということは、素晴らしいアイデアだと思いました。
さて、具体的に手順を見ると、私としては気になる点があります。
最後の手書きカードのメッセージが、どうにも用意周到というか、段取りがしっかりしている感じがあり、全く無責任には思えないのです。
じゃあどのようにすれば全体が無責任になるかなあと、私なりの解決策を考えてみました。
前提として、ここで言う「無責任」というのはネガティブな意味ではなく、クレイジーキャッツの映画で植木等が演じるような、昭和の明るい無責任男なのだと思います。
なので、私の脳内植木等にちょっと演じてもらって、どうすれば無責任を通せるかをシミュレーションしてみることにしました。
まず、演者は二日酔いで演じるのが良いと思います。前日に準備(飲み会)ができていなければ、演じる前に三杯ほど引っ掛けると良い具合にできあがると思います。
手書きカードは、適当な字札にお店の女の子の名前(サクラとかトモヨとか)を2,3人分書いておきましょう。
そして最後の場面で
「あれ、なんだこりゃ。ああ、昨日クラブで飲んだときに手品して、そのままだったわ、カンラカンラ」
ってな具合で、サクラはこんな子だった、トモヨはこんな子だった、みたいな話をゴキゲンにくっちゃべったあと、思い出したようにその名前でクライマックスを演じる、というのはいかがでしょうか。
50年前なら良い演出だったかもしれませんね。タイムスリップした際には参考にしてください。
・ キツ・ツキ
お客さんの生まれ月にちなんだ、全3段からなる手順です。
前半部分はほぼセルフワーキングなシンプルな手順で、ここまでは良いのですが、後半がちょっと微妙です。
セルフワーキングの良い点のひとつとして、何もしていない感が出せる(というか実際に何もしていない)ということが挙げられると思うのですが、この手順は最終的に、何かをしていないと起きないような現象が起きています。(実際に何かをします)
となると、せっかくセルフワーキングだった第1段も逆算して何かしていたような気がしてしまい、とてももったいないです。
ストーリーに一貫性はあるものの、構造としては前半と後半が上手く噛み合っていないなあという印象でした。
・ 三度目の正直
サッカートリックのカード当てです。
これはとても良いですね!サッカートリックが持つ妙なモヤモヤ感を演出が払拭しているので、場の空気に気を遣わなくても良く、安心して演じられます。
現象としてもインパクトがあり、めでたく手順を追えることができます。
セットアップ不要で技術的にも簡単ですし、多くの人がレパートリーに入れられる手順だと思います。名作です。
・ Surprise Time
時刻に関するカードマジックです。
あえて分単位での一致に挑戦していて、クライマックスまでの演技時間がシビアなプロットになっていますが、それでいてお客さん参加型です。
そこでこの原理を使うのはとても賢い解決策ですね。操作にバッファーを持たせることができるため、お客さんが参加するにも関わらず演技時間の調整が容易になっています。
慣れればかなり安定して、特定の演技時間が狙えるのではないでしょうか。
演者の負担が少なくなるよう工夫して構成された、上手い手順でした。
全体として、今回も気軽にできそうな作品が多く、楽しく読むことができました。
Vol.Ⅲも楽しみにしています!
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