2013年6月20日木曜日

点字トランプと、ゆうゆう氏作「心の中で」



とある機会でゆうゆう氏から、氏考案の「心の中で」という手品についてお話を聞くことができました。




ゆうゆう氏の「心の中で」


氏の演技に関して詳しい現象を説明するのも申し訳ないので、ざっくりとだけ説明します。
「心の中で」は、まずトランプを4つの山に分け、お客さんにそのうち1つの山を選んでもらい、さらにその中から1枚選んでもらい、そして4つの山を重ねてもらいます。そこまでの作業をお客さんがする間、演者は後ろを向いています。そしてトランプの中から、お客さんが選んだトランプを当てる、というマジックです。

私はこのマジックにとある可能性を感じました。今回はそのことについて詳しく書きたいと思います。ゆうゆうさんの考えを引用した部分はなく、以下はすべて私の個人的な意見であることをご了承下さい。


点字トランプでカードマジック


「カードマジックを全盲の方に見せるなら、点字トランプを使えば良いのではないか? 」

誰もが考えつきそうなこの発想は、半分合っていて半分的外れです。というのも、点字トランプは墨字のトランプと比べると、数多くの点で違いがあります。それはトランプでゲームをする分には充分工夫されていることなのだとは思うのですが、手品となると話は別です。
点字トランプは墨字のトランプとは根本的に違う道具だと思った方が良いでしょう。どういった点が「道具として」異なるのか、大きく3つ挙げたいと思います。


1:表面を触って何のカードか確認できる。


つまり摸牌(モウパイ)できるということです。当然ながら、これは点字トランプにおける本質的な性質です。この性質によって、カード当てで「1枚選んでください。」というアプローチはできません。選んでもらうときにこっそり表面を触れば、選んでもらう向きに関わらず何のカードか確認できてしまいますから。本質的でありながら、手品としては致命的です。不可能性を損なってしまいます。


2:マークトカードである。




つまりガン牌です。裏から凹点を見れば何のカードか分かってしまいます。これを使えばカードを覚えてもらうときに裏から見て何のカードかまるわかりです。カードが透けてるようなものです。

マークトカードであるという上さらに厄介なのは、それがコモンノレッジ(共通認識)であるということです。その場に居るみんなが「裏から見て分かるんじゃないのか?」と感じることができるのです。そんなものを使って手品できるワケがありません。これも、致命傷です。

そもそも、こんな凹点を裏から読むなんて可能なのかという疑問もあります。
ですがこれについては、盲学校のベテランの先生に聞いたのですが、ふつうに可能だそうです。
それどころか、点字トランプの裏面を触って、凹点でそのカードが何なのか触読できる視覚障害者もゴロゴロ居るそうです。


3:分厚い


点字トランプは墨字トランプの2~3倍の厚さがあります。つまり、カードマジックで使うような技法はほとんど使えません。よく混ぜてください、真ん中辺りに差し込んで下さい、1枚ずつ配ってください……どれも、簡単なことではないのです。
それどころか、1組のトランプをテーブルに「置く」ことがまず難しいです。まあ確実に、ザーッっと崩れてトランプの束が流れてしまうでしょう。

マジシャンにとって当たり前のことができない、それが点字トランプなのです。




ゆうゆう氏「心の中で」のスゴさ


これら3つの問題について、ゆうゆうさんの「心の中で」は実に1、2の問題をクリアしています
お客さんが1枚カードを選んで束の中に戻すまで、マジシャンはその様子を見ませんし、トランプに触れることもありません。テイクワンのマジックを点字トランプで行うとすれば、これは非常に理想的な方法であると言えるでしょう。

3についてはやはり問題になりますが、私が自作した点字トランプは2、3の問題をクリアする、つまり「裏から見ても分からない」「崩れにくい」ものとなっています。


崩れない!自作点字トランプ




トランプに直接点字を打つわけではなく、タックペーパーを用いて作った点字シールをトランプのフェイスに張り付けて作っています。

市販されている点字トランプは日本語版(冒頭写真)だと「ハ 2」、英語版だと「2 H」と、簡潔に記号化された点字が打ってあるのですが、ここをあえて「ハート 2」(この写真だと「スペード 2」と打ってあります)とすることで、日本語版と英語版のどちらの点字トランプを常用している人でも対象にできるようにしました。
また、長い点字が打ってあるので安定感があり、ザーッと流れにくくなりました。机に置ける点字トランプの完成です。

この自作の点字トランプを使えば、ゆうゆう氏の「心の中で」は全盲の方を対象に充分可能であると言えます。もちろん、所々の演出は変える必要が有ります。あくまで「カードの選ばせ方」が点字トランプに適しているということです。まだまだ問題は残りますが、数少ない全盲の方へのマジック、特にデックを用いたカードマジックとして、新たな活路を見出した作品だと言えます。


追記:マークトデックについて



このマジックについて、ゆうゆう氏はマークトデックの可能性を示唆しています。

※氏は可能性を提案しているだけで、このマジックにマークトデックが必要なわけではなく、本来レギュラーデックで行われるマジックです。

このマジックにマークトデックを使用することで、もっと不可能性出すことができるということです。これについてはまだまだ考察が必要なのですが、点字トランプの特性常、非常に興味深いです。

と言うのも、自作点字トランプのように「ハート 2」を、シールではなくあえてトランプに直接打つことで、マークトカードの性質を失わないまま、崩れない点字トランプが作れるのです。




しかし、ここには問題が残ります。
ひとつは、先述の通りマークトカードであることがコモンノレッジになっていることですが、もうひとつは、倫理的な問題です。
つまり「全盲の方を対象にしたマジックで、マークトカードを使うのってどうなの?」という疑問です。

これについては僕自身も、まだまだ思考の途中です。議論できる相手が非常に少なく、なかなか結論が出ません。何かしらのマジックで使ってみようという試みも考えていますが、今のところ悩みに悩んでいます。

とりあえずこのマジックは、タックペーパーのシールで作った「裏から読めない点字トランプ」を使って行う方がフェアなのではないかな、と考えています。


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