2024年1月18日木曜日

レビュー『大原のいかさま』

大原正樹さんの新作『大原のいかさま』のレビューです。

大原正樹さんは知る人ぞ知る奇術研究家で、2010年ごろにその研ぎ澄まされたセンスで名作をいくつも世に出していらっしゃいました。

実用的で演じやすい作品も多く、私と同世代の愛好家なら1つくらいはレパートリーに入っている作品があるのではないでしょうか。(私は2つあります)

そんな大原さんの新作が出たということで、これは飛びつかずにはいられません。

今回は過去のレクチャーノート『大原のおすすめ』『大原のこだわり』のような作品集の形式ではなく、『大原のこころみ Birth』のような単発トリックの解説ともまた違います。
単発といえば、2011年の東日本大震災のチャリティーレクチャーノート『東北地方太平洋地震チャリティーレクチャーノート』にも大原さんは作品を寄稿されていましたね。

今回の『大原のいかさま』では、ギャンブリングデモンストレーションをテーマにした長いひとつのアクトが解説されています。
しかし、そんな長いアクトは演じないしな……という人にもオススメできます。
これは一連のアクトの解説というよりも、ギャンブリングデモンストレーションをマジックとして演じるためのフレームワークを提案するレクチャーノートという印象でした。

手順は全4段からなりますが、もっと細かく分けると7段か8段くらいに渡ります。
その導入部分である「ポーカー・チップの増殖」がまず素晴らしいです。
解説の途中でも書かれていますが、この導入のおかげで、これからマジックが始まるんだよという空気が演出でき、ギャンブリングスライトのデモンストレーションが持つ挑戦的でピリッとした空気が緩和され、お客さんがとても参加しやすくなっています。

そしてなんとこのポーカーチップは、最後に演技を締めくくるときにも重要な役割を果たします。
備考で説明されていますが、最初と最後にポーカーチップを使う演出を持ってきたことで、このギャンブリングデモンストレーションの型がバシッと決まります。
ポーカーチップのクローザーまでひっくるめて、綺麗な流れになっているなあと感動しました。

そんな大きな型の中に、スライトのデモンストレーションからのポーカーデモンストレーションという流れがはまっている感じです。

スライトのデモンストレーションの部分は、好みに合わせて微調整ができるような柔軟な構造になっていると思います。
というか、きっちり理解して演じられるようになればその場の雰囲気に合わせた微調整なんかもできるのかもしれません。

ポーカーデモンストレーションの部分は、もうかなり完成した形になっていて、あまり言うことがありません。
ひとつだけコメントすると、ジョーカーの使い方が最高です。
必要な道具を読んだときに、あっジョーカー使うんだ、と思ったのですが、予想外の使い方でした。裏方でとても重要な役割を果たしつつも、いざ演技の中での使われ方がめちゃめちゃかっこいいです。
このジョーカーの使い方だけをピックアップしても、かなり勉強になります。まさに大原さんという感じ。すごい。

全体として、えげつないほど練りに練られたのがよく分かる、素晴らしいアクトだと思います。
スライトのデモンストレーションが漸進的に盛り上がっていき、ポーカーのデモンストレーションで実践して見せ、そして期待を裏切らないクライマックスを迎える展開は、とてもドラマチックです。
そうなるとどうやって演技を終えるかが難しくなってくるわけですが、始まりと終わりはポーカーチップが担保してくれているので、何の心配も要りません。
途中、技術的にはそこそこ難しい部分もあるのですが、そこは自分の好みに合わせて調整できる部分なんじゃないかなと思います。
大きく全体の流れに関わる部分は、そんなに難しくならないように作られているように感じます。
なんなら「ポーカー・チップの増殖」だけ練習すれば、別のギャンブリングデモンストレーションのオープナーとクローザーとして充分使えそうです。

MAJIONで買えます。
ちなみに過去作も再版されているので、お持ちでない方はこの機会に全部買っておいても良いでしょう。って言うか買っておいたほうが良いです。


せっかくなので過去作の話もしておきますね。

『大原のおすすめ』でオススメの作品は、何と言っても「1234」です。
これはもう、みんな知ってる名作なので言うまでもないかなと思ったのですが、10年以上前のレクチャーノートなので知らない人は知らないですよね。
カジュアルに演じられて、習得すれば一生使える系のコインマジックです。
これがまた、他のコインマジックのルーティーンの合間に挿入できるというすごい特性を持っています。
いかに負担なく別の手順と組み合わせるかという、その準備の工夫まで説明されています。

『大原のこだわり』でオススメの作品は「49 Cards to Pocket」と「Cutter Knife」です。
「49 Cards to Pocket」は、間違いなくウケるカードトゥポケットのプロットです。
面白すぎて笑えるので、いずれ古典になると思います。
「Cutter Knife」は、こちらもジョークっぽいクライマックスのカードマジックですが、実はかなり綿密に計算された興味深い工作を含む手順です。
幾何学的というか、パズル的な面白さもあり、そういう変な道具が好きな人だとかなり楽しめると思います。

『大原のこころみ』は単発トリックの解説ですが、これがまさしく私が10年以上レパートリーにしている大原正樹作品の1つです。
とても実用的で、なおかつ技術的にも簡単なカードマジックですので、広くオススメできます。
私はThomas Fraps の「A face in the case」と組み合わせて演じています。 準備も特にいらない割に、結構奇抜な現象が起こるので、ちょっとパンチが欲しいときなんかに使える秀作です。

ちなみに私がレパートリーに入れているもうひとつの大原正樹作品は『東北地方太平洋地震チャリティーレクチャーノート』に収録されている「3.5」です。

ノート自体はもう入手困難ですが、動画は見れるみたいですね。
私は最後のグラスを使う部分は、お客さんの手でやっています。

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