2024年9月13日金曜日

レビュー『Combined Card Sessions』

Peter Kane『Combined Card Sessions』日本語版のレビューです。

訳は佐藤大輔さんで、過去にレビューしたものだと『ルビアレスのやさしいコインマジック』の訳者さんです。

Peter Kane 氏による3つの作品集の合本です。ひとつひとつの解説は短めですが、作品数が多いのでがっつり楽しめます。
有名な「ジャズエーセス」は2つ目の作品集の部分に収録されています。

では、掲載されている作品についてレビューしていきます。

A CARD SESSION(1967)

・The Blank Thought Deck
ブランクを使ったオープナーです。
そこまでやるかという手法で、単なる一発ネタでなくインパクトのある現象に仕立て上げています。

・Exploding Revelation
お客さんのカードをパッと出します。
今となってはありふれているかもしれませんが、ビジュアルな見せ方です。

・Aces A-Risin’
・The Face Up Traveller
ある原理を上手く使う作品です。
この原理ってこんな風に使われてたんだ!と勉強になりました。曖昧な書き方ですみません。

・Classic Ace Assembly
キングのアセンブリーです。
ちょっとだけ予想外の結末なのが面白いです。

・Single Shot
ファローシャッフルを使ったカード飛ばしです。
ファローしているときの絵面が面白い気がします。

・The Faro Finder
ファローシャッフルを使ったスライトデモンストレーションっぽい手順です。
ファローが大変な気がします。

・Transportation of a Thought
思い浮かべたカードの飛行です。
この、裏の色の異なるカードを当然のように使う感じがPeter Kane 氏の作品の上手さのようにも感じていて、この後も注目です。

・Anent Pack Switches
デックスイッチのアイデアです。
実用的だと思います。

・Tetradism
ファローシャッフルを使った二段構えの手順です。
クライマックスとしてインパクトがありますが、今なら同じような効果をもうちょっと楽な別の方法で実現できるような気もします。

ANOTHER CARD SESSION(1971)

・The Incredible Shrinking Card Case
デックケースが縮みます。
実は試していないのでどういう感じに見えるのか分からないです。気が向けば試してみようと思います。

・Red Oil Blue Water
裏の色の異なるカードを使ったオイルアンドウォーターです。
めちゃめちゃ面白くて、手を動かしていて楽しい手順です。カードマジックの教則本とかに載っていて欲しい、ちょうど良い手順だと思います。
最初に読んだとき、裏の色を変える必要あるのかな?と思ったのですが、実は手を動かしてみるとちょっとだけ裏の色が効いている見せ方があって、そこも賢いなあと感心させられます。
この巻には「ジャズエーセス」が載っていて、それで埋もれてしまいそうなのですが、こちらも負けない名作でした。

・Red Blue Transpo
裏の色の異なるカードを使ったフォローザリーダー的な現象です。
こちらは割と予想通りのことをやっているのですが、賢くて上手い手順です。

・Peter Kane's Jazz Aces
名作エースアセンブリです。
説明不要ですね。素晴らしい手順です。

・Swindle Coincidence
2組のデックを使った一致現象です。
タイトルからあれをするのかなと思ったら違いました。時代的に、そりゃそうか。
想像以上にゴリッとした手法ですが、これ上手くキマればめちゃめちゃインパクトありそうです。
手順自体はシンプルなので、人によってはレパートリーに取り入れて重宝する手順だと思います。

・The ”My Best” Coincidence
2組のデックを使った一致現象に予言が追加された手順です。
様々な可能性への対応が考慮されているのですが、意識しながら演じるのはしんどそうです。
方法面の負担も考えると、ひとつ前のSwindle Coincidence のほうが個人的には好みです。

・About Face Faro
・The Faro Five
・The Lazy Gambler
・The Faro Card Pazzle
ファローシャッフルを使った作品群です。
大変な割に地味だな……と思うのですが、The Lazy Gambler だけは演出がとても好みでした。

・The Ring in the Card Case
指輪がデックケースの中に飛び込みます。
これはすごいです。もしも自分が同じ現象を起こそうと考えるなら、絶対取らないであろう手法を取っています。
それは少しだけお客さんの認知をずらすために採用している手法なのですが、それがなんとも面倒で、ズボラな私は「だったらこうしたほうが楽なのでは……」と、別の楽な手法を採用してしまいそうです。
しかし、面倒でもしっかり工夫して手順を構成することで、お客さんの認知をほんの少しずらすことができ、それによって不可能性を生み出せるのだということに気づけます。
この作品だけで元が取れます。安易に楽な方法に逃げてはならないのだなと、改めて勉強になりました。

A FURTHER CARD SESSION(1975)

・Fiver!
カードを紙幣を使った手順です。
面白い!手法もユニークで、かなり好きな手順です。

・The Diamond Robbery
羊と泥棒のプロットをカードで演じるものです。
ひとつのバリエーションとして参考になるかなという感じです。

・Gil’s Game
コンゲームっぽいプロットです。
ある原理のうまい使い方で、勉強になります。

・The Chink-A-Chink Aces
チンカチンクをカードのみで演じる試みです。
ようやるわ、という感じですが、エースアセンブリの見せ方のひとつと考えると意外と普通かもしれません。

・Acestack
ポーカーデモンストレーションっぽい手順です。
大変ですが、原理はちょっと面白いです。

・The Royal Families
ロイヤルファミリーのプロットの普通の手順です。
と書いてから気づいたのですが、ひょっとして「ロイヤルファミリーのプロット」の元祖がこれなのでしょうか。失礼しました。

・The Blue Angels
裏の色の異なるカードを使ったエースアセンブリです。
面白い動きが入る部分も含めて、裏の色の異なるカードの使い方が上手いなあと感じられる、綺麗な構成の手順です。

・Disassembly
裏の色の異なるカードを使った、エースアセンブリの逆現象です。
ネタのような書かれ方をしていますが、現象が起こる瞬間はしっかりとインパクトのある見せ方をしていて、ちゃんとしています。

・The Unkind Cut
フォーオブアカインドを取り出します。
カジュアルなサッカートリックで、お客さんの精神的な負担が少なく、取り入れやすい演出だと思います。

・The Slightly Annoyed Card
裏の色の異なるカードを使った、変化現象のパケットトリックです。
これ自体は、普通のパケットトリックという感じですが、次に載っている作品に繋ぐ流れになっています。

・Divination, Discovery, Departure
ひとつ前の作品The Slightly Annoyed Card の最後の状態を活かした手順です。
複数の手順を繋いで一連のアクトにするという考え方を、この時代から形にしていたのかと驚きました。
アクトの構造の勉強になります。

・The Sentimental Swiss Signature Switch
サインの交換現象です。
ユニークな方法で、楽しいです。


全体として、確かに古さを感じる部分は少々あるものの、もっと錆付いた手順ばかりかと思っていたら、むしろ一周回って斬新に感じる手順が多い印象でした。

カードマジックが好きな方なら間違いなく楽しめると思います。
マジックを始めて、教則本でカードマジックの基礎をざっと学んだあと、具体的な手順を練習してみるために読む作品集としてもオススメです。
学生サークルの部室なんかにも置いてあると良さそうですね。

訳者さんの直販サイトでまだ買えるみたいです。
興味のある方は、在庫のあるうちにぜひキープしておきましょう。

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