せっかくなので、韓国公演の思い出を書いてみました。
「巨人の肩に触れる 盲学校マジック作品集」の韓国語訳が出たので、この機会に2009年に演出した韓国公演の思い出を、当時を懐かしみながら書くことにしました。
最初に書いておきますが、有益な情報は書かれていないどころか、手品の話もほとんどしていません。それでいて長文になってしました。
なので、なんとなく雰囲気を味わってみようかな?という変わった方のみ、読んでいただければ幸いです。
……
韓国公演の舞台は、冬のソナタのロケ地で有名な春川(チュンチョン)市でした。
2009年当時、まだ大学生だった私は、何やら大学主催のプロジェクトで、学生の自主企画にお金を出してくれるやつがあると知り、
「ストーリー性のある舞台公演を海外でやってみて、どういう印象を持たれるか」
というテーマで通らないかな?と思い、応募したところ、スルッと選考を通過することができました。
当時、春川市の大学に留学していた同期の学生マジシャンが居たので、通訳とかを全部任せてなんとかしてもらおうという魂胆です。
実際、向こうでの宿も大学の寮の空き部屋を使わせてもらったり、大学にも自由に出入りできたりと、企画自体は順調な滑り出しでした。
公演も、向こうの学生マジックサークルであるJOKERさんに色々手伝って頂けて、大学の舞台を借りる申請をしてもらったり、韓国側の出演メンバーを募ってもらったりと、着々と準備は整っていました。
結局"ストーリー性"というよりは、設定付きのボードビルショーみたいな感じで固まりましたが、演者としては日本から3人(とマジックしない出演者が1人)、韓国から3人という、なかなか良い感じに合同公演という雰囲気で楽しく練習していました。
……
さて、ここからトラブルが起きます。
春川市のその大学は、当時イ・ミョンバク政権へ反抗する「トゥジェン(투쟁)」と呼ばれる学生運動の真っただ中でした。
大学内でも抗議のビラや立て看板が目立ち、エンターテイメントの公演は自粛、告知のポスターなどは禁止ということになりました。
学生運動と言っても、熱心な人も居ればそうでない人も居るのですが、実は(合同公演メンバーではない)JOKERさんの部員にトゥジェン本部の人が居て、じわじわと、公開のマジックショーとしてやるのではなく身内だけでやろうという流れになりました。
せっかくの企画が縮小するのは残念だなと思いながら、かといって私自身がトゥジェン本部に直談判しに行くのも怖いので、これはもう仕方ないかなとほぼ諦めていました。
……
さて、ある日の休憩時間、そのトゥジェン本部の部員さんが何かの歌を口ずさんでいました。
何気なく聞いていて、ん?この歌知ってるぞ?と思った瞬間、ピンときました。
地球勇士ベクターマンのOPテーマです。(韓国の特撮番組、発音としては"ペクトメン")
日本では未放映の特撮なのですが、韓国では流行ってたんですね。
で、この歌なんですが、合いの手が入るんです。
日本の特撮ファンでもなかなか知らないですよね、この歌。
でも私は、かつてヤフーチャットのアニカラ部屋でぶいぶい言わせていた、根っからのアニソン・特ソンオタクなので、歌えるんですよ、これ。
別に歌うつもりはなかったんですが、血が騒いだのでしょう。
トゥジェン本部の部員さんが
「힘이 솟아올라~♪」
と、合いの手のところに差し掛かったところで、もう脊髄反射で
「シガニテッソ!!」
入れちゃったんですよね。合いの手。
トゥジェン本部の部員さんも、周りのメンバーも、ポカーンとしてたんですが、少しの沈黙のあと、その部員さん
「새롭게 태어날 때♪」
続きを歌い出したんですよ。すごい。
で、このあとも合いの手なので、もちろん
「ガテンゴヤ!!」
入れますよね、合いの手。
……
ここからなんか盛り上がっちゃって、
「日本でもペクトメンは流行ってるの?」
とか聞かれたので、
「ペクトメンは日本では放映されていないからあまり知られていないけれども、たとえば韓国のアニメだと気ファイターテランとか、装甲救助部隊レストルなんかは放送されてるから知ってるファンも多いよ。韓国でも日本の特撮だと超新星フラッシュマンが放映されて、知ってる人が多いよね、そんな感じ」
と早口で答えたりなんかしちゃって。(通訳してくれた同期、ありがとう!)
すると、なんか
「合同公演、公開のマジックショーとしてできないかトゥジェン本部に交渉する」
って言ってくれたので、お言葉に甘えたら公開OKが出ました。
……
結果的に、少しですが告知ポスターを貼ったりビラの配布もできて、そこそこのお客さんが見に来てくださいました。
なんならトゥジェン本部の人が結構来ました。
企画の肝になる「設定が伝わるか、どういう印象を持たれるか」についても、アンケートを見ると好評で、総じて良い公演になりました。
思い出すと、とても楽しい経験でした。
そして、オタク文化は国境を超えるし、きっと分かり合えないと思っていた人々とも分かり合うきっかけになったりするのだなあと実感しました。
この記事を書きながら、あの時の出演メンバー、JOKERの部員さんたち、公演に協力してくださった多くの方々、そして地球勇士ベクターマンへの感謝の気持ちを思い出せました。
皆さん本当にありがとうございました。
……
ちなみに帰国したあとも、大学側に提出した航空券の半券を無くされてお金がなかなか返ってこなかったりと大変ではありました。最終的には返ってきました。
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