2023年1月26日木曜日

レビュー『IMPUZZIBILITIES』シリーズ(前編)

Jim Steinmeyer『IMPUZZIBILITIES』シリーズ10冊のレビュー、前半5冊分です。

ほぼセルフワーキングの手品ばかりが載った冊子で、セリフを語り掛けるような形式で書かれているので、英語ですがとても読みやすいです。

書かれている通りにやると現象が起きて楽しいです。紙上のマジックショーを楽しむつもりで読むのもおすすめです。

自分用のインデックスを兼ねたレビューなので一気にまとめて書きたいのですが、全部合わせるとなかなかの分量になりますので前後編に分けます。

先に言っておくと、どの巻も面白いです。

後編はこちらです。


1:IMPUZZIBILITIES (表紙はスフィンクス)
さすが第1巻という感じで、名作がぎゅっと詰め込まれています。

1.The Nine Card Problem
9枚のカードを使った、お客さんの手の中で起こるカード当て。
名作です。

2.The Full Deck Problem
「The Nine Card Problem」をフルデックでやるバリエーション。
思ったよりもきちんと通用しそうで、手続きも冗長になっていなくて良いです。

3.Dimes & Pennies
ダイムとペニーの硬貨を使った数字当て。
天才的な原理で、応用の幅がとても広いです。日本円でもいけます。

4.A Quarter To Nine
これも硬貨を使った数字当てで、計算が単純になったバリエーション。
面白いけれども「Dimes & Pennies」のほうが好み。

5.The One O'clock Mystery
時計を使ったスペリングトリック。
マジか、すごい。よくこれに気づいたなあと思いました。

6.The Three Mystery
「The One O'clock Mystery」の時計じゃないバリエーション。
時計の演出が使いたくないときに使えそうです。

7.The King Mystery
「The One O'clock Mystery」のカードを使ったバリエーション。
これもすごい。「The One O'clock Mystery」とは全然違う印象になります。

8.Understanding The Bermuda Triangle
たくさんの小物が、バミューダトライアングルに消えていく。
数学パズルとしては面白いです。算数の授業とかでやりたいですね。

9.The "Ten Boys" Poker Deal
テンカードポーカーディールのバリエーション。
手続きが少し冗長ですが、同じ手続きの繰り返しを徹底していて良いです。

10.The Five Card Mix
5枚のカードを使ったフォース。
言及されている有名な原理をそのままやっているだけだと思うのですが、有用です。

11.Automatic Poker
10枚のカードがロイヤルフラッシュとブタに分けられる。
有名な原理に似てはいるのですが、この原理は初めて知りました。
すごい。こんなことができるんだ。

12.Three Card Monte
お客さんの手の中で行うスリーカードモンテ。
結局~~してるだけじゃんと思うのですが、上手いセリフ回しなんかで意外と通用するのかもしれません。

13.Teleportation
セルフワーキングで行うカードの飛行。
ユニークな方法そのものは本当に通用するのかな?と疑問ですが、途中の細かい示し方の工夫は参考になる部分があります。


2:FURTHER IMPUZZIBILITIES (表紙はミミズク)
前作から勢いは衰えていません。面白い原理や演出が目白押しです。

1.The King's Coronation
4枚のキングを使って操作をして、最後に残るキングを当てる。
シンプルで面白い原理です。

2.Automatic Palmistry
お客さんに両手でグーパーしてもらって、開いている手を当てる。
さすがに気づかれるんじゃないかと思うのですが、道具のいらない手品というのは良いですね。

3.The Princess in a Crowd
15枚のカードを使ったプリンセスカードトリック(マトリクスのほう)のバリエーション。
配り方の説明に枚数の設定が活きていて、とても綺麗なバーバルマジック(ラジオトリック)になっています。

4.Coins in a Strange Land
コインを並べて指さしていき、どれを指しているか当てる。
見たことはある原理なのですが、コインでこんなふうにできるとは恐れ入りました。
原案として書かれている手品が、調べても見つからなかったのですが、Shutaさんの記事で発見されていました。助かります。

5.Piles of Money
「Coins In A Strange Land」のちょっと変えたアプローチ。
個人的には「Coins In A Strange Land 」のほうが好きかな。

6.Five Cards on The March
「Coins In A Strange Land」のカードでのバリエーション。
これがこの原理の基本形という感じがします。かなり応用できそうです。

7.The Lesser Dictionary Test
辞書を使ったブックテスト。
ブレを回避して色々な辞書でできるようにしている工夫が秀逸でした。良いです。

8.'Five Friends' Play Blackjack
演者とお客さんでブラックジャックをすると、常に演者が僅差で勝つ。
ドラマツルギーが素晴らしいです。最後までドキドキ感があります。

9.The Great Silverware Scam
銀食器泥棒という演出のピアノトリック。
これは、ストーリーに無理がある気がします。

10.The Thirteen Card Dilemma
カードを使って足し算とか引き算をするが、計算が合わない。
これはさすがに気づくと思う。さすがに。


3:SUBSEQUENT IMPUZZIBILITIES (表紙は手)
面白い原理やユニークな演出と、ごちゃっとしたしんどい手順が混在した巻です。

1.Eleven Roads to Heaven
11枚のカードで、覚えたカードをコントロールする。
すごい。なんでこの枚数で成り立つのか分かりません。
そもそも奇数っていうか素数でやろうとしたこと自体がすごいと思います。

2.Fingertip Mindreading
「Five Cards on The March」(FURTHER IMPUZZIBILITIES)を手でやるアレンジ。
「Automatic Palmistry」に似ていると書かれているけれども、どっちかというと元になっている構造は「Five Cards on The March」のほうだと思います。
これが一番有用なバリエーションかもしれないです。
よく見る手品な気もするのですが、これが元ネタだったのですね。

3.The Password Fallacy
9枚のカードで、パスワードを使ってカードを探す。
分かりやすくて良いです。単純な原理のアレンジですが、上手く攪乱できています。

4.A Universal Password
9枚のカードで、パスワードを使ってカードを探す。
こちらも良いのですが、ちょっとごちゃごちゃしていて途中でカードを忘れてしまいそうです。
数理的にアンラッキーパターンがあって、その場合はあまり面白くない感じになります(成立はする)。

5.The Magician Who Fools Himself
お客さんに形の上だけ手伝ってもらって行うカードの飛行。
演者がむちゃくちゃ喋る演出がとても面白いです。めっちゃ好き。
秘密の部分は、これは通用しないんじゃないかなあと思うのですが、この演出できちんと演じられるのであれば通用してもおかしくないとまで思えます。

6.Number, Number, Number
ジャンボカードなどを使って行うカード当て。
ジャンボカードでできるという点だけは良いですが、結構手続きがややこしてあまり面白くはないです。

7.A Trip Around The World
街の名前が書かれたカードを使って、到着地を当てる。
数理的な構造は面白いのですが、ストーリーがごちゃごちゃしていて惜しいです。

8.Force Six
6をフォースする盤。
ちょっと直接的すぎると思いました。

9.Force Ten
10をフォースするカードの円環。
「Force Six」よりも数理的な構造が綺麗で、ひねりが効いていて面白いです。

10.Deal Three
「Automatic Poker」(IMPUZZIBILITIES)の操作を簡略化したアレンジ。
見栄えはよくなった反面、気づきやすくなっちゃったかなあという気がします。

11.Enigmatic Poker
ポーカーで3つの手に配ると、みんな良い手だけれども演者がロイヤルフラッシュで勝つ。
有名な原理の亜種みたいな手法を使っていて、その有名な原理と比較すると状態の遷移が1つ起きない代わりに気づきやすくなっている気がします。

12.Enigmatic Tarot
「Enigmatic Poker」の手法でラッキーカードを選び出す。
能書きが長い割にストーリーが面白くなくて、ちょっと退屈です。

13.Ten in Concert
10枚のパケットを2組使った、3段に渡る予言の手順。
1段目はギリギリ成立している気がしますが、3段目についてはやらなくて良いような気もします。


4:ENSUING IMPUZZIBILITIES (表紙はカラス)
「Equivoque」3作品が特徴的です。こってりと練られた手順が多い印象です。

1.Eight Cards Espial
8枚のカードを使ってスペリングでフォースする。
手続きにランダム要素がほとんどなく、絶対そうなる系に見えてしまって残念です。

2.Seven Cards Examined
7枚のカードを使ってスペリングでフォースする。
これもランダム要素がほとんどなくて惜しいです。最後が一応ランダム要素なのですが、分かりやすすぎるなあと思いました。

3.Automatic Ace Triumph
藤原邦恭「Automatic Ace Triumph」のアレンジ。
とても面白い。良いのですが、原案と同じな気がします。どこが違うの……?

4.Equivoque:The Cardless Cantico
想像上のデックからクラブの9をフォースする。
最後だけ惜しいのですが、そこまではとても上手いフォースだと思います。
具体的なイメージを伴って絞り込んでいく感じが、全体の演出と調和しています。
上手くアレンジできれば色々な手順で応用できそうです。

5.Equivoque:The Full Deck Fandango
新品のデックからクラブの7をフォースする。
これも途中まではとても秀逸で、応用できそうです。最後だけ惜しいです。

6.Equivoque:The Tin Can Phone
糸電話を使ってハートの9をフォースする。
糸電話の演出がとても楽しく、しかもそれが絞り込みのキーになっているのもニクいです。
やはり最後だけ惜しいです。

7.Flummoxed
あるスタックを使った、3段に渡るメイトの出現。
結構ちゃんとしていて面白いと思いました。
3段ともやっていることは同じなのに、ちゃんとどんどん不可能性が高まっているように感じます。

8.One Fortune Serves Eight
お客さんの思い浮かべたカードを特定します。
特徴的な配り方と数理的な原理がすごく興味深いです。

9.Moraskill
ミラスキルのバリエーション。
面白いアレンジで、途中の手続きもなかなか自然にプロットに組み込まれていると思います。

10.The Tuzot Sensu Mystery
ホフマンのグレーターマジックのもののアレンジ。
全部覚えてるんじゃないのかと思われてしまいそうですし、それはこの手順では良くない推測になってしまいます。
示し方も演出に合っていない気がします。

11.Cue Card Mentalism
お客さんの反応が書かれたカードを使って予言する。
サロンマジックの小ネタで活用できそうな、かわいらしい手品です。

12.Dining Out
メニュー表から料理を選んでもらうと、その金額がちょうど財布に入っている。
おしゃれ!素敵!面白い!
日本語で演じられるようにできれば、ぜひやってみたいです。


5:TREACHEROUS IMPUZZIBILITIES (表紙は蜘蛛)
エディー・ジョセフだらけ。セルフワーキングマジック事典っぽさがあります。

1.Wishing & Making it So
思い浮かべたカードを電話越しに特定する。
方法が大層すぎるのですが、実際に当てられると本当にノーヒントで当たった感じがしてビビると思います。

2.Chicagoism
20枚のカードを使ったカード当て。
エディー・ジョセフの原理らしいのですが、最初、天才的過ぎて何をやっているのか分かりませんでした。
数理的な場合分けのすべての可能性を、分岐のない手続きで完全に網羅しています。
ちょっと事故が怖いですが、原理としてはとにかく圧巻です。天才。

3.Thirty-Fiveism
2枚のカードを当てる。
これもエディー・ジョセフの原理らしいのですが、あれ、さっきと同じ原理?本当に?
面白いのですが、ハンズオフっぽい流れで演者がちょいちょい介入してくるので、ちょっと見る側にストレスがあるかもな思いました。

4.The Whammy
ハンズオフのエースアセンブリ。
有名な原理を使っていて、その使い方も含めて良いと思います。

5.The Cowboy Secret
カードをたくさん配っていって、手元のカードの枚数を当てます。
パズルとして面白いです。

6.Hacer lo Imposible
2人のお客さんの覚えたカードが同じところで出てくる。
エディー・ジョセフの原理らしいのですが、あれ、ジーン・フィネルでは?
有名な原理を使った警察犬プロットで、すぐにでも演じられる手順です。

7.The Zodiac Wheel
星座の輪で、止まる場所を当てる。
シンプルでオシャレ、良い作品です。

8.Invoking Margery
カードを不均等な2つの山に配り、スペリングで行うカード当て。
エディー・ジョセフの原理らしい。ちょっと分かりやすすぎる気がします。

9.Presque Vu
1人目のお客さんが決めた枚数目から、2人目のお客さんが覚えたカードが出てくる。
エディー・ジョセフの有名な原理です。インパクトの強い部分をお客さんに操作してもらうのは良いと思います。

10.The Treasure Map
借りたデックで、お客さんの覚えたカードの位置を予言する。
シンプルな原理で、ちょっとセルフワーキングではない部分もあるけれども良い手順です。
海賊の地図という演出もプロットに合っていて、ワクワク感が素敵です。

11.Negative Speller
演者がどんどん指定のカードを取り出していくが、お客さんがやるとなぜかネガティブな言葉が出てくる。
かわいらしいサロンマジックで、ちょっと変化球なオチが好きです。

12.Elementary!
被害者、凶器、犯人のカードをそれぞれ選ぶと、その事件が新聞の見出しに書かれている。
面白い!かなり盛り上がりそうなサロンマジックです。


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