2023年1月29日日曜日

レビュー『IMPUZZIBILITIES』シリーズ(後編)

Jim Steinmeyer『IMPUZZIBILITIES』シリーズ10冊のレビュー、後半5冊分です。

前半はこちらです。

6:DEVILISH IMPUZZIBILITIES (表紙は悪魔)
個人的に好みの原理が多い巻です。

1.Just Thinking
カードを複数枚ずつ見せていって、思い浮かべたカードを当てる。
原理的にはなるほどなあという感じです。すごいけれども後半はちょっと苦しい気がします。

2.The Three-Ball Test
頭の中で思い浮かべた3色のボールのうち、鼻につけたボールの色を当てる。
手続きは少し複雑ですが、道具のいらないマジックとして想像力を掻き立てる面白い演出でした。
最後に目を開けると演者の鼻に……とかでも面白そうです。

3.The Irresistible Force
3枚のカードを捨てていって、最後に残るカードを当てる。
良い原理ですが、このまま使うと気づかれそうかな。
この次の「Irresistible Shopping」みたいに応用したら使えそうです。

4.Irresistible Shopping
「The Irresistible Force」を具体物の名前でやるアレンジ。
面白いです。こういう使い方が良いですね。

5.Deepest Sympathy
2つのパケットの同調現象。
ハワード・アダムスの有名な手法と、グラスを使ったディスプレイの相性が良くて勉強になります。

6.The Luckier Number
お客さんのラッキーナンバーの位置にあったカードが、演者のラッキーナンバーの位置から出てくる。
エディー・ジョセフの原理のアレンジで、プロットも面白く、お客さんへの制限の根拠がきちんとあるのが素晴らしいです。

7.The Lost and the Found
お客さんの覚えたカードが何枚目にあるかを当てる。
割と面白いエディー・ジョセフの原理で、これは通用しそうです。

8.A Study in Scarlet and Black
ホームズとマジシャンの会話形式で、お客さんの覚えたカードがある位置を当てる。
「The Lost and the Found」をリモートでできる感じにアレンジしたような作品で、面白いです。

9.Travel Expands the Mind
色んな街の絵葉書を使って、たどり着く街を予言する。
「Elementary!」(TREACHEROUS IMPUZZIBILITIES)のバリエーションで、面白いです。

10.Raw Sentiment
6つのフレーズを使ったボードで、特定のフレーズをフォースする。
カンペみたいな演出は面白いですが、フレーズを選ぶという展開とクライマックスがあまり噛み合っていない気がします。

11.Mystery in Abstract
ラクガキの中で最後に残ったものが、肖像画で予言されている。
何と言うか、前衛的です。


7:UNEXPECTED IMPUZZIBILITIES (表紙はリス)
ユニークな演出が多く、読んでいて楽しい巻です。

1.Casting the Spell
スペリングで、演者の選んだカードとお客さんの選んだカードが出てくる。
面白いセットと綺麗な手順だと思います。
アンラッキーパターンだと整合性が崩れますが、そこまで気にならないかもしれません。

2.Stairway to Heaven
聖書の予言。
知識がないので良いのかどうかがちょっと分かりません。

3.The Poker Face
6枚のカードから覚えてもらった2枚を当てる。
鈴木徹「不思議な回り寿司」(テンヨー)をトランプにしただけで、気づかれやすくなっただけの改悪です。

4.Pure Evil
デックの中から取り出されるカードが予言されている。
手続き的にもややこしくなく、それでいて追いにくい有用な原理です。
演出も良く、箱に入れた状態から始めるのはクライマックスとの相性が良いですね。

5.Four-Card Monte
クイーンとあと3枚のカードで、クイーンの位置を当てる。
手軽な構成ですが、後半で妙にややこしくなっちゃった感じがします。

6.A Helping Hand
条件に沿って思い浮かべたカードを当てる。
まあ小ネタという感じです。

7.An Audience on Mars
夢の中で火星人に演じた手品を実演すると、お客さん全員が同じリアクションをする。
リモートに特化した手順で、演出も愉快です。面白い!
ここで言う火星人は、タコみたいなやつのことですね。

8.Your Friends in Oz
オズの魔法使いの世界で友達と別れて行くと、特定の友達が残る。
これもリモートに特化した手順ですが、ちょっと聞いていてややこしくなってしまいそうな手続きでした。
想像力を掻き立てるストーリーは良いです。

9.The Awful Words Trick
汚いスラングにも見えてしまう伏字の単語から、選ばれるものが予言されている。
Cue Card Mentalism(ENSUING IMPUZZIBILITIES)のバリエーションで、クソひどい(誉め言葉)です。
スラングの意味が分からないものもありましたが、分かると楽しいんだろうなあ。好き。

10.Fresh Fish Now
選ばれるワードが予言されている。
これもCue Card Mentalism(ENSUING IMPUZZIBILITIES)のバリエーションですが、元ネタがよく分からないので面白さもイマイチ分からないです。

11.My Word!
名言の中に出てくる単語で、複数のお客さんが覚えた単語をすべて当てる。
プリンセスカードトリック(マトリクスのほう)のアレンジで、よくここまでやろうと思ったなと感じるほどガチガチに構成されています。すごい。


8:CURIOUS IMPUZZIBILITIES (表紙は猫)
ハズレがない巻です。MAJIONで売ってます

1.One Exceptional Card (目次ではOne Incredible Card)
5枚のカードで選んだカードが出てくる。
原理も明快、シンプルで面白いです。

2.Two Way Switch
2人のお客さんに考えてもらった数の位置のカードが、考えてもらった数の位置から出てくる。
原理が巧妙で面白いです。

3.Three Wishes
何のカードがどんなふうに出てくるかを予言する。
プロットが良くできていて面白いです。

4.The "I Forgot of Something"
覚えたカードを見つけ出す手品で「忘れた」と言われた話をしつつ、ちゃんと出てくる。
ストーリー構成が良いし、原理も面白いです。

5.Blunt Force
電話番号を表すカードを混ぜても混ざらない。
混ぜていない感じには見えなくて、興味深い原理だと思いました。プロットも面白いですね。

6.Excessive Force
適当なスートの13枚+ジョーカーを配ったりすると、順番に並ぶ。
応用が利きそうな面白い原理です。数理的にどうしても1枚ずれてしまうところを上手く調整していて感心しました。

7.The Nine Card Enchantment
パケットでスペリングすると、トップとボトムが入れ替わる。
元々これはボトムがトップに来る原理だと思うのですが、それをトップとボトムのトランスポジションに利用しているのに驚きました。野心的な手順です。

8.Thurston's Coins
お客さんにコインを並べて操作してもらい、その残りの枚数を当てる。
リモートでできるコインマジックは貴重なのでありがたいですね。

9.A Pretend Magic Show
想像の世界のマジックショーで、消えた動物を言い当てる。
面白い!想像力を掻き立てるセリフ回しも素敵で、道具を使わないマジックとしての完成度が非常に高いです。

10.The Instructions What Make It Work
チラシに書かれている単語で、複数のお客さんに覚えてもらった単語をすべて当てる。
すごく作りこまれた作品で、準備してしまえば簡単に演じられて良いです。

11.The Poem What Read Your Mind
詩の中の単語で、お客さんに覚えてもらった単語を当てる。
「The Instructions What Make It Work」を、道具を使わず詩の暗唱で実現するバリエーションです。


9:VIRTUAL IMPUZZIBILITIES (表紙は犬)
リモート環境で演じる手品を特集した巻です。MAJIONで売ってます

1.Close Quarters
コインをひっくり返したり取り除いたりしてもらい、最後の一枚の裏表を当てる。
これが、なんか成り立たない気がしたのですが、こういう意味かな?と思って読み替えるとまあ成り立つようにはできたので、そういうことにしておきます。
確率的に考えてもそうなりそうな結果なので、あまり釈然としないかもしれません。

2.Crime Doesn't Pay
複数人のお客さんにコインを握ってもらい、何を握っているのか当てる。
学校なんかで話題にすると楽しそうな数理パズルです。

3.Welcome Change
コインの山を作ってからコインを移動していってもらい、特定の山の枚数を当てる。
原理が面白くて、頭の中でやると数理的な構造に気づいてしまいそうなのですが、実物でやってみるとちょっとびっくりします。

4.Zeitgeist
カードの特定の山の枚数がお客さんの宣言した数になる。
「Welcome Change」のバリエーションで、こっちのほうが演じやすい気がします。
複数人のお客さんに演じると、結果的に全員うまくいく感じが楽しいと思います。

5.Subversive Math
カードを配っていろいろ計算すると、カードのランクの合計値になる。
応用の利く原理ですが、ちょっとスペリングが唐突な部分があり、そこだけ残念です。

6.Tour de Force
10枚のカードで捨てたりカウントしたりすると、最後に見えているカードがフォースできる。
おおすごい。途中で捨てているのが攪乱になっていて、良くできたフォースです。

7.The Lie That Tells the Truth
スペリングで覚えたカードが出てくる。
The Full Deck Problem(IMPUZZIBILITIES) のバリエーション。普通に良いと思います。

8.Red-Scarlet
赤いカードと黒いカードが、スペリングで混ざる。
リモートのアンチオイルアンドウォーターというのは面白いのですが、どんどんスペリングが苦しくなっていくのが辛いです。

9.French Dressing
赤いカードと黒いカードが、スペリングで分離する。
今度はリモートのオイルアンドウォーターで、さんざん分離しないのが急に分離するというのは攪乱になっていて面白いです。

10.For Your Next Trick
お客さんの手元でカードを操作してもらい、演者の思い浮かべたカードが最後に残る。
有名なフォースをリモートで使うアイデアがとても面白くて勉強になります。

11.Hoodwinked
お客さんの手元でカードを覚えてもらい、カメラ越しにカードを当てる。
面白い!ほど良い曖昧さが手続きをシンプルにしつつ攪乱になっていて良いです。

12.The Deck That Knows
変なデックを使って、お客さんが自由に思い浮かべたカードを当てる。
とても良い!これは名作です。これだけで元が取れました。
シリーズのこの巻に興味がある人は、リモート環境で演じる手品を探していると思うのですが、これは道具を作ってしまえば簡単に演じられます。
Zoom飲み会で急に振られても、さっと道具を出してきて、その間にやり方を思い出せます。そのくらい単純です。
また、ノートパソコンのウェブカメラでも角度を変えず(手元を映さず)演じられますので、本当に重宝すると思います。
普通に演じるとメンタルマジック感が強くて重いので、私は道具を作るついでにケースも作ってしまって、オープニング部分が少しひょうきんになるようにしました。
これでラフな雰囲気で始められるようになります。よかったらやってみてください。

13.Virtual Applause
お客さんの反応が書かれたボードで、最後に残るものが予言されている。
「Cue Card Mentalism」(ENSUING IMPUZZIBILITIES)などのバリエーションです。
リモートでこういうのも良いですね。演出も楽しいです。

14.The Enigma Process
単語のリストからお客さんに決めたもらった単語を当てる。
ガチガチの構成に感心しました。リモートならではの手法が痛快です。

10:BEWILDERING IMPUZZIBILITIES (表紙はウサギ)
リモート環境で演じる手品やこれまでのアレンジ作品が良い感じに入った、オールスターな巻です。MAJIONで売ってます

1.Ovations
お客さんに郵送しておいた紙で操作してもらい、最後に残ったものを当てる。
前もって道具を送っておくタイプのリモート手品で、多少の想定外なこと(昨日封筒から出して混ぜちゃったとか)にも対応できる、良くできた作品です。
原理も賢くて良いです。

2.Match, Match, Match, Match
クイーンを出すことを予言して、すべてのクイーンが出てくる。
Pure Evil(UNEXPECTED IMPUZZIBILITIES)のアレンジで、原理がすごいのはもちろん、クライマックスの畳みかけも良いです。

3.Out!
お客さんと一緒にカードを配って、ちょうど終わるときにメッセージが出る。
これもPure Evil(UNEXPECTED IMPUZZIBILITIES)のアレンジで、原理も良く、演出も素敵です。

4.Pecor's Clock
お客さんの思い浮かべた時刻のカードにメッセージが出る。
古典的なクロックトリックの改案で、準備がちょっと面倒な割には取り立てて面白いこともないです。

5.Just Ten Cards
10枚のカードで、お客さんが決めた数のカードを見つけるのを繰り返す。
Ten in Concert(SUBSEQUENT IMPUZZIBILITIES)のアレンジで、ちょっとよく分からないプロットですが、テンポ良くやるとバンバン当た感じが気持ち良いかもしれません。

6.Traveling Companions
パケットの中から4枚のクイーンを、スペリングで取り出す。
原理はとても面白いのですが、ちょっとクイーンと演出の関りが薄いかな。
Subversive Math(Virtual IMPUZZIBILITIES)でも使われたあるスペリングが、この使い方は便利だなあと感じます。

7.The Rosetta Deck
お客さんに覚えてもらったカードを当てる。
ちょっと面倒な部分があって、リモートだと解消されそうなのですが、それはそれで怪しいかなあとも思います。
原理は面白いです。

8.Not a Princess
複数のお客さんに覚えてもらったカードを当てる。
「The Rosetta Deck」に近い面倒さがあるのですが、こちらは手間が少ないのと、リモートで演じやすそうなのがかなり使えそうです。
スパッと当たる感じが面白いと思います。

9.Three Times Impossible
3回数えてカードを当てる。
セルフワーキングではないと思うのですが、非常に綺麗で良い手品です。

10.Fastest Neatest
パケットを混ぜると、演技中のセリフにちなんだ並びになる。
数理的にはまあまあ綺麗な構造ですが、現象が分かりにくいです。

11.Will I Be Lucky?
占いの言葉を選んでスペリングすると、ラッキーカードが出る。
演出勝負な手順で、クライマックスまで含めてとても面白いです。
言葉のリストを眺めてみると、原理は単純なのですが、ここまでやられるともう圧巻です。

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