2023年2月1日水曜日

レビュー「ESPトリックコレクション」


のじまのぶゆき「ESPトリックコレクション」のレビューです。

MAJIONで発売になりました野島伸幸さんによるブランクバックESPカードを使ったマジックの作品集です。

商品紹介にも書かれているように、野島さんはESPカードによくあるアレは不要という考えから、ブランクバックのESPカードを採用されました。
私もそれは思っていて、でもブランクバックだと使いにくいケースが出てくるな……と考えて使っていませんでした。
ところが野島さんは、その使いにくいケースを逆手に取った新たな原理を発案し、それを利用した数々の作品を発表されました。
それらをまとめたものが、この作品集です。

以下、ひとつひとつの作品についてレビューしていきます。
総評は最後に書きますが、一言でいうと、スタンダードになるべき基本道具と、それを使った良質な作品集です。


・付属する道具について
商品ページに書かれているように、付いてくる基本道具はブランクバックのESPカード2組(10枚)です。
その他、収録作品を演じるのに必要な道具はほぼ全て含まれています。
手書きの予言は付いていませんが、それは適当な紙で自作するやつです。
DXセットだとAMAANを演じるセットが別で付いてきますが、こちらを買わなくてもAMAANを演じることはできます。
じゃあDXセットにするべきかどうかというと、個人的にはDXセットのほうをオススメします。
なぜかというと、AMAANのセット構成が優秀なので演じないとしても追加で持っておいて損はないからです。備えあれば憂いなしです。


・基礎技法など
ESPカードの基礎知識としてよく説明される事柄がきちんと説明されています。初心者でも安心です。
セット方法についてが嬉しいヒントで、10枚構成の利点といえる性質だと思います。


・ESPロケーション
超能力っぽさもある、基本的なESPカードの手順という感じです。
この手順の便利な性質が説明されていて、コレクションの最初のトリックにピッタリですね。ここから先を学ぶモチベーションになります。

・【オーディオコメンタリー】ESPロケーション
メンタルマジックについての考え方が勉強になります。
クロンダイクシャッフルやリフレクションプロブレムについても触れていますので、もっとESPカードについて勉強したいときの基礎知識を底上げしてくれています。


・ESPコンバージョン
メンタルマジックではない、割とマジカルな感じのESPカードの手順です。
こんな感じで、手品に使う基本道具の1つとしてESPカードがもっと採用されていってほしいですね。

・【オーディオコメンタリー】ESPコンバージョン
原案と比較した部分がESPカードの本質的な構造とも言える重要な特徴で、そこが学べるのは入門教材としてもポイントが高いです。
初期の手順との違いも勉強になります。確かにこの手順のほうが初期のものより良いですね。


・アップダウン
盛り上がりそうな一致現象です。
使われている原理についても解説されているので、ESPカードの手順全般に使える知識が増えます。
しかもその原理の応用が生まれていて、さらにすごいことになっています。
「アレは不要だからブランクバックにした」という人がこの応用を考えつくのは、本当に頭のネジがぶっ飛んでいると思います。

・【オーディオコメンタリー】アップダウン
実は現象に気になる部分があったのですが、オーディオコメンタリーで言及されていて、めちゃめちゃ賢い解決策を説明していました。
さらに追加アイデアとして、ちょっと気になるかもしれない動きの回避策が説明されています。
その中で、有用な基礎技法についても解説されているので知見が広がります。


ここまでが、ESPカードマジック入門といった感じの内容で、広くESPカードのマジック全般に使える技法や原理、考え方が中心でした。
少ない作品数に大事なことがかなり詰め込まれた良い教材だったと思います。
ESPカードの入門教材として見始めた人は、ここで一回休んでも良いかもしれません。
ここからドカンとコアになります。


・ESPトライアンフ
現象としては要するにトライアンフなのですが、怪しいことをしていない印象が強いです。
解説を見てびっくりします。良くできたトライアンフです。

・【オーディオコメンタリー】ESPトライアンフ
追加アイデアで、ちょっと使えるサトルティが説明されています。
これは基本的な見せ方とかではなくて、ゴリゴリにマニアックです。


・フリーナンバー
所謂CAANのような現象ですが、CAANではないと言われれば確かにCAANではないかもしれません。このあとAMAANという手品が控えているので、そういう意味ではこれはMAANですね。マァーン。
小さな工夫が積み重なって、かなり堅固な原理になっています。ハマればすごいと思います。

・【オーディオコメンタリー】フリーナンバー
先ほどハマればすごいと書きましたが、割とハマるよって話がされていました。ハマるならやりたいなあ。
別バージョンの説明がされていますが、私は没案のバージョン1が好みでした。


・サークルプレディクション
コメディ寄りの予言です。めっちゃ好きです。
ふざけ散らかしているかというと、タネに関わる大事なところでは非常に興味深い手法を使っています。
ESPカードの可能性を感じる作品でした。でもオチが一番好き。

・【オーディオコメンタリー】サークルプレディクション
話を聞くと、思ったよりちゃんとした構想でした。


・ESP Do As I Do
特殊な構成に、できること全てを詰め込んだようなパワフルな現象です。
封筒に分けて入っているので、これだけ持ち歩いていつでも演じられます。

・【オーディオコメンタリー】ESP Do As I Do
細かい工夫について説明されていて勉強になります。
このセットの大きな特徴について説明されますが、これが真骨頂と言える性質だと思います。
他にどんな応用ができるか考えると夢が広がります。
この作品だけで元が取れますね。


・AMAAN
アマァーン。Any Mark at Any Number です。
このプロットで、全然ムリがないのがすごいです。お客さんへの制限とか言い訳の苦しいアンラッキーパターンが存在しないので、これは演じてみたいと思えます。
これも真骨頂です。

・【オーディオコメンタリー】AMAAN
解説で、あれ?この構成で良いの?と思ったのですが、その理由が語られていました。
追加アイデアに応用できるということで、古き良きパケットトリック感が出て、好きな人には刺さると思いました。


・パーフェクトプラン
予言です。何食ったらこんなの思いつくんだという発想です。
実質これがコレクションの最後のトリックなので、最後にふさわしいユニークな作品でした。
どういう場面で演じるかについても説明されていて、ESPカードを現場でどう使うかについても学ぶことができます。

・【オーディオコメンタリー】パーフェクトプラン
ESP Do As I Do との比較が勉強になります。
これを聞くとパーフェクトプランの大事さというか、便利さが分かります。


・エライ・スゴイ・プレディクション(ボーナス)
単品で販売もされている作品の解説です。
この道具立ての優秀さがよく分かります。
補足映像で紹介されるアイデアも良いですね。知っておくと役に立つかもしれません。

・【オーディオコメンタリー】エライ・スゴイ・プレディクション
発売時からアップデートされた情報が補完された上でまとめられているので、しっくりきます。


・全体について
もうESPカードは全部このセットにしようよってくらい良かったです。
道具の特性にメリットが多すぎて、特に理由がなければマークのあるESPデックやライダーバックを買う選択肢がなくなりました。
10枚構成というのはよくあるESPデックの構成枚数25枚と比べると少ないですが、収録作品を見ると確かに10枚を基本として扱えば充分だなあと思えます。
もしも25枚構成の手順が演じたい場合、単純に枚数を増やせば良いだけなので、手順のつかない追加カードなんかも販売されるとうれしいですね。(現時点では単品で販売されているエライ・スゴイ・プレディクションを必要なだけ買い足すことになると思います)

ESPカードの入門教材としても優秀で、基礎的な構造や応用範囲の広い原理や技法などがしっかり解説されています。
これからESPカードのマジックについて勉強したいという人も、まずここから入って間違いないと思います。

スタンダードになるべき道具と、それを最大限に活用できる作品集です。
基本道具として多くのマジシャンに使って欲しいと感じます。

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