2023年6月16日金曜日

レビュー『The Monster of the Secret Art』

海道幹木(もっさん)『The Monster of the Secret Art』のレビューです。

もっさん(敬称略で失礼します)による2020年頃までの集大成的な作品集です。
日本でコインマジックをやっている方なら全員すでに持っていると思うのですが、世の中に在庫があるうちにレビューします。

ハードカバーで約300ページ、バリエーションを含めて30ほどの作品と技法が収録されています。
日本語で書かれた最近のコインマジックの本の中で、間違いなくトップクラスの完成度です。バイブルと言っても良い。
今まさにコインマジックの練習を始めた学生マジシャンさんとか、柔軟な感性を持った若い人さんにこそ読んで欲しいです。

では、作品を1つずつレビューしていきます。先に言っておきますが、ハズレ作品は無いです。


・KATSUKARE Steal
時代を変えた技法です。発表されてから、この技法を使った作品がボンボン生まれた気がします。私もひとつレパートリーに入れています。
これからのコインマンにとって常識のひとつになる技法だと思います。もうなってるかも。

・Easy Quick Four
カジュアルなフラッシュマトリクスです。
難易度も易しめで、こういう手順がひとつあるととても良いです。

・Flash Matrix
衆人環視の状況で演じるフラッシュマトリクスです。
現象はシンプルで伝わりやすく、ひとつひとつのムーブが堅固に守られる構造になっているので、きちんとこなせば安全に演じられそうですごいです。

・Another Flash Matrix
Flash Matrix からの、お客さんの「もう1度見たい」に応えるマトリクスです。
セリフ回しなどに観客の予想の上を行くための工夫が散りばめられており、非常に綺麗な手順になっています。

・Flashback
Another Flash Matrix の続きで演じる、一種のバックファイアです。
お客さんの想像力を撹乱するようなストーリー構成で、もしFlash Matrix からここまでの一連の流れが完璧にキマれば、それだけでショーが完成するほどの良質なクライマックスです。
ここで書かれている「ワンポイント・○○○」の考え方がとても勉強になります。

・Another Flash Matrix(No Gaffs)
Another Flash Matrix のバリエーションです。
確かに、元々のAnother Flash Matrix だとお客さんの「もう1度見たい」に応えられないシチュエーションが存在すると思うので、そこの解決策としても機能している作品だと思います。

・Reverse Matrix
シンプルなバックファイアマトリクスです。
動きの整合性に気を配っており、マトリクスにありがちな、どうせあのときにあれをしてたんでしょ?をことごとく回避する構造になっています。
使う技法についても丁寧に解説されているので、とてもためになります。

・Back Fire Assembly
ゴリゴリにバックファイアの、まさにその瞬間にフォーカスを当てた手順です。
バックファイアって上手く見せないと、失敗したように見えたり、変にコミカルになったり、何も起こってないように見えたりで、盛り上がるクライマックスとして持って来にくいと思うのですが、これはクライマックスです。
これだけコインマジックを真剣に考えているもっさんが、バックファイアそのものを研究していないワケがなくて、その成果のひとつの形だと思います。

・The Time on Matrix
もっさんの有名な「Watch the Watch」(後ほど出てきます)の兄弟分のような、コンテストアクトです。
すごい。見事です。

・International Chink a Chink
4種のコインを使ったチンカチンクです。
結構すごいことをしているのですが、表向きはその分めちゃめちゃ鮮やかです。

・Only Four
環境を選ばずに演じられる、ノーエキストラのチンカチンク・バックファイア・フラッシュの一連の手順です。
単売で出ていたときは、マットがなくてもまあまあいけるみたいな話が書かれていたと思うのですが、当時見たときの感想として、マットは欲しいなあと思っていました。
今回の記述ではマットは使う感じみたいですが、多分もっさんはマットなしでもできるんだと思います。
めちゃめちゃ良い手順で、何段階かの現象が起きるチンカチンクのお手本と言って良いでしょう。
チンカチンクやってみたいなあって方は、とりあえずこの作品から練習してみてはどうでしょうか。

・The Sympathetic Matrix
ハンカチを使ってコインをピラピラやってるだけで現象が起こるマトリクスです。
驚くほどクリーンで、もはや魔法です。
ハンカチが上手く活きているのですが、ハンカチでごちゃごちゃ怪しいことをしているワケではないのがまた凄いです。

・Three Fly
正統派のスリーフライです。
ユニークなスリーフライって、見た目にアクロバティックだったり奇をてらった動きがあったり、あるいはスリーフライじゃなくても良いような動きが混ざったりする気がしていたのですが、この手順は動きとしては綺麗なスリーフライで、見劣りする部分が全くありません。
簡単ではないですが、スリーフライの新しい可能性が見えた感じがします。

・Three Coins Across
ほぼ普通に見えるコインズアクロスです。
これも、もっさんがこの道具を研究していないワケがなくて、成果が見れて嬉しいです。
しかし使い方がちょっと驚きで、なんなら使っていないというか、濫用を本当に避けている手順構成が凄いと感じました。
これも一種の「ワンポイント」の考え方でしょうか。活用するということは決して、使える場面で使いまくることではないのだと勉強になりました。

・Invisible Traveler
変わったコインを使った飛行現象です。
この変わったコインそのものが演出として面白いのですが、そんなおもしろコインをびっくり箱的に使うのではなく、最も効果的に見せられるポイントのみで活用するという考え方が素敵です。
これも「ワンポイント」かも知れないです。終わり方も鮮やかで良いですね。

・One Hand Change
技法です。活用方法の提案と、練習用手順も付いてきます。

・Monster Spellbound
コインがモリモリモリモリ変わります。それでいて、そう難しくないどころか、なんならむしろ易しいです。
名作です。見たことある方も多いでしょう。
これの新バージョンも載っています。まだ改良の余地があったことにびっくりです。
知らないっていう方は、とりあえず演技動画を探して見てみてください。

・TEN(鼬)
最後がすごいワイルドコインです。
確かこれは、週刊MAJIONのおまけかなんかで発表されたやつだったのですが、どう考えてもおまけのクオリティじゃないだろうと思った記憶があります。
ワイルドコインの最後の、それもビジュアルさにフォーカスを当てた有用な考え方で、素晴らしいです。
手順としては難しい部分もあるのですが、本当に最後の見せ方だけでも参考になるので、読めば色々と考えるきっかけになると思います。

・Three Chip Monte
ポーカーチップを使ったモンテ風手順です。
スリーカードモンテをポーカーチップで行うアイデアということで、技法ゴリ押しかと思ったら意外にも賢いです。
カードでやるよりもビジュアルさが活きる感じで良いですね。

・Quiz
ホッピングハーフっぽい手順を違う方向から実現しています。
めっちゃ良い。ホッピングハーフではないですが、ホッピングハーフの完成形と言っても過言ではないです。
ストーリー展開もよくて、最後のびっくり箱的な現象が意味を持ったクライマックスに昇華されています。
見せ方だけでもためになるのに、手順構成も無理なく演じられるようかなり工夫されています。
ホッピングハーフをレパートリーに入れている方がこれを知ったら、乗り換えちゃうんじゃないかな。名作です。

・Watch the Watch
これも皆さんご存じでしょう。すごいワンコインルーティーンです。
軽い雰囲気からスタートして、ここまでインパクトを残せるワンコインルーティーンはなかなか無いですよね。
セリフ回しや演出も素敵です。これも、知らない方は演技動画を見てみてください。

・TSUKUMOGAMI(九十九神)
コインボックスの手順です。
手順全体ももちろん良いのですが、肝となる部分がこれまた時代を変える発想だと思います。何食ったらこんなの思いつくんだ。
コインボックスって色々な種類が販売されていて、たくさん集めている方もいらっしゃると思うのですが、そういう人ほど驚くと思います。
これからコインボックスを練習してみようという方にもおすすめできる、幅広く活用できそうなアイデアです。

・No RAVEN
名作RAVENを、RAVENなしでやろうというものです。何を言っているのか。
割と本当にそういうことがちゃんと起きるのがすごいです。

・KA VANISH
No RAVENでもっさんがナンセンスだと思った部分を改善したアイデアです。
このナンセンスだと思われた部分は、私も確かにちょっとナンセンスだなと思ってしまったのですが、到底解決できるとは思えなかったので、それを本当に解決してしまったということに驚愕です。

・NUDE
もっさん!ヌード見せて!!でおなじみのヌードです。
ライブレクチャーで言われてましたね。脱がなくて良かった。
コインが消えます。やってと言われればやれるくらいの精度でできるというのが、本当にモンスターです。

・Yin Sound
コインの音に関する技法です。

・Three Coin Production
Yin Sound を使ったコインプロダクションです。
これも、技法を濫用していません。「ワンポイント」ですね。
ユニークな道具や技法の活用について、本当に考えさせられる作品が多いです。

・Gimlet
ここからカードマジック、エースオープナーです。
無駄なことをしているハンドリングが特徴なのですが、私はこれは全然無駄ではなくて、かなりビジュアルさを向上させるアイデアとして活きていると思いました。
ただ、あえてこの方法を使わなくても別の方法でビジュアルさは担保できると言われればそれはそうで、そのあえてが良いですね。
無駄でない無駄は面白いです。

・Anytime Coincidence
セットなしで演じるトータルコインシデンス風の手順です。
賢く、実直なカードマジックです。それでいて難しくはないです。
ボリュームもちょうど良い程度にコンパクトで、クライマックスにもちゃんと終わった感があります。
コインマジックメインの作品集の締めくくりにふさわしいカードマジックだと思います。


全体として、褒めるところしかなくてどう言ったら良いのか逆に分からないくらい素晴らしい作品集です。
各作品のクレジットがめちゃめちゃ詳しいのも頼もしいですね。そこもおすすめしやすいポイントです。

まだ色々なショップに在庫があるみたいなので、興味はあるけど持っていないという方は、本当に、手に入るうちに手に入れておきましょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿