2023年6月10日土曜日

レビュー『コインがあやなす奇譚な物語』

ルイス・ピエドライタ『コインがあやなす奇譚な物語』 のレビューです。

Luis Piedrahita『Coin and Other Fables』 の日本語版(宗像寿祥 訳)です。
ユニークな技法と巧妙な見せ方によるコインマジックが10作品載っています。

技法の解説もありますが、そこは詳しく書くとタネに言及してしまいそうなので、手順のほうをレビューしていきます。


●カッパーとシルバー
全3段に渡る、銀貨と銅貨の交換現象です。
最初の現象がちょうど良いビジュアルさで、技法の使い方も良く、この部分だけを取り出して他の手順に応用しても使えると思います。
全体の構成も工夫されていて、勉強になります。

●4枚のコインの出現
コインが4枚出てくる現象なのですが、これ単体で完成されています。
コインのプロダクションって、オープナーとして軽く演じて次の演技に繋ぐイメージがあったのですが、ただ4枚のコインが出てくるだけでこんなに不思議に表現できるんだという驚きがありました。
よく考えたらコインが4枚出てくるって、すごいことですもんね。
もうこれ以上出てくるなんてありえないだろうときちんと思わせておいて、そこからまだコインが出てくるのが良いです。

●ラムゼイ・シリンダー
トイレットペーパーの芯を使ったシリンダーアンドコインです。
めっちゃ面白い。シリンダーアンドコインのコルク何やねん問題をうまく回避しています。

●コイン・スルー・ザ・テーブル
カンガルーコインのバリエーションです。
グラスの動かし方と音の使い方が秀逸で、視覚と聴覚を噛み合わせながら誘導することで上手い具合に現象が実現されている気がします。
裏側では結構大胆なことをしていて、きちんと習得すれば武器になりそうな動きがたくさんあります。

●4枚のコインとスポンジ
コインと、100均に有りそうなスポンジを使った手順です。
すごく楽しいです。コインがシューンとスポンジに吸収されて、そしてジュワーっと出てくる様子が念入りに表現されています。
演出の原案は別の人らしいので、そちらも気になりました。

●コイン・イン・アスピリン
サインされたコインが錠剤から出てきます。
錠剤というよりは、小さめのバブというか、発泡するバスボムのイメージでしょうか。
シンプルながら強烈な見せ方で、これはすごいインパクトを残しそうです。
こちらも演出の原案は別の人らしいです。

●サイン付きコインの飛行
サインしたコインのコインズ・アクロスです。
正直、ここまでやるか……と思ったりもするのですが、ここまでやるだけあってとてもクリーンです。
同じ現象を実現したいなら、多くのマジシャンはもっとごちゃごちゃした手法を選びそうです。
セリフ回しや身の切り方にも工夫が凝らされており、勉強になります。

●ワイルド・コイン
良い手順のワイルド・コインです。道具立てとその扱いが、とても好みです。
何食ったらこんなの思いつくんだという感じです。本当に良くできている。

●ハンカチを通り抜けるコイン
コインがシルクみたいなハンカチを通り抜けます。
なんだこれ。奇想天外。道具の使い方も秀逸で、何と言うか手順全体がすごい構造です。
本当にお客さんの目の前で成立するのかなとも思うのですが、成立するんでしょうね。
面白いです。

●プチプチ・マトリクス
梱包材のプチプチを使ったマトリクスです。
が、マトリクスの前段階のコインの出現がもう既にすごいです。
マジでプチプチの粒のひとつからコインがポン、という感じですね。
マトリクスの部分まで行くと結構えげつないことをやっている気がするのですが、プチプチの性質を活かして無理のない形に落とし込んでいます。
このままやるとなるとハードルが高そうですが、コインの出現の部分だけでも何か上手い見せ方のヒントになると思います。


全体を通して、レイアウトがちょっと読みにくいかなと思った部分もあるのですが、それぞれの技法や手順は写真が豊富で、演技をイメージしながら楽しく読み進めることができました。

実際にレパートリーにするかと言うと、ちょっとハードルが高く思えてしまう手順が多いのですが、いざ道具を揃えて腹を括れば習得できる気がしますし、そうやって腹を括る人が少ない気がするので、他の人と違うコインマジックを探している人にはとても良いと思います。


もともとこれを読もうと思ったきっかけは、盲学校マジックのコインマジックを考えているときに、プラスアルファで演出面の強化ができる追加のマテリアルはどういったものが使えるのかなと思い、そういった道具立てのデザインが上手いK-GOさんの『Anticlassic』でこの本がクレジットされていたので、じゃあ読むか、という感じでした。

なので私の場合は、腹を括って習得するかというと、ハードルが高いな……のほうなのですが、盲学校マジック方面での収穫はかなり有ったので、いずれ活かせると思っています。
あ、でも「ワイルド・コイン」だけ例外で、ちょっとやってみたさがありますね。

良い本でした。スクリプト・マヌーヴァで買えて、演技映像もいくつか見れます。

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