2020年5月11日月曜日

レビュー『原理主義』


佐藤水城さん著『原理主義』のレビューです。



マジックマーケットオンライン2020の商品ですが、厳密にはマジックマーケットでは買い逃したため、その後に販売を開始したMAJIONさんで購入しました。
あみだくじを使った、数理的でクレバーな作品をメインに据えた作品集です。


・阿弥陀#2.2 ※主にこの作品についてレビューします。
あみだくじで、好きな場所をお客さんに選んでもらうと、大吉が出ます。
本当に、それだけです。
ドラマツルギーを与えるような演出とかもない、シンプルな現象です。
巧妙な原理によって成り立つ、天才的な発想の手品でした。

さて、筆者はあとがきで次のように述べています。
「表から見た作業や手続きに一切不可解な点がない、さらには手法の見当もつかない」
という作品ができた、と。

まず「表から見た作業や手続きに一切不可解な点がない」についてですが、本当です。
本当にただ、あみだくじをするだけです。怪しい動きは一切ありません。
しかし「不可解な点がない」かというとそうではありません。
作業や手続きではない部分に、妙な違和感がずっと漂っている、そんな印象です。
違和感はぼんやりとしたものではなく、その箇所は明確です。具体的には伏せます。
現象説明が非常に丁寧に(本当に丁寧すぎるほど)書かれていたこともあり、読んだ段階で、おや?と思う部分がありました。
そしてそれが、秘密の一部に直結していました。

「手法の見当もつかない」は、本当ではないと思います。
かすかな違和感がいくつかあり、それらがふと噛み合ってしまうと、手法はほぼ確信を持って予想できてしまいます。
手品をこう表現するのは良くないのですが、まるで出来の良い謎解きのようです。
完全犯罪を(勝手に)期待していたので、このほころびは少し残念でした。
見えている証拠から類推される結論はブラフであって欲しかった……

しかし、手順自体が短いこともあり、演じる上で気づかれることはないと思います。
違和感はずっと眠っていて、起きる要素はないでしょう。
演者は、すぐそこに見えている出口に向かって、まっすぐ歩くだけです。
ただその一本道が、実は崖の上という感じです。
崖の上とは言え、気にせずまっすぐ歩くだけなのですが、それができればどれほど楽か……
きちんと演じられる人は、本当にすごいと思います。
色々考えさせられました。とても良い作品です。


・阿弥陀#1.3
あみだくじの手品ですが、お客さんに線を書き加えてもらったり、書き加えてもらわなかったりします。
原理は阿弥陀#2.2よりシンプルですが、わちゃわちゃ盛り上がる感じはこちらの方がありそうです。
どっちが好きかと言われると、とても迷いますが、阿弥陀#2.2かなー。うーんでも、見たときに「面白かった!」って思うのは阿弥陀#1.3の方かもしれません。
阿弥陀#2.2が阿弥陀#1.3のアップデートと考えず、それぞれがとても面白い別の手品だと思っておくのが良さそうです。


・Card Place Location
セミオートマチックな、ちょっと変わったカード当てです。
最初に読んだときは、ここでカードマジックが来ると作品集全体のテーマが崩れるのでは?と思ったのですが、そんなことはなかったです。
まさに「原理主義」っていう感じの手品でした。
セットして、やってみて、ああ、機能する。というのを楽しむ、ピタゴラ装置のような手品です。
ちゃんとカチッとはまる感じがあるんですよね。書きすぎると良くないのですが、それが心地良いです。
お客さんに操作してもらう手品なのに、一人でも楽しめるという、なんとも素敵な手品でした。


・おまけ
おまけのあみだくじが付いてました。
ヨッシーアイランドのミニゲームみたいな気分で参加できて面白かったです。


・全体
ピタゴラ装置という喩えを出しましたが、全体的にそんな感じでした。
綿密に準備された装置に、演者は玉を置くだけです。

阿弥陀#1.3は、途中の分岐があるのでちょっとピタゴラ装置とは違うかもしれないですが、任意の分岐があっても機能するピタゴラ装置って面白いですね。

Card Place Locationは、技術的な部分も少しありながら実質はピタゴラ装置です。
一人でやる分には本当に、玉を置いて、機能する、というのを楽しめます。
ちゃんと人に演じろよって思われそうですが、これは一人で楽しみたいかも。

阿弥陀#2.2は、まさに、まさに、ピタゴラ装置です。
スタートによらず、装置が完全に機能して、正しい結果が出ます。
本当に天才的な仕組みです。
上で色々と感想を書きましたが、ピタゴラ装置に玉を置くその手が震えないかだけのことです。それができればどれほど楽か……

この冊子、手元に届いてからほんの数日ながら、毎日読みました。
20ページほどの分量ですが、繰り返し読んで、考えて、また読んで、そして手を動かして、考えて、また読んでを繰り返しました。
これほど何度も読み返すレクチャーノートって、今まで出会えなかった気がします。

原理はあまり多くの人に知られたくはないですが、それでも、多くの人に読んで欲しい冊子です。
MAJIONさんで買ったのでマジックマーケットのベストにはカウントしていませんが、今回のマジックマーケットで最も感動したレクチャーノートのひとつです。

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