2022年1月4日火曜日

レビュー「MENTAL NOTE」

マジックマーケット2021冬にて頒布された【東北大学クロマドウ会】ブース「MENTAL NOTE」のレビューです。 



52Hz」作者のムナカタ・ヒロシさんによる新刊で、3つのメンタルマジックとアイデアが載っている小冊子です。

とっても簡単ということもなく、難しすぎるということもない、絶妙なラインの手順が多い印象です。簡単・難しいと言っても手先の話ではなく、なんと言うかもっと全体的な、演じる難易度という感じです。技術的にはどちらかというと簡単寄りです。

中身を順にレビューしていきます。


・'TEMAKI' Mind Reading
ある有名でない原理を応用したカードマジックです。
手順の説明を読み進めながら「多分こういうことをするんだろうなあ」と想像していたものとは全然違うことをしていて、こんな手品ができあがるのかと感心しました。
使う枚数が少ない分、見た目にシンプルな手順になっていて、それでいて可愛らしい演出やゲーム性はないので、王道のメンタルマジックという印象を持たれると思います。

借りたデックでもさっと準備して演じられますし、トランプが52枚揃っていなくても大丈夫で、それだけラフに演じられる分、現象の不思議さが引き立ちます。
みんなで温泉旅行に行ったときに、ババ抜きついでに「なんかやってよ」のレパートリーとして、これまでやってたやつに飽きた人にオススメです。


・The Triumphant Poker
ある有名な原理と、そうでもない手法を用いたポーカーデモンストレーションです。
この原理と手法を一緒に用いた手順は私も1つやっているのですが(ポーカーデモンストレーションではないです)、この手法はこの原理と非常に相性が良いですよね。

ただこの手法には強みとデメリットが混在していて、まず強みとしてはカードがしっちゃかめっちゃかになっているように感じられるということで、お客さんが「ここまでしっちゃかめっちゃかにしたのに」とかなり強く思います。デメリットは同じく、しっちゃかめっちゃかに見えるということで、お客さんが「何もそこまでしなくても」と思います。
トランプを使った手順、特にポーカーデモンストレーションなんかだとこのデメリットの解消が難しくて、ポーカーっぽいことをする上でここまでしっちゃかめっちゃかにする必要なんて全然ないんですよね。何か演出であったり手品の効果を高める上で、しっちゃかめっちゃかにする利点が感じられないのであれば、この手法は不適切になりがちです。

その点がこの手順では、うまいことできていて面白いです。ちょうど良いところに脚注が有ったので使いますが、脚注の1と2の部分がまさにそれです。
1の方はしっちゃかめっちゃかだからこそ、上手く決まればこの部分でお客さんが自然に「確かに」と思って、手品の効果が高まります。
2の方は、この手法だからこそパケットを……することの不自然さが消えますし、この部分のセリフを聞いてやはり自然に「確かに」と思えます。

この原理とこの手法の組み合わせは強力でありながら自然な手順に仕上げるのが難しく、そこを上手にまとめた良作だと思いました。


・37+1
めちゃめちゃラ〇〇〇〇〇ニッシュが上手いカイジ。
カイジと言いましたがイカサマの手法ではなくて、全てが演者に理のある、演者必勝のゲームです。※追記:それはカイジではなくて『賭博覇王伝 零』ですね。
最後の部分が後出しジャンケンのようにも思えますが、きちんと手順全体を整理して正しく演じれば、全ては「演者が前もって用意したルールに従って、客が自由に選択をした結果、客が必ず負けるゲーム」であることが理解できると思います。

理解できるということと感覚的に納得できるということは別なので、これで演者が「私の勝ちです」と言ったところでお客さんがスッキリするかというとそうでもないです。でも、論理的思考力のあるお客さんなら結果が不服でもとりあえず理解はすると思います。

もちろんこれが実際に金品を賭けたゲームで、負けた側が何かを失うものであったなら、お客さんはこんな結果は認めないぞイカサマだと声を張り上げるとは思います。
冊子に収録された3つの作品の中でこれが一番好きでした。


・O.M.O.Force
あるフォースのアイデアですが、これは良いですね。
要するに、フォーシングバッグを使わずにフォーシングバッグのようなフォースを実現する方法です。

紙片のフォースにおいてフォーシングバッグは強力な道具だと思っているのですが、同時に唯一の難点はフォーシングバッグを使うことだと思っています。複数の紙片から1枚を選ぶとき、パーラーみたいな環境でない限り、バッグなんていらないですよね。
このフォースはそこをクリアに解決していて、クロースアップならもうこれで良いですね。やはりバッグは必要なかった。

フォーシングバッグと比べて、多少の制約はある気がします。また、フォーシングバッグならもっと雑に進められるという違いもあります。
でも、ギミックがないということはそれだけ気を遣う必要もないわけですし、複数の紙片から1つを選ぶ作業ってそんな雑にやることではないと思うんですよね。あまり多くない紙片の中から、お客さんが演者の思惑を外すつもりでじっくり吟味して選んでもらう方が、王道のメンタルマジックとして誠実なやり方だと思っています。

上手くハマればこの上なく強烈な印象を与えられる面でも、とても有用なフォースだと思いました。


めちゃめちゃ良い冊子なのに今のところあまり話題になっていない気がしていて、このままお蔵入りにならないか心配です。ひっそりと知る人ぞ知る冊子になるよりは、多くのマジシャンに広く読まれて欲しい冊子ですね。
気が早いかもしれませんが、再販とかデジタル版の販売とか、ムナカタ・ヒロシさんのショップで買えるようになったりとかすると良いなと思います。


薄めの冊子で読みやすく、王道っぽいメンタルマジックながらありきたりではないので、文化祭とかのマジックカフェに向けてこういう路線のレパートリーを増やしたい学生マジシャンなんかにもオススメです。

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