2022年12月4日日曜日

レビュー『ear marked』

Werner Miller の作品集『ear marked』を読み終えたので、そのレビューです。

日本でWerner Miller というマジシャン(クリエイター)を知っている人は少ないと思います。
知っているとすれば、Aldo Colombini の『ESP Card Magic』シリーズで取り上げられていて興味を持ったか、『Tricks To Go』シリーズで知ったか、Lybrary で新刊が出たタイミングにたまたま見かけたか、といった具合でしょうか。

演じるためのマジックでなくその原理や構造に興味を持っている人のようで、全体的に数理的に成り立つセルフワーキングのような作品が多いです。
『ear marked』は英語で書かれた氏の最初の作品集で、主に1990年代から2000年代前半に作られたものが50作品以上載っています。
どんな内容かそれぞれの作品に一言ずつコメントしてみますので、参考にしてみてください。

ただWerner Miller 作品の面白さは、他に誰も気づいていないような数理的な原理を手品に応用しようとするその意気込みみたいなところにあると思っていて、即戦力になるような実用に耐える作品を探している人にとっては不向きだと思います。
よくこんなこと思いついたな!と、驚き半分、呆れ半分で楽しむのがオススメです。

以下、レビューです。面白い作品には★マークを付けることにします。

・Royal Gifts
氏の代表的なムーブ「ジグザグディール」の性質を使って、4人の観客に覚えてもらったカードと4枚のキングをコントロールする。
↑いきなりもう、何を言っているのか分からないですよね。割とこんな感じです。

・Alias AKA
デックと名刺を使った警察犬プロット。
奇数枚のフリーカットプリンシプルが目新しいけれども、まあ特にメリットがあるわけではない。

・Heavy-Ho!
力持ちのジャックがバーベルを持ち上げるカードマジック。
演出が意味不明で、かえって興味深い。

・Ladies on a Visit
エースボナンザみたいなカッティングエーセスのプロット。でも操作は全部演者がやる。

・Hidden Reserves
花占いの手法で、4枚のクイーンを取り出す。
セットアップがシンプルで良く、細かいところがちょっと賢くて感心する。

★AA37
6つのサイコロで作った6桁の数が、必ず37で割り切れる。
37の倍数判定法とサイコロの親和性が高いということに気づいた驚異の発想。
ちょっと手順がややこしくて、一回読んでも何が起きているのか分からないと思うけれども、その裏で機能している原理に気づくと、ああー!なるほど!と膝を打ってしまう。
実用性は皆無だけれども、こういう原理に出会えるからWerner Miller は最高ですね。

・The Calendar Card
暦を数える感じでお客さんの選んだカードを当てる。

・Giallo
「タンタライザーって長くなるし、2枚ずつ配ったらええんちゃう(意訳)」
気持ちは分かるけれども……という感じ。

★Teamwork
適当なスートの13枚のカードで色々やっても混ざらないというプロット。
この作品自体はごちゃごちゃしすぎていて好みではなかったけれども、バリエーションとして紹介されている「Unconventional Card Dealing」「The Phoenix Deal」がとても面白かったので★マークにしました。
特に「Unconventional Card Dealing」が好み。こちらは氏の別の作品集『Da Capo 1』に載っていて、なんと実演できる手品です。
原理としては「The Phoenix Deal」が面白く、『Da Capo 2』に載っているのですが、なぜその式で成り立つのか私はまだ示せていません。

・With Distributed Parts
お客さんの選んだカードが、計算によって得られた枚数目から出てくる。
というプロットを、別室に霊媒師役の人を用意してまでわざわざ仰々しくやる。

・ESP Marathon
20枚のESPカードを配り分けてから、次々と一致するシンボルのペアを取り出す。
4回目まではシンプルで良いけれども、そこからごちゃごちゃし出すのが残念。

・Pet Ghost
かわいい折り紙の図。

★Swindle Bet
適当なスートの1から10のカードを使って賭けをすると、演者が勝つ。
原理と演出が上手に噛み合っていて、面白い作品。
原理の部分は他の道具立てで見た方法な気がするけれども、こんな風にも使えるんだと勉強になった。
演出の部分でどうしても20ドル紙幣を使うので、日本円でできないのが残念。
セットアップの煩雑さは、技法を使って良いならむしろ簡単に解決できそう。

・Almost Fool-Proof
Ken de Courcy「Cutting Middle to Top」のアレンジで、サトルティを使ったトップコントロール。

・Virtus in Medio
先述の「Almost Fool-Proof」を使ったサンドイッチ現象。あまり上手く使えていない気がする。

・Caught Together, Hanged Together
プログレッシブサンドイッチっぽい感じだけれども、最初に挟まった複数枚がフォーオブアカインドで一気に片が付くプロット。
細かい部分を調整すれば、演じようによっては悪くないと思う。

★RFF Sandwich
Reverse Forward Faro を使ったサンドイッチ現象。
2段階に分かれているけれども、実質別の手品。
前半はリモートでもできる手順で、後半はランダム要素の介入の余地がある。それぞれ良さがある。

・On Tour
チェス盤のパズル。

・Aeolic Prelude
方位磁針を使ったESPカードのオープニングアクト。
本当に方位磁針で方角を見て、それに合わせてカードを配る(つまり、演じる席の向きによってカードの配り方が変わる)というのは斬新だと思う。

・All–Some–One
メイトカードがマッチする手品4連発。
3つ目の、色のみに注目したバリエーションが一番良いと思う。

・Court Card Company
12枚の絵札がグループごとに分かれるプロットが2つ。
後半のバージョンのほうが良いかな。

・Programmates
パワーオブソートのようなプロット。
数理的に整合性の合わない部分の解決策が強引で、ちょっと惜しい。

・Queens and Kings
強引なロイヤルマリッジ。途中「うまくやってね」みたいなところがあって、ちょっと困る。

・...The Girls' Best Friends
ダイヤの宝石コレクションと、それを狙う2人組の女怪盗が登場するストーリー仕立てのマジック。
怪盗が一瞬で捕まって笑える。

・Fifty-Fifty
宝くじの賞金と代金が一致してしまって損も得もしないというプロット。
でも計算すると確率的に損をする宝くじになっているので、こんな宝くじは買わない。

・Il Tuo Ferrari
車のイラストカードを使って、お客さんが選んだ車を当てたり当てられなかったりする。
当てられないときのアウトはもはや手品になっていない。そんなのアリなんだ。

★Gag Card Triplets
お客さんに選んでもらったマークと数字から作られるカードの位置を当てる。
まず原理がとても面白いけれども、Stewart James 「In the Money」のアレンジということで、原理は原案のものなのかな?未確認です。
そしてもし既存の原理だとしても、位置を当てるというプロットとジョークなど演出の部分がマッチしていて非常に良い手品に仕上がっている。
とても面白い。

★Klondyke Separation
12枚の絵札から、お客さんの選んだランクのカードを次々見つけ出し、最後は綺麗に終わる。
クロンダイクシャッフルのお手本みたいな、シンプルで良いセルフワーキングトリック。

・Matching Queen
4枚のキングを並べて、そこにカードを配ると、選んだキングのところだけクイーンが出てくる。
ちょっと説明しづらい。そういう感じ。

・Monge 415
モンジュシャッフルで起こる変わった原理と、それを使った手順の紹介。
割と制約が軽めな原理で、もっと上手い応用の余地がありそう。

・RFF Aces
Reverse Forward Faro を使ったサンドイッチ現象だけれども、成り立たない
低確率で失敗するケースがある。

・Standing Pat
5枚ずつのパケットのうち、1枚が入れ変わる。
前半のバージョンはシンプルで良いけれども、後半のバージョンは途中でまとめて混ぜちゃってるから入れ替わってる感じがしない気がする。

・A Son of Pay Day
適当なスートの13枚を使って、3人の観客にそれぞれ絵札を選んでもらったあと指示通りの手続きをしてもらい、誰がどの絵札を選んだかを当てる。
原理はちょっと面白いけれども、Jack Vosburgh「Pay Day」のアレンジらしくて、原理は原案のものかな?未確認。

・Two Pyramentid Variations
カードをピラミッド状に並べて何かが起きる。

・Bogy, the Magic Rabbit
カードを持ったウサギのボードの作り方。

・Meow
猫のイラストカードを使ったパケットトリック。

・The Chain Letter
封筒で、繋がった輪を作る方法。(手品ではない)

・Crazy Square
魔方陣になっていない盤が魔方陣になる。(手品ではある)

・Prima Vista
20枚の紙片を使って計算結果を言い当てる。
手品というよりは、おもしろ計算。

・The Simplest
サッカーダイボックスのようなものの作り方のアイデア。

・Quick Change Square
魔方陣を一瞬で完成させる。
メカニズムは面白いけれども、手品というよりは教具。

★Don't Trust in Colors!
7枚のカラータイルを使って、演者と同じことをやってもらうけれども、観客には絶対できない。
面白い!原理も良いし、色の視覚的なセイリエンシーが怪しさを上手く攪乱している気がする。
実用的な手品だと思う。

・Mama Repuma
掛け算が書かれた棒の乗号をスライドさせると、その計算結果が裏に書かれている。
手品というよりは算数おもちゃとして面白い。

・Do-It-Yourself Genii Tube
ジニーチューブを自作するための設計図。

・Dice Stacks – A New Principle
特殊なサイコロを使った、上下の面の目の和の特定方法。
原理というかアイデアは面白い。使いようによっては実用に耐えるかも。

・Xcross
Skatというゲームで使うデックから選んだカードを、64マスのボードから特定する。

・Twin Dice Tunnel
マッチ箱を使って作る、2個のダイスを同時に通すダイストンネルのアイデア。

・Muribus Unitis
プロフェッサーズナイトメアの演出とその道具。

★Whirl Squares
2つのボードに猛スピードで魔方陣を完成させる。
魔方陣のマジックは退屈ということを逆手に取った作品ということで、実は期待していなかったけれども読んでみたら結構面白かった。
原理、仕掛け、演出が上手に噛み合った良作だと思う。

・Opus
36枚の紙片それぞれに2つずつ書かれた桁数の多い数の、和か差を一瞬で計算する。

・That's An Old One!?
16枚のカードで複数名の観客が覚えたペアを演者が見つけていく。

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