2023年9月2日土曜日

レビュー『ESPecial Works』

SAMR『ESPecial Works』のレビューです。

謎のESPカード研究家SAMR氏による、レギュラーのESPカード10枚を使ったカードマジックが10作品載っています。

MAJIONの商品紹介ページによると、SAMR氏は数十年に渡りESPカードと数理原理を研究されている方で、別名義での商品が存在するということで……
おや?と思った人も多いのではないでしょうか。そして、もしもあの人の作品集が商品化されたのだとしたら、買わない手はないでしょう。

と、野暮な詮索は切り上げて、中身を見ていきます。
ESPカードが10枚付属しています。
また特典映像として、のじまのぶゆき氏による演技動画が見れます。
この演技動画がまた良くて、演技のテンポや現象の示し方などがとても参考になります。


・IDEAL MATCH
本書のメインとなる原理を使った、シンボルのペアを作る手順です。
原理を成立させるムーブや、そのバリエーションなどが色々と解説されています。
10枚構成のESPカードにおける基本原理と言っても良いくらい、応用範囲の広い原理です。

・ACT OF THREE
IDEAL MATCH の原理を使ったバリエーションという感じで、3という数字に着目した手順です。
ひとつひとつの動きに神秘的な意味づけをすることで、また違った印象の作品になっています。

・MAD MATE
お客さんの選んだカードに共鳴するかのように、同じシンボルのペアができます。
見せ方がとても面白いです。ペアができる現象ではあるのですが、視覚的にはシンボルのまとまりを作っているような感じで、得られる印象としてはオイルアンドウォーターが近いです。
ESPカードのすべてのシンボルを使ってオイルアンドウォーターをやった手順ってほとんどないと思うので、斬新です。

・ALTERNATIVE LINE
MAD MATE と似た手順ですが、視覚的にはカードが浮かび上がってくるような感じで、得られる印象としてはアンビシャスカードが近いです。
クライマックスとしてペアができる現象が付加されている感じですが、ここに何か自然な繋がりを演出できれば、よりしっくりくるだろうなあと感じます。

・HAUGHTY CATO
有名な原理を使って、よく混ぜた中からお客さんの選んだシンボルだけひっくり返ります。
この原理は一般的なESPデック丸ごと1組だと相性が悪いのですが、本書の道具構成では上手に機能します。
原理を知らなかったら追えないと思います。面白い。

・IMBALANCE MIX
HAUGHTY CATO のバリエーションで、演者がごちゃごちゃやる部分があるのですが、そのおかげで全体的にすっきりしていて、かつ混ぜてる感がより良く演出できていると思います。
原理でぶん殴りたいならHAUGHTY CATO かなって感じですが、実際に演じるならこちらになりそうです。

・RANDAM CARPET
カードを並べてパタパタやるあれですが、この枚数でやるの!?と驚きました。
配置も独特な気がしますが、2枚置く箇所とかはなく、かなりシンプルな手続きで違和感なく見れると思います。
賢い手順です。

・ABUSIVE ROUTINE
全3段からなるカード当てです。
特に2段目が面白くて、ESPデックだと普通は機能しない手法を、道具構成を活かして機能するようにして使っています。
不可能性を強調してしっかり混ぜながら進めていくのですが、お客さんの推測の先を行くような見せ方で、冗長にならず飽きずに見れる手順だと思います。

・KIDDER.S
スペリングのトリックです。
これはまあ、普通です。私はかなり好きなタイプのやつです。
原理的な部分の理解も含めて、本書の中で一番簡単な作品かと思います。
ESPカード初心者で、IDEAL MATCH やHAUGHTY CATO が何をやっているのかちんぷんかんぷんな人は、まずこの手順を実際にやってみて慣れてみると良いかもしれません。

・IMITATION MARLO
演者、観客の順でカードを2枚ずつ出し、それが一致します。
チョイスとチャンス的なプロットで、原理が上手く噛み合った良い手順です。


これらに加えて、IDEAL MATCH の原理を使った、のじまのぶゆき氏によるボーナストリックが2作品、動画で解説されています。
また、予約特典として、のじまのぶゆき氏の「No Set No Look」という手順が付いていました。
この「No Set No Look」がまた応用範囲の広い原理で、面白いです。


全体として、ESPカード10枚で演じる非常にハイクオリティな作品集でした。

以前にレビューした、のじまのぶゆき氏の『ESPトリックコレクション』も、ESPカード10枚での作品集でしたね。(レビューはこちら)

のじまのぶゆき氏の作品集がオリジナリティあふれる攻めの作品集とすれば、SAMR氏の本書は先人のアイデアを踏襲した守りの作品集という感じです。

どちらもMAJIONで販売されていますので、併せて読む・見るとESPカードの理解が深まると思います。


ところで、前書きでHoward Adams とWerner Miller に言及されているのですが、この人達は原理としては天才的なものをいくつも生み出している割に、実際の手品となると、ひどいセンスの手順構成になっていることが多いです。
なるほどその原理を使ってそういう現象を起こしたいのは分かったけど、なぜそんな手順になってしまったんだ、的な。本当に信じられない。

それに比べてSAMR氏の手順は非常にすっきりしていて、演じる人にも見る人にも気を配った実用的な作品になっています。
時にはABUSIVE ROUTINE のようにダイレクトに現象を起こしたり、はたまたACT OF THREE のように気の利いた演出で場を盛り上げたり。
バラエティ豊かな見せ方で作品集を彩っています。

そんな洗練された作品に、のじまのぶゆき氏による磨きのかかった実演動画がつくわけです。
一通り読み終えて、見終えて、ああ、ESPカードってこんなに面白い道具だったんだなあとしみじみ思います。
この作品集と付属の道具、そして実演動画をセットにして、ESPカードマジックの完成されたスターターキットと言って良いでしょう。
本当に素敵な商品が出たなあと思います。良い時代になりましたね。

2 件のコメント:

  1. 「ESPecial Works」への評価ありがとうございます。ESPカードの作品を愛していただき光栄です。さて、これはノートにも書いていない「お遊び」について触れます。作品が10作品ありますが、そのタイトルの頭文字だけを読んでいただくと、それが隠しメッセージとなっています。エラリー・クイーンが国名シリーズのどれかに同じアイデアを盛り込んだと聞いたことありますが、それと同じことをやってみました。拡散を希望はしませんが、このメッセージが何かわかった時に何か「納得」してもらえるんじゃないかと思ってます。

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  2. コメントを見落としていました!すみません!
    素晴らしい作品集をありがとうございます。とても「納得」しました。

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