2021年5月11日火曜日

レビュー「君は細部に宿る」



マジックマーケット2021春にて頒布された、うたかたアレンジメント ブース「君は細部に宿る」のレビューです。

著者のあぶくさんは元・京都の学生マジシャンでして、その界隈では知らない人のいない"伝説の人"です。僕も何度かお会いしました。

初めてお見かけしたのは河原町のカチャマタというダイニングバーで、確かBeeさんが企画されたD.J.p.k.g.さんの誕生日会がありまして、チンチロさんにその会に誘って頂いたときだったかと思います。(この時点ですごいメンバーですね)

カップルで飲みに来ている一般のお客さんのテーブルに活き活きと近づき、クロースアップマジックで場をドッカンドッカン沸かせている"伝説の人"の演技を遠くから拝見し、若き日の私が「手品って実はすごいんだなあ」と思うきっかけになりました。

名パフォーマーは自分の演技について記録を残さないことも多い印象で、あぶくさんもそのすごさを人づてには聞くものの、これまでまとまった作品集やレクチャーノートを残していなかったかと思います。

そんなあぶくさんの作品集がマジックマーケットで販売されるということで、これは絶対買うぞ!と決めていたのですが、なんと色々あってご本人から頂戴してしまいました。

あぶくさんの賢さと優しさがたくさん詰まっている本です。
ひとつひとつの作品について、レビューしていきましょう。


・The Stage ”Finger”

サイドスチールのちょっとしたコツです。
このあとシャトルパスでも思うのですが、これらの技法のコツというのが、実際に手を動かしてみると、なるほど確かに良いかも……と思える、実感を伴う感じのコツです。
決して簡単ではないのですが、練習して使ってみたいと思えます。


・袖の下から

ラテラルパームを使ってちょっと面白いことをするバリエーションです。
便利なような、何に使うのか思いつかないような、そして既に有りそうで誰も思いついてないような、絶妙な盲点を攻めている気がします。
ピンポイントで使える手順があると楽しそうですね……!?


・F.F.F

「袖の下から」をピンポイントで使う手順です。ちゃんと用意されていました。さすがです。
この手順が非常に秀逸で、「袖の下から」を前面に押し出したワケではなく、全体のバランスが整っています。
せっかく「袖の下から」を使った手順を考えるのだから、ふつうはその主張が激しくなりがちだと思うのですが、それをこういう感じにまとめられるというのが"伝説の人"だなぁと思います。
デックで「袖の下から」をやるよりはちょっとシビアな部分があるかな?と思いながら、手を動かしてみるとパケットではパケット独特の具合があって、難しいとはまた違う面白い感じでした。


・煌めきのシャトルパス

シャトルパスの、コツというか、まあコツです。
動画で見た方もいらっしゃると思いますが、よくこんなこと思いつくなあと……
習得したら絶対便利なのですが、やってみると、難しいんだか難しくないんだか分からないです。まあシャトルパス自体が難しいですもんね。
マジで、習得したら絶対便利です。


・The Apogee Kick

ピュッてする技法のための練習手順です。
解説を読んでも、いやそうはならんやろ!って思うのですが、ちょっとやってみると徐々にそうなってくるんですよね。できる気がしてくる。
できる気がしたらあとはできるまで練習なのですが、その練習を楽しくするための手順という感じです。
「ダイエットはつらいけど、楽しくできる工夫があれば続けられそう!」みたいな。
ビリーズブートキャンプみたいなものですね。


・Detuned Cylinder & Coins

古典的なシリンダーアンドコインをダイエットしたような手順です。
これが本当にすごくて、シリンダーアンドコインの難点に「めちゃ難しい」という文字通りな難点があるのですが、それを軽減する試みです。
難しい部分が無いわけではないのですが、やればできる程度になっている印象です。
助走しないと飛べないような穴を、跨げるほどではなくても、まあ助走しなくても飛べる程度に整地したような。
削るところは思い切って削って、それでいて面白い手順です。これは本当にすごい。


・Red on a Point Towards Assemblage

マットの四隅にコインを置いてトライアンフを演じると、コインが1ヶ所に集まります。
ユニークでいいなあ……私もこういうオフ会とかで会ったときに「あれやってください」って言われそうなアイコン的オリジナル手品が欲しいです。


・Today's Highlights

これから見る方のために現象は伏せますが、半分ふざけているような、でもキマると最高に素敵な手品です。
ひょっとしたらこの作品集で一番あぶくさんらしい作品って、これかもしれません。
遊び心って大事だなあと思わせてくれる名作です。



全体を通して、これが一番言いたかったのですが「読めば上手くなる本」です。
もちろん手を動かしながら読む必要があるのですが、そこに有るのは「心を無にして練習しなさい」というメッセージではなく「おもしろいからちょっとやってみて」な気がします。

ちょっとした工夫やコツ、技法を練習するための手順、デチューン、遊び心……
あぶくさんの思う「おもしろさ」を知ることができて、最高でした。

読んで面白い本なのはもちろんとして、身になる何かが必ず残ります。
とてもオススメなので、ぜひ再販してほしいですね。

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