2021年5月23日日曜日

レビュー「カード当てのある生活」

 マジックマーケット2021春にて頒布された、東北大学クロマドウ会ブース「カード当てのある生活」のレビューです。

著者の佐藤水城さんのレクチャーノートについては前作の面白さから、今作もとても楽しみにしていました。
先に、読んでみての全体的な感想を書いてしまいますが、これほど読んでいて楽しいレクチャーノートもなかなか無いぞと思うほどめちゃめちゃ面白い本でした。

ひとつひとつの作品についてレビューしていきます。


・LEFT

カード当てです。
このレクチャーノートでテーマとされている不思議さ・不可能性について説明する、お手本のような手順で、著者の言いたいことが分かりやすく伝わってきます。

不思議さの点は分かるとして、前半部分を読んでみると、これ面白いのか?と思いました。
よく混ぜてカードを当てるという作業を滾々と演じており、お客さんがそのとき「とてもカードを当ててほしい気持ち」でないと置いてけぼりになってしまうと感じたのです。
ところが後半部分に入るとかなりユニークな手品になっており、しかもその手続き的な準備と、お客さんの気持ち的な準備を前半部分で完了させています。

後半部分がめちゃくちゃ面白いよ!とオススメしたいのですが、本編までが長い物語でもプロローグから読まないともったいないように、この作品は全体を通してこそ完成する名作です。


・Visible Card Location

お客さん2人のカードを当てる中で、リバース現象が起きます。
1つ目(LEFT)とコラムを読んで、ちょうど、こういう物理的な不可能性については言及しないのかな?と思っていたところなので興味深く読めました。

現象自体は非常にシンプルで、分かりやすいです。
特に良いなあと思ったところは、わりと力業やダーティーなムーブになりがちな部分について、それをいかに自然にするかこだわっていたところです。
詳しく書きにくいのでぼかすと、汚い部分を掃除するということが綺麗にできるよう配慮されているな、という感じです。
著者の美学を感じます。良いですね。


・Liquid Oil and Water

6枚で行うノーエキストラのオイル&ウォーターです。
私はオイル&ウォーターはいまいち現象がよく分からないので好きではないのですが、やる場合は6枚でノーエキストラのやつを選んでいます。

この手順はその「いまいち現象がよく分からない」というところにきちんと切り込んでいて、オイル&ウォーターという手品がどんな現象なのか分かりやすく伝わります。
しかも手順が先に進むにつれて、どんどん分かりやすくなっています。非常に好みです。

2つ目(Visible Card Location)を読んで、ちょうど、例えばパケットとかもっとミニマルな不可能性については言及しないのかな?と思っていたところでしたので、楽しかったです。
カード当てではなく、ボーナストリックの扱いでしたが、読めて嬉しいです。


全体

コラムやコメントの中で手品における不思議さ・不可能性について触れていて、それ自体がとても興味深いのですが、そこだけを読むのではなくそれぞれの手順を追いかけてこそ意味が分かると思います。

読む前は、不可能性絶対主義でタネがバレないだけのクソつまんねー手品がボコボコ沸いてたらどうしようかと思っていましたが、それは全くの思い過ごしで、不可能性は必要条件として押さえた上で、演技の流れや盛り上がり、お客さんの反応などにきっちり気を配られた美しい作品で構成されていました。

著者の前作レクチャーノートも完成度が高かったですが、それを超えてくる完成度です。
次回作にも期待しています。



なんとなく、前回はあみだくじの本かなと思ったら最後にカード当てがついてきて、今回はカード当ての本かなと思ったら最後にオイル&ウォーター(パケットトリック)がついてきたので、次回はもしかして……?と想像しちゃったりしています。

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