2023年11月17日金曜日

レビュー「百奇夜行」

マジックマーケット2023秋【POPcooooornの愉快な仲間達】『百奇夜行』のレビューです。

妖怪になぞらえたコインマジックの作品集です。

作品をひとつずつレビューしていきますが、特にその名前となる妖怪のイメージに合っているかを見ていきます。

・隠し神
消失と出現の技法です。ほかの作品で近い動きを使うので最初に解説している感じだと思います。
妖怪として隠し神っぽいかというとそうでもないです。隠し神に取られた子は出てこないのでは……?
まあこれは最初の技法解説なので、まだまだ百鬼夜行は始まったばかりという感じなのでしょう。

・女郎蜘蛛
今風の、目まぐるしく変わるスペルバウンドです。
女郎蜘蛛っぽいかというと、糸くずスタートなのがそうなのかな?という感じです。
でも、あちこちピョンコピョンコする様子が女郎蜘蛛っぽいようにも見えます。

・狐火
スリーフライです。
3枚目でかなり奇妙な動きをします。左手にコインを持っているようなマイムをしながらも、すでにコインが無いのです。
これが握っているという表現なのだとすれば、1枚目と2枚目での握っている動きと整合性が取れず、なんとも意図が分かりません。かなり奇妙です。
そこに有るようで既に無い、見えているようで見えていない、これを狐火(不知火)の表現と捉えるなら、なるほどなあとも思えます。
そう考えると妖怪の表現としては面白いと思うので、セリフが欲しいところですね。

・びしゃがつく
見えないコインのプロダクションです。
これはまさしく、びしゃがつくです。音の使い方や、見えないままコインをどんどん置いていく表現、そして鮮やかに表れるという構成など、全てがびしゃがつくという妖怪につながります。
ここに来て急に妖怪の解像度が高いです。マニアックな妖怪なのに。
近畿圏だと似た妖怪としてべとべとさんというのが居るのですが、コインの音を利用したプロットは、べとべとさんではなく、びしゃがつくだと言えるでしょう。
単体で見ると普通の手品かもしれないのですが、びしゃがつくという妖怪の表現としてふさわしい、良い手順だと思います。

・がしゃどくろ
チンカチンクですが、これもかなり奇妙な動きをします。
ときどきまだ移動していないはずのコインがもう見えなくなっていたり、そこが移動するの?というコインが移動したり、どのコインを操作しているのかが分からないような動きをしたりと、何を見れば良いのかが分かりにくいです。
お客さんの目線が、あっちにキョロキョロ、こっちにキョロキョロ、これはがしゃどくろと言えそうです。
何がしたいのかが分からない手順ですが、そこまで含めて妖怪の表現なのでしょう。

・滑瓢(ぬらりひょん)
パースを使ったコインアセンブリです。
手順構成も面白く、パースの性質を上手く使った綺麗な手順です。
ひとつ、これが無ければストレスが軽減されるのになあという技法を使う場面がありますが、これはもっと特殊なギミックコインを使えば解決はできそうですね。
オーソドックスとは言えないギミックを使うか、この技法を使うかの選択で、ここは好みの問題になると思います。
何がぬらりひょんなのか考えましたが、なるほど、パースを家と見立てて中に居るというのがぬらりひょんでしょうか。
あるいは、ずっと同じ場所に居続けるコインが1枚ありますね。クライマックスですら不動のコインが。こいつがぬらりひょんかもしれません。
結局どいつがぬらりひょんだったのかな?と考えてしまうところもまた、ぬらりひょんだと思えますね。

・百鬼夜行
銀貨が4種類のコインに変化するワイルドコインです。
野心的な試みを、思ったより単純な方法で解決しています。
ひとつだけ気になるのが、最後の1枚が変化した後、また銀貨に戻す場面です。なぜ演者が能動的に戻すのか。
これがもしも、いつの間にか銀貨に戻っていて、それによってすべてのコインがまた銀貨に戻るというルーティーンなら、夜が明けて天に空亡が表れて百鬼夜行が終わり、妖怪に化けていたコインもまた元に戻ったというようなお話になり、ドラマチックになりそうです。
個人的にはそっちのほうが良いかなと思います。

全体として、意図の分からない奇妙な動きが多い印象を受けました。
例えば最初の「隠し神」で、コインを取り出すところからかなり奇妙です。左手にコインを乗せている状態で手を開き、左右対称に腕を広げています。コインを見せたいのか、これから何かをすることを示したいのかがはっきりしません。
他の手順でも、そうは示さんやろというか、自然に動いたらその動きにはならんやろという動きがかなりあって、ひとつひとつの動きの意図がはっきりしません。
しかし今回のプロットでは、それがまた味を出しているとも受け取れます。
妖怪なんてその多くは、何がしたいのか意図がはっきりしない奴らですし(泥田坊みたいに目的が明確な妖怪も居ますが)、それを表現しようとすれば演者の動きもまた意図がはっきりしないものになるでしょう。

それぞれの手順を単体で見ると、決して綺麗な動きとは言えない部分が多々あります。
しかし表現したいものを考えると、綺麗でないその動きが適切な形であるとも思えます。
これから表現力に磨きが掛かれば、唯一無二の演技スタイルとして確立されていくかもしれません。

今後に期待したい、ポテンシャルの高い演者だと思いました。
マジックマーケットの期間中、オンラインのショップページで買うことができます。

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