2013年5月22日水曜日

レビュー「小粒手品論」


和泉圭佑さん著のレクチャーノート「小粒手品論」のレビューです。



著者の和泉さんは、僕の高校時代か浪人時代からお世話になっている、若手のマジシャンです。
学生マジシャンにとっては既によく分かっていることかもしれませんが、手品に関する「思想書」「随想」って、実はほとんど市場に出回っていません。探し当てたとしても大御所さんやベテランのプロマジシャンのものばかりで、若手のマジシャンから見て直接活かすことのできる内容は少なかったりします。もっと若い、駆け出しのマジシャンが思い、悩み、解決してきたことの記録って、学生マジシャンから見れば知って参考にしたいことばかりなはずです。

この本ではコラムのような形で、氏が思ったことや考えたこと、悩んで解決してきたことがばっちり収められています。内容は氏が東大でレクチャーを行ったときのまとめに加筆修正を行ったものなので、若い学生マジシャン向けだと思います。重要なのは、氏は世の学生マジシャン達と同世代であるということです。
学生マジシャンは、得てして閉鎖的なコミュニティに浸かりがちです。冗談じゃなく、井の中の蛙になります。同世代のマジシャンで学生マジックというコミュニティの外で活躍している方が、一体どのようなことを考えてきたのか、この本でぜひ一度知って欲しいです。

カードやコインの手順ももちろんレクチャーされています。ただその手順が良いかどうかについては個人の好みの問題だと思うので、ここでは突っ込んで批評はしません。一応参考程度に、僕はこのレクチャーノートで解説されている「Three Coins Routine」は使えるなと思い、練習しました。


かつてとある大学のショーを見に行ったとき、1回生ながらバリバリにステージをこなす学生マジシャンを見ました。彼は高校時代から手品をしており、いわば学生マジシャンのホープです。
ただ、やはり考え方が甘かったり手順に粗が目立っていました。まあ、まだ1回生ですから仕方ないですし、これから研磨していけば十分良くなるだろうなと思い、知らない仲でもないのでステージ後に色々とお話ししました。
その時彼が言ったのは「できている。」「これが自分の演技だから良い。」「手順に間違いは無い。(説明書通り演じている)」など、自分の演技が「これで良いんだ。」の一点張りでした。

自分の演技を完成させることは決して悪いことではありません。むしろ、完成しないと舞台に立てませんから。ですが「これで良い。」と思ってしまえばそこで終わりです。それ以上、自分の演技は伸びません。
若い学生マジシャンにとって大事なことは、常に自分の演技に対して「これで良いんだろうか。」と考えることです。そうやって若い間に自分を伸ばしつづけることが、将来(手品に限らずとも)活きてくるんだと思います。

そのためには手品の思想史、つまり奇術史を学ぶことは非常に有意義です。しかしそれと同時に、今のマジシャン、特に自分と同世代のマジシャンが何を悩み、考えているのかを知ることも必要となってきます。もちろんディスカッションするのが一番効率的で、お互いに考えを共有できるので良い方法なのですが、なかなか自分のコミュニティの外でそういった仲間を見つけるのも難しいですね。なので、若いマジシャンがもっと自分の思ったことや悩んだことを発信していけば、それはきっとこれからの世代のマジシャンにとって、かけがえのない財産になるはずです。
このレクチャーノートは、その先陣を切って氏の思いや考えを発信してくれました。ちょっとしたことかもしれませんが、それが若い学生マジシャンにとって何かを考えるきっかけを与えてくれるツールとなるなら、この本は金の芽を出す種になると思います。


別に知り合いの本だから勧めてるワケじゃなくて、私自身も「こういうのを待っていた!」と考えていたので。できれば学部時代、そうですね、せめて3年前に出会いたかったレクチャーノートです。
ですから今、現役バリバリの学生マジシャンさん、あるいはOBさんや学生マジシャンを指導する立場の方、早いうちにぜひ一度読んでおくことをおすすめします。

*注:
現在、購入することができません。


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