2013年5月21日火曜日

2冊目~腹話術から演芸の歴史を~


学生マジシャンに読んでほしいこの10冊、2冊目は腹話術の本です。

唇が動くのが分かるよ
ヴァレンタイン・ヴォックス著
清水重夫 訳 池田武志 監修
アイシーメディックス社
¥4,200





~歴史を拡張する~



手品について深く学びたいなら、奇術史の勉強をするべきだと思います。
奇術の歴史は往年のマジシャンの思想史であり、かつての名士が何に悩み、何を失敗し、何を生み出し、何をしてきたのかは非常に感慨深く、自分の演技に活かすことができます。
奇術史をある程度勉強すると、そこから次に出てくる疑問は「もっと広い範囲での奇術史はどんなものだろう」だと思います。歴史の拡張ですね。

そのために、演芸史の中で奇術と平行し、時には交錯しながら文化が育った、腹話術の歴史を勉強することをおすすめします。
このコーナーであまり高い本をおすすめしたくはないのですが、日本で腹話術の歴史を勉強できる本はこれしかないので仕方ないです。高いですが、良書です。腹話術のバイブルと言っても過言ではありません。

奇術史を包括するようなものに歴史を拡張して勉強するのは、とても労力のいることです。奇術史だけを勉強する何倍もの時間と手間をかける必要が有るか、あるいは中学校で習う「歴史」が高校の「日本史・世界史」を包括しているように、曖昧な理解に留める必要があります。研究をするわけでないのなら曖昧な理解でも構わないと思うのですが、せっかくなら別の歴史に寄り道することで、細かい範囲でもしっかり理解し、歴史をほんの少し拡張してはどうかなと思います。「日本史」に「中国史」を追加して、世界史への拡張を図るように。別に勉強に期限はないのですから。


~ストダー大佐のスフィンクス~


現代奇術の黎明期に活躍したストダー大佐というマジシャンは、名うての腹話術師でもありました。スフィンクスの演技が有名で、そのアクトの中でも腹話術を使っています。
と言っても現在の日本で主流となっている、演者は口を閉じて人形に喋らせる「ニア・ベントリロキズム」ではなく、遠くの方やカバンの中、壁の後ろから聞こえてくる声を表現する「ディスタント・ベントリロキズム」という、いわば音のイリュージョンです。

歴史以外でも、この本で述べられている程度の方法論を勉強することは、非常に実になると思います。腹話術の方法論を学ぶことで手品における「人格の分離」を勉強することができます。
つまり、頭を2つ用意しろってことですね。「観客に見せるための頭」と「手品師が動作をするための頭」です。「パッと示すための頭」と「裏でゴソゴソやるための頭」と言ってもいいかも。

ゾンビボールなど、道具と対話する必要の有る演目では、より重要になります。2冊目で紹介した「おしゃべりなパントマイム」と併せて勉強してみてください。


~タイトルの意味は?~


余談ですが本著のタイトル「唇が動くのがわかるよ」という言葉、もしかして「あれ?それっておかしいんじゃない?」と思われた方がいらっしゃるんじゃないでしょうか。「それダメじゃん!」とか。
この言葉の意味するところも、本著を読めばわかります。高いですが、ぜひ読んでみてください。


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