2013年5月22日水曜日

レビュー「Incomplete Pictures」



こざわまさゆきさんのレクチャーDVD「Incomplete Pictures」のレビューです。



2年前に発売されたこざわさんのレクチャーノート「Incomplete Works」とも比較しながら下記進めていきますので、以前書かせていただいた「Incomplete Works」のレビューとも併せて読んでいただけると幸いです。


● Disc1 ●




・¥150トリック


100円玉と50円玉をにぎり、そこから50円ずつ取り出していくという、こざわさんの代表作となる不条理トリックです。
さて、動画で演技を見た印象ですが、期待していたほどおもしろいと思えなかったというのが正直な感想です。ただ、仲間内で何度も実演してその手応えは感じていますし、仲間内で実演を見てそのおもしろさも充分に実感しています。思うに、このトリックは「ライブの臨場感」と「即興性」がおもしろさの大きな要因になっているのだろうなと僕は考えています。目の前で不条理なできごとが起きるということと、即興的なシチュエーションで演じられるよいうことが、この演技のおもしろさを引き立てているのです。なので、レクチャーDVDという環境ではどうしても画面の中の演技になってしまいますし、やはり「今から不思議なことをします。」という雰囲気で演じられてしまいますから、それによって期待していたほどのおもしろさが感じられなかったのかもしれません。トリック自体がおもしろくないわけではなく、むしろ良作だと思います。


・Blowing


トランプに息を吹き込むと、お客さんの選んだカードがせり出てきます。
意外と難しいように思いました。現象自体は非常にビジュアルで、演技の雰囲気によってはちょっと取り入れてみるとおもしろいかもしれません。


・Transparent Wild Coin


透明なグラスで行うワイルドコインです。
収録作品の中では難易度が高い方だと思います。が、減少としては非常に好きです。ワイルドコインという演技の中で僕がネックに感じていた「コップに放り込んでいく」という部分をクリアしている、マニアも満足の作品です。
レクチャーノートの方のレビューでも書きましたが、道具の都合で僕は演じないと思いますが、できるなら演じてみたい作品です。


・The Clip Steal


技法の解説です。
結構、手順構成の中で次の一手につながる大事な部分を担うことができる技法だと思いますので、覚えておいて損は無いでしょう。


・Visible Invisible Deck


見えるトランプと見えない(ブランクの)トランプを使ったトリックです。
ちょっとダラッとしてしまいがちな構成かなと思いましたが、こざわさんが演じている映像では途中で飽きるということは特にありませんでした。ただその部分は、演者のキャラクターや雰囲気にかなり左右されると思いますので、演者による向き不向きが顕著なトリックだなと感じました。コンセプトは好きです。


・Left Handed Coin


左利き用のコインと右利き用のコインを使ったトリックです。思ったよりスッキリしていて、コンセプトもおもしろく、非常に上手くまとまったトリックだと感じました。それで、ちょっとやってみようかなと思って手を動かしてみたのですが……なるほど、これはなかなか難しいのですね。やってみたらひしひしと分かる難しさです。練習します……


・Lie to Me


ウソ発見器のような演出で、相手がウソをついているかどうかを見抜いていくトリックです。
齋藤修三郎さんのThe Catcher in the Lieというトリックのバリエーションになります。このThe Catcher in the Lieとの比較については先日後輩と議論したので、また機会が有れば書きたいと思います。
Lie to Meそのものの感想はと言うと、非常におもしろいです。準備段階で面倒くさい部分も有ったのですが、やってみると意外と面倒では無いです。さらに、最後に+αでさらに難しいウソ発見を行う部分が有るのですが、これが非常に綺麗につながっています。最後にこういったクライマックスを設けようとすると、蛇足になったり繋ぎ方が冗長になったりということはよくあると思うのですが、このトリックについてはそれが全く有りません。むしろ、不思議さをさらに引き立てています。こざわさんの演技構成に関する頭の良さが伝わり、感服してしまう作品です。


・The Quintet of the Rings(パフォーマンスのみ)


ポケットリングの5本リングの手順です。レクチャーノートの方で解説されていた手順の実演動画になります。
この感想を述べる前に、まず謝らなくてはなりません。
レクチャーノートのレビューで、私はこのトリックについて下記の用に述べました。

「さあさあ、もうこれは趣味の問題になってきますが、私はあまり好きではないです。
ドゥラティの影響は強く感じます。
ただ私は、そもそもドゥラティの構想による5本リングの手順が好きではないので、もう仕方ないと思います。
私とトヒさんとドゥラティで、リングに求めるものが根本的に違うのでしょう。
これはダメだ!とはもちろんいいませんが、私のフィロソフィーからは大きく外れたリングの手順でした。
まあ私もリングについて相当悩んできた過去があるので、こういった違いは致し方ないです。
リングの手順を模索している若い学生マジシャンさんには、非常に刺激となるでしょう。
これ1つ読むと、相当リングの勉強になりますから、時間の無い若者にとってはお得な教材ではないでしょうか。」

実演映像を見ると、全くそんなことは有りません。演じ方や演者の実力次第でここまでおもしろくなる手順なんだなと実感しました。とてもおもしろい手品です。本当に申し訳有りませんでした。
ドゥラティの影響は、考えてみればかなり見られるのですが、実演を見た感じで「ドゥラティの手順っぽい」ということは全くないです。
私はやはりドゥラティの5本リングの手順は好きではないのですが、この手順は見てみるとかなり好きでした。その大きな原因は、この手順の「ドラマチックさ」に有ると思います。
レクチャーノートではこの手順は大きく2つの部分に分けられると書かれていたのですが、僕は3部に分かれていると感じています。「冒頭~やわらかい鉄」「やわらかい鉄の演技」「ステージっぽい部分」です。この流れが非常にドラマチックです。

僕が今まで行ってきた4本リングの手順と比べて、確かに目指している部分も到達度も違います。フィロソフィーが違うと言って間違いは無いと思います。ただ、それはそもそも僕が未熟だっただけであって、目指すものも到達度も、手順そのものの完成度も、どれをとってもこの手順の方が僕の手順よりも「優れている」と言えます(技法の難しさは除いて)。

技法のバリエーションもかなり有りますし、リングの手順に迷ったらまずこの手順をそもまま練習して間違いはないでしょう。僕も今後この手順がそのまま僕のレパートリーになるかどうかは分かりませんが、とりあえずこの手順を練習しながら自分なりのリングに関する思いを育てていこうと思います。

僕が今まで見た中で、最高のリングの手順でした。


● Disc2 ●



・Billbound


紙幣が4枚のコインへと変化する、ビルチェンジとも スペルバウンドとも取れない独特の現象です。レクチャーノートで読んだときにはその方法論にばかり目が行ってしまい、何か他の手順に応用できるのではないかと考えていたのですが、映像を見るとこれそのものが非常に良い現象なんだと思えました。
また、レクチャーノートを読んだ段階では2000円札と旧500円玉の組み合わせでやるのが面白くて良いかなと考えていたのですが、こざわさんの演じ方では2ドル紙幣とハーフダラーというのもジョークが非常に上手く効いていて良いなと感じました。コインへのオープナーとしては最高だと思います。


・Coins aGlass


ショットグラスを用いて行うコインズアクロス、コインが1枚ずつグラスの中に飛び込んでいきます。
もう、ここで改めて特筆して言うべきことは無いように思います。これといって難しい技法も無く即戦力になる名作だと思いました。


・elastica


輪ゴムをかけた4枚のキングが、一瞬でエースに変化します。文章として読んでも面白さが伝わるのですが、その面白さはおよそ50%程度しか伝わっていなかったのだと実感しました。映像で見ると、その現象のインパクトや手順のクリーンさが際立って、思っていた以上に面白く感じました。また、こざわさんの台詞回しが非常に上手で、それもまたこの手品の良さを引き立てています。


・10 count assembly


10数えるうちに現象が起きる、いわゆるテンカウントの要領でコインアセンブリーが行われます。すっきりとしていて良い手品だと思いました。現象自体は一般的なコインアセンブリーと変わらないのですが、そのテンポやリズムを工夫するだけで見え方がこれだけ変わるのだなぁと感心しました。ただちゃんと面白く演じるためにはそれなりにカッチリした練習が必要で、決して見た目ほど簡単な手品ではないぞという印象を受けました。

・Octrix
4枚のハーフダラーと4枚のチャイニーズコイン、計8枚のコインで行われるマトリックスです。非常に良い手品で、特にここで詳しい説明をする必要は無いと思うのですが、いざ見てみて思ったことを少し。
まず、レクチャーノートを読んだ段階ではなかなか難しそうだと思ったのですが、もしかするとそう言うほど難しい手品ではないのかもしれません。案外、やってみるとすんなりできそうです。そして、レクチャーノートを読んだ段階ではいくらかゴチャゴチャした手品の印象を受けたのですが、実際は非常にすっきりした手品で、インパクトも強いと感じました。特に最初の交換現象のような部分が非常に不思議で、え!?っとあっけに取られている間にたちまち現象が積み重なり、そのまま綺麗に終わりを迎える、ドラマチックなプロットです。見れば見るほど深みを増す、古典になるべき名作でした。


・USD Matrix


4種類のコインを使ったマトリックスで、バックファイヤ、フラッシュを含む盛りだくさんなプロットです。一度見て、ぜひやりたい!と感じたのですが、解説を見ているとかなり難しそうだと感じ、結局練習していません。機会があればやってみたいですが、いやはやこの難度、なかなかその機会は回ってこないような感じです。


・Erdnase Not Required


ほとんどセルフワーキングと言えるぐらい、難しい技法を必要としないポーカーデモンストレーションです。
その簡単さに加えて、ストーリー展開や現象のインパクト、そしてオチに至るまで面白さをぎゅっと詰め込んだ良作です。カードアクトのトリ部分を担うこともできる、即戦力となる手品だと感じました。


・Coin-Cidence


世にも珍しい、コインを使ったメンタルマジックです。
レクチャーノートを読んだときは、あははなにそれと、半ば冗談として捉えていたトリックだったのですが、いざ実演動画を見てみると思いのほか不思議さが強く、これは上手く演じると非常に効果的なトリックなのではないかと思いました。また、道具さえ揃えてしまえばあとは技術的に難しい技法はほとんど無く、というか技法自体がほとんど使われず、即戦力となる可能性を秘めている手品だと思いました。
このDVDの作品中でなかなかのダークホースです。レクチャーノートを買った方も、自分のレパートリーに加える可能性を踏まえた上で、ちょっと注意深く演技動画を見てみることをオススメします。


・The Loaded Dice Cup(パフォーマンスのみ)


ダイスとダイスカップを使ったチョップカップです。レクチャーノートを読んだときに非常に面白いと感じていて、ワクワクしながら映像を見たのですが、ちょっと期待しすぎたのか思ったほど面白いとは感じられませんでした。すでに現象を知っていたのもあってか、ちょっとゴチャゴチャした演技だなと言う印象を受けました。ただ他の演技動画はほとんど、現象を知っていても、おお!と感じたものばかりだったので、そう考えて見ると期待ほど面白いと感じられなかった演技でした。


全体的に面白く、即戦力となるものがいくつも有ると感じられました、
1つのレクチャーDVDを買ったとき、レパートリーに入るくらい気に入るトリックって1つ有れば万々歳なのですが、このDVDはそれをはるかに超える数の「即戦力トリック」が収録されています。

「マニアに贈る」とか「マニアック」とかいう評を聞きますが、そんなことは無いと思います。1つのレクチャーDVDとして、即戦力トリックの宝庫となっている「お買い得作品集」です。
マニアックなんだろうな、難しいんだろうなと敬遠する必要は全くありませんので、貪欲にクロースアップのレパートリーを増やしたいと思っている若手のマジシャンさんに、ぜひともオススメしたいDVDです。


続いて、特典として付いてきた「Incmplete Booklet」と「mML特別原稿」についてレビューします。


 『Incomplete Booklet』



こざわまさゆきさんによる小冊子です。内容は大きく分けて2つあり1つは未発表作品「Sympathetic Twist」のレクチャー、もう1つは不条理に関する小論です。この2つの内容は繋がっているというワケではなく、それぞれで完結している2つの文章がセットで特典となっている感じです。


・Sympathetic Twist


ツイスティングエーセスと同調現象をミックスした、マニアックなトリックです。4枚の赤裏のエースと、4枚の青裏のエースの計8枚を使って行われます。青裏のエースで表向きにしたスートのエースが、赤裏でも同調して表向く、といったプロットです。
このプロットだけを見ると、なんとなく2つの現象をミックスしてみた掴み所のないトリックに感じるのですが、実際にやってみると煩雑な印象は特になく、2つの現象がミックスされていると言うよりは「同調してひっくり返る」という1つの現象として成り立っているように感じました。
実際にやってみたところ、このトリックの一番の特長は「マニアックな美しさ」だと思いました。特にラストシーン、お客さんにはあえて説明する必要はないのですが、見事なまでに青裏のカードと赤裏のカードが完璧に同調しているのです。これはやっている側として、感動してしまうほどのマニアックな美しさが表現されていると思います。また、この「Sympathetic Twist」は未公開作品であり、またこの特典でないと読むことができない作品と言うことで、マニア相手に演じるにはピッタリの話題性を持った良いトリックだと思います。
ハンドリングとしては1ヶ所だけ気になる点がありました。1枚目の現象から2枚目にいくときには行っていないムーブが、2枚目の現象から3枚目にいくときには行われています。スムーズにやればお客さんから見て特に気にはならないのだと思うのですが、折角の美しい構造をちょっとだけ崩してしまっているように感じます。

さて、練習していてふと思ったのですが、このトリックは赤裏と青裏という2つのデックを用意して、それぞれから4枚ずつのエースを抜き出して始めるというルーティーンを採用しており、準備の段階でのストレスがちょっとだけ有ります。これをもし、赤裏の4枚のエースと、赤裏の4枚のキングで行うとすれば、ストレスが減ってよいのではないかと思いました。それでも別に「エースとキングが同調する」ということで現象は成り立つはずですし。
と言うわけで、そのパターンでも試しにやってみました。なるほど、見た目のインパクトと言うか、ラストシーンの美しさで言うと2色のデックを使った方が圧倒的に綺麗です。したがって、このトリック単体で言えば確かに2色のデックを使った方が完成度は高いと思います。とは言え、他の手順との組み合わせや演者の負担の部分、即興性を考えると、エースとキングの同調現象に落とし込むのもナシでは無いかなと思いました。


・不条理についての小論


こざわまさゆきさんによる、手品における「不条理」についてまとめた小論です。ここでいう不条理は演劇の世界で使われる「不条理な演出」とはまた異なった意味での不条理ですので注意が必要です(明確な定義は本文中で成されています)。
非常によくまとまっている文章で、手品をやる上での新しい考え方としてとても勉強になります。実はこの小論は、DVD発売前に一度読ませて頂いているのですが、その時たまたま僕が後輩の「ゴジンタボックス」を指導していて、この小論の内容にかなり影響を受けてしまいました。未発表の段階でこの小論の考え方を取り入れてしまったことは若干反則の色も伺えますが、まあ影響されてしまったことはすぐに忘れることもできないのでご容赦願いたいです。そのゴジンタボックスの演技も完成され、実際に上演されて好評だったので、一度こざわさんにその映像をお見せしたいところなのですが、まだその公演のDVDができていないと言うことで残念な状態です。
とにかく、今後色々な人に影響を与えかねない、センセーショナルな小論でした。


『mML特別原稿』



¥150 TRICKへのトリビュートと題して、南部信昭さんによる「¥150 Across」と野島伸幸さんによる「¥200 TRICK」「¥250 TRICK」のレクチャーが載っています。
現象の紹介自体が特別原稿となりそうなのでここで詳細に説明することは避けますが、それぞれがマニアックな改変に留まらず、実演を見据えたしっかりとした有用性を持っており、非常に楽しめた原稿でした。
「¥150 Across」は¥150 TRICKをコインズアクロスの現象に落とし込んだユニークなプロットで、「¥200 TRICK」「¥250 TRICK」は¥150 TRICKにもう一捻り加えた改案という感じです。

さて、この中で僕が特に注目したのは、野島さんの「¥250 TRICK」でした。¥150 TRICKのプロットは即興性を持ったシチュエーションで、しれっと当たり前のように演じることで絶大な効果を発揮すると僕は思っています。そういった意味では、変なことを追加でやらない「¥150 TRICK」原案が非常に優れたプロットだと思っているのですが、原案は演技に使う道具が「たまたま揃っている可能性」にちょっとだけ難がありました。普段から道具をキープしようとちょっとだけ意識しておけば済むことなのですが、適当な性格の僕にはそれが負担だったりします。すると、野島さんの「¥250 TRICK」は、即興的に演じるときに演技に必要な道具が「たまたま揃っている可能性」が極めて高いと思いました。
ということで、野島さんの「¥250 TRICK」は原案にちょっと一捻り加えることによって、即興的なシチュエーションでの演じやすさを大きく向上させた良作だと感じます。「¥150 TRICK」と「¥250 TRICK」でどちらが優れているかということは一概には言えないのですが、とりあえず両方できるように練習しておいて、今後どっちがレパートリーに残るかな、といった感じです。

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