2013年5月17日金曜日

ボードビルの話



大阪の小劇場にて、ナイトショーに出演していた経験を元に、あまり世間に知られていない舞台演芸「ボードビル」について語ります。


※以前に三畳半工房さんで連載させていただいていたボードビル体験記の再掲です。

~ところで「ボードビル」って何?~


ボードビルってご存知でしょうか?

初めて聞く方も多いと思いますので簡単に説明します。ボードビルとは「歌あり、踊りあり、曲芸あり、寸劇あり、何でもありの詰め合わせエンターテイメントショー」のことです。19世紀末から20世紀初頭にアメリカで全盛期を迎えたショービジネスで、日本でも大正から昭和初期にかけて、欧米スタイルの演芸として流行しました。仕事帰りに一杯飲みながら、ちょっと舞台でも見ていこうか、と言えばボードビルのことを指していたほど、当時ボードビルは大衆娯楽としてメジャーな存在だったんです。

しかしながら20世紀に入ると、大衆娯楽の業界にとんでもない大興業が参入してきます。「映画」です。その場その場のライブでしかショーを提供できないボードビルに対して、映画はフィルムと施設さえあればどこでもその作品を上映できます。そんな無限の可能性を秘めた映画という怪物の台頭によって、ボードビルはだんだん大衆娯楽の表舞台から姿を消して行きました。そして近年、大衆娯楽はラジオからテレビ、ビデオやインターネットと、どんどんライブから茶の間へとシフトしています。娯楽には手軽なものが求められる時代、ボードビルにはもはや出る幕など無いのでないかと思えます。

ところが昨今、かつて演芸で栄えた時代を知る方々を中心にして、ボードビルの復活が唱えられ始めているのです。「テレビに飽きた世代」のための大衆娯楽として、ライブへの回帰、舞台での演芸、手軽な娯楽が多い今だからこそボードビルが求められています。

前置きが長くなりましたが、私は2007年~2008年にかけて大阪の中津芸術文化村ピエロハーバーでのボードビルショー「ディスイズショウタイム」のレギュラーメンバーとしてステージマジックを演じてきました。何も知らないアマチュアマジシャンが、突然見たことない舞台の中に入るわけですから、当然知らないことの連続です。もちろん私もそれまでにステージマジックはたくさん見て来たわけですし、学生マジシャンとして舞台に何度も立っています。ですが、ボードビルで求められるものというのは、それまで私が思っていた手品に求められるものとは大きく違っていました。


~初めて見るボードビル~


「オーディションを受けてみませんか?」
2007年8月下旬、私が所属するマジックサークル宛にそんなメールが届きました。大阪で平日連夜に企画しているボードビルショーがあり、それに出る芸人を探しているというのです。このお誘いについて、サークル内での意見は消極的でした。

「平日だし、時間が遅いし、京都からちょっと遠い。」
「報酬が確定しない。交通費考えればむしろマイナス。」
「得体がしれない。ボードビルって何?」

ごもっともです。団体は、団体にとってプラスになるよう動く必要がありますから、軽はずみに、じゃあこれから団体としてオーディションに向けて活動をシフトしていこう!……というわけにはいきません。というわけでこの企画については、興味がある人は個人で勝手にどうぞ、ということでミーティングを終えました。

後日、私は一人で大阪中津に向かっていました。そのボードビルショーというやつがどんなものなのか、見てみたくなったのです。特にアポもなく純粋にお客さんとして、ナイトショー「ディスイズショウタイム!」を拝見しました。初めて見るボードビルの世界、その光景は今でも鮮明に覚えています。
客入れの曲がフェードアウトするのに合わせて、客電が暗転。暗闇の中しばしの無音を経て、小さな劇場内に鳴り響くのは軽快な音楽。ぱっ、と、舞台が明転したと思うと、中央のスポットに照らされたのはサーカスの団長風の男。その男が力強い口調でアナウンスを始めます。
「レディース エーン ジェントルメン。本日は、ここ中津芸術文化村ピエロハーバーにようこそおいでくださいました……」
これを皮切りに、次々と個性的なエンターテイナーが登場し、パフォーマンスを披露します。歌がありました。ただ歌うだけじゃなく、靴磨きの衣装を身にまとった歌手が、ストーリーに合わせて演技をしながら歌います。コントがありました。2人の役者さんによる、取り調べのシチュエーションのコントです。昔ながらのしっかり練られた脚本で、役者さんのユーモアもあふれる楽しいコントでした。トロンボーンがありました。この方はオーディションを受けて参加している芸人さんではないかと思います。演奏はもちろんされるのですが、女装して、滑稽なふるまいをしながら、コミカルに、でもトロンボーン一本で勝負するその姿は、面白い中にかっこ良さを感じました。

その他色々なパフォーマンスが繰り広げられ、気づけばあっという間の50分間でした。公演終了後、他のお客さんが出て行く中、私は一人アンケートを書いていました。その日見た初めての舞台、初めてのボードビルショー、その興奮を夢中になって書き記していたのです。そのアンケートの最後に、私はこう書きました。
「この舞台に出たいです。近いうちに必ずオーディションを受けに来ます。」
この2週間後、私は覚えたてのシカゴの四つ玉を引っさげピエロハーバーを訪ね、そのまま出演することとなります。



0 件のコメント:

コメントを投稿