ボードビルの話、第4段です。
これは実は昔、演劇のコラムで書かせていただいた内容の加筆修正だったりします。
※以前に三畳半工房さんで連載させていただいていたボードビル体験記の再掲です。
~衣装の大切さ~
前回はボードビルの中で自分の演技を作るための具体的な方法として、手順の組み方や演目の選び方について触れました。今回はさらに細かい話になりますが、演技で使う衣装について話していきましょう。
手品で使う衣装といえば、何を思い浮かべるでしょうか?クロースアップやサロン演者なら、それはスーツだと考えられるかもしれません。ステージ演者なら燕尾服やタキシードでしょうか。いずれにせよ、いわゆるフォーマルな衣装を選択される方が多いと思います。¥par
しかしボードビルにおけるマジックでは、そうとも限りません。ボードビルショーではあくまで「舞台衣装」を選ぶべきです。一般的に「正装」と言われる衣装の枠にとらわれず、その時の自分のキャラクターや演技のストーリーに合った衣装を着ることが必要となります。自分の演技に合った衣装こそが、舞台での正装だという認識を持ちましょう。
こう言ってしまうと、自分はマジシャンとして演技をするのだから、マジシャンらしくスーツなどフォーマルな衣装を着て然るべきだ、と思われるかもしれません。しかし、よく考えてみてください。以前にも述べたように、あなたがマジシャンであることをお客さんに説明してくれる人は誰も居ません。お客さんの頭の中で、これから何が始まるのか全くわからない状態で演技が始まるのが普通です。そう考えると、舞台が明転したときにスーツ姿の人物が一人舞台上に立っていたところで、それがマジシャンであると誰が想像できるでしょうか?「マジシャンはスーツを着ている」ものなのかもしれませんが、「スーツを着ていればマジシャンである」とは限りません。舞台衣装は一目見てそれが何を表現しているのか分かるほど、キャラクターを顕著に表しているものを選ぶ必要があると言えるでしょう。
だからと言って、衣装だけで自分がマジシャンであることをお客さんに説明するのはそう簡単なことではありません。もちろんできないこともないのですが、パフォーマンスやキャラクターにものすごく縛りがかかり、演技の幅を狭めてしまうことにも繋がります。ですから、これは今後また詳しく話していきますが、ボードビルでマジックをする場合は演出やストーリーを演技に組み込むことがものすごく有効になってくるのです。それによって自分のキャラクターがお客さんに説明しやすいものになり、演技のレパートリーにもバリエーションを持たせることができます。となると、そうやって何かしらのキャラクターを表現するのであれば、衣装の選び方はより一層重要になります。
~帽子は便利~
では、衣装を選ぶとき一番気にするべきところはどこでしょうか。かつて舞台の演出さんにそう聞かれたとき、私は「帽子」と答えました。帽子は、演者が舞台に登場したとき目にとまる印象的なポイントであり、それひとつでキャラクターや世界観を一気に決める効果を持っています。ステージマジックでは演技のストーリーを5分間ほどの短い時間で伝える必要があります。そのためには演者が登場した瞬間、いかにお客さんへその世界観やキャラクターを伝えられるかが大切になってきます。だからこそ、キャラクターのイメージを顕著に表す「帽子」は衣装の中でも非常に大切な役割を担います。
またボードビルでは、今日は老人、明日はピエロ、明後日は海賊といった色々なキャラクターを短いスパンで演じる必要があります。すると髪型を調整することが難しいため、帽子はそういった点でも非常に役に立ちます。
~大事なのは「靴」~
しかし、そう答えた私に対して演出さんは、一番大切なのは「靴」だと返しました。目にとまりやすい「帽子」は、演者がキャラクターを作る際に気にしなくても勝手に意識できているため、自然とキャラクターに合ったものを選ぶことができる。しかし「靴」は意識しないとなかなか気が回らない上、そこを怠ってしまうと世界観を一気に壊してしまう。革靴を履いたピエロがいるか?という話でした。気づけば私はそのとき、靴はあまり気にせず適当なものを履いて演技に望んでいました。
衣装の中で、それひとつで世界観を構築する力を持っているものが「帽子」なら、それひとつで世界観を壊しかねない大切さを持っているものは「靴」なんだと、私はその時に改めて認識しました。
ボードビルでのマジック、舞台衣装を選ぶ時には特に「帽子」と「靴」に気を配る必要がありそうです。
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