2012年12月23日に行われた、第9回アンタイトルドコンサート
「夢の世界へ超特急」のレビューを書きたいと思います。
第1部
オープニング
客電が暗くなり、汽笛のSE→司会のアナウンス→洋風な音楽とスポットライトの演出→幕が開いて一人目の演者の和風の音楽……
コンセプトに見切りをつけるの早っ!!と驚いてしまいました。
これなら初めから、公演のコンセプトに関係する演出を行うことをやめた方が良かったのではないでしょうか。
冒頭に一発限りの汽笛が、最後まで何かモヤモヤを残す演出になっており、残念でした。
なんというか、公演全体のクオリティを、この一発がかなり下げてしまっていたように感じました。
もちろん、コンセプトに一貫性を持たせるために汽笛のSEを効果的に使うなら良いのですが、そんなことも無く、蛇足になっていました。
いや、蛇足というか、先ほど説明したオープニングの流れはむしろ、意図的にコンセプトをシッチャカメッチャカにしたかったのかな、と思うほどでした。
凄く残念というか、筋の通って無さが見ていて恥ずかしく、全身がむずむずするような幕開けとなりました。
1:Blown away 鳥取大学
主に和扇を用いた、女性の演者による和風の演技でした。
留袖を着ているように思えたのですが、既婚者という認識で良いのでしょうか。
扇を捨てる際に、たたんでから捨てる場面が非常に多かったです。
プロダクションとして、取り出したものを小さくたたんだ状態にしてから捨てるのはちょっとマズいと思います。
演出の都合でもなさそうですし、手順の都合でも無いと思います。そういった都合で少したたんで捨てる場面があるのは致し方ないかもしれませんが、ほぼすべての扇をそうやって捨てていたので、残念でした。
キャラクターやストーリーに設定があったのか無かったのか分かりませんが、いまひとつ何がしたいのかは分からない演技でした。
2:i CAN do it ! 大阪大学
スケッチブックを用いたサイレントのチョークトークから、Zone Zeroの演技でした。
チョークトークの部分は、大阪大学の過去のアンタイ演者でエキスパートがいらっしゃって、その流れかなぁという感じです。
Zone Zeroについて。考え方の難しい演目を上手く料理していたと思います。
あの独特のムーブを軽減するため、ギミックに工夫を凝らしていたのも印象的でした。
ただ、物が出たり消えたりを裏表をあらためるムーブをはさみながら何度も繰り返すという部分の冗長さは、まだクリアできていなかったように思います。しかしながらここは、上手く自然に見えるようにするのは難しいですよね。
残念だったのは、コーラ等の缶という具体物を用いて演技をしていたのですが、その扱い方やマイムがあまりにも雑すぎたところです。
飲むシーンのマイムが上手くできておらず「中身が空だったのかな?」と思ってしまいました。というか、本気で中身が空であるマイムかと思いました。
そのあと中身がこぼれた的な手順に進んでいったので、あれ?あれ?と意味が分からなくなりました。こぼれたコーラの色が明らかにコーラじゃなかったのも、筋を破綻させていました。
具体物を扱う場合は、その道具をそれそのものとして扱うということを徹底すると良いと思います。
さて、実は2012年の西日本の学生マジックで、Zone Zero演者を見たのは2人目です。
もう一人はプロダクションとしてZone Zeroを扱っており、どちらが上手いとは一概にいえない状態ですね。
その2人は多少繋がりがあるらしいので、これを西の新たな学生演目の確立に向けての萌芽として、ぜひこれから躍進して行って欲しいと思います。
3:どんっ!どんっ!ばんびぃなぁ! 同志社大学
音楽に合わせて行う軽快なウォンドのマニピュレーションでした。
自分の演技をアピールすることに非常に長けた演者なんだなと思います。
技法や示し方はまだまだ雑で、演技の構造も単調でした。しかしながら、単調な構造はよく言えばシンプルということで、何をしているのかはよく分かり、それ自体僕は好きです。
致命的にマズかったのは、演技中盤にはさんだシガレットでしょう。
シガレットの部分で演技が完全に途切れ、だらだら長い演技の印象を受けてしまいました。
もしもシガレット部分が無く、全体として息付く間のない完成した流れの演技ならどれだけ良かったでしょうか。
選考を突破するために必要だった部分なのかもしれません。今後いろいろな場所でこの演技を披露していく上で、ぜひとも考え直して欲しい部分だと感じました。
演技中に演技曲を歌うのは、演技自体がメタ表現になってしまうので、そういう演出ならともかくとして、そうでなければあまり好ましくないと思います。
幕間 龍谷大学
4連覇おめでとうございます。おなじみの漫才です。
洗練されており、ブレない面白さを堪能させていただきました。
ショーにおける幕間の意味をしっかり捉え、特にマジックショーにおいて自分たちに任されていることは何かということをしっかり受け止めた、素晴らしい演技でした。
4:視力0.2以下の本気 大阪大学
グラスのプロダクションでした。
勢いは抑えぎみで、しっとりというか、決して悪い意味でなく地味というか、そんな感じの演技でした。
前情報で「理詰め」「スライハンドっぽい」演技と聞いていたので、そのつもりで見ていたのですが、全くそんなことはなく、これと言って特筆する部分はない、普通の学生マジシャンのグラスの演技だったように思います。
理論に関しては、むしろ筋が破綻しているように感じました。そんな驚くほど崩壊しているワケではないのですが、理詰めという前情報有りきで見ていたこともあり、ちょっと違和感を感じました。
例えば、
トレイの面をお客さんに見せる→シルクをかける→シルクを取ると……→横向いたトレイの上にワインの入ったグラスが!!
という流れが有りましたが、理に適っていると言うにしては飛躍が有るように思います。
理詰めで行く場合、間に「お盆が横を向いているが上にグラスはない」というシーンが必要です。でないと、シルクで覆う前後の状況に飛躍が生じてしまいます。
もちろん、手順の都合上で致し方ない部分が大半なのは分かりますが、それは演者の都合であって、お客さんに取っては全く合理的には感じられません。
スライハンドっぽさも、裏ではごにょごにょしてるのでしょうが、見てる側からしてスライハンドっぽさを感じることはできませんでした。
手順を組む上での「演者にとっての」理詰めと、見ている人が感じる「お客さんにとっての」理詰めを勘違いしているのではないかなと感じます。勘違いではなく、最初から「演者にとっての」理詰めを追求していたのだとすれば、そこに気づくのは一部のマジシャンだけであり、そのこだわり方自体がエンターテイメントとして問題だと思います。
見てる上でどう考えても自然であり、実は裏でごにょごにょするためである「演者の都合」の動きを一切感じさせない、そんなお客さんにとっての理詰めをぜひ追求して欲しかったなと思います。
特別ひどい演技というわけではないのですが、前情報で理詰めと聞いていたため、非常に残念に感じました。
5:雪月花 大阪大学
女性による、舞台上に何もない状況で行うミリオンカードでした。
ゆっくりとした曲で、その中で何かの役が降りるわけでもなく、何にも感情移入できない、表現力も特に高くない、だらだらとした演技でした。
捨て場がないため出現したカードをどう処理するのかと思っていたのですが、ただまき散らすだけでした。
第1部のトリということもあり、まだここから何か有るぞ、これで終わるハズないぞと思っていたら、いつの間にか終わって、休憩に入ったので、呆気に取られてしまいました。
それ以上言うことは有りません。
第2部
6:Romance Dawn 京都大学
京都大学の学外発表会で行われたものとほぼ同じルーティーンの、ハトの演技でした。
ラストでの曲との合わせ具合は、今回の方が上手くいっていた感じです。
マイナーチェンジとして、今回はキャンドルを扱っていたと思います。
この辺、記憶が混在していたらすみません。
キャンドルの取扱いについては、京大の方でグラスの感想として書かせていただいた部分とほぼ同じです。
全体構成としては、京大の学外発表会の方が個人的には好きかなぁという感じです。
7:Devil Stick 高知大学
デビルスティックのジャグリングです。
特筆して上手いというわけでもなく、すごくユニークなことをしているわけでもない、学生のジャグリング発表という感じでした。
ただ、マジックショーのイロモノという枠組みに助けられて、場はそこそこ沸いていたように思います。
本来ボードビルショーの中で、ジャグリングや曲芸はメインに位置することもあり、手品はまあイロモノ扱いが多いのですが、マジックショーの中では立場が逆転している辺り、面白いですね。
8:JOY 同志社大学
CDのマニピュレーションでした。
使っている曲が、ここ数年でのとあるシンブルの名優とかぶっており、どうしてもその印象が抜けません。
他人と曲がかぶっちゃダメということは全くないのですが、少し気をつけた方が妙なバッシングを受けなくて済むので、良いかもしれないですね。
演技全体としては、流れが単調で、ショーの後半に持ってこられると眠くなる感じでした。
その割に、1つ1つの現象を示している時間が少ない場面もあり、めまぐるしくCDが出たり消えたりする部分は見ていて疲れました。
めまぐるしくの程度にもよると思うのですが、0.5秒を切るレベルで出現→消失が行われる場面なんかは、もはや何をやっているのか分かりませんでした。
お客さんに見えている時間が短すぎるのがいけないというワケではなく、その表現方法の問題だと思います。
もう少し、1つ1つの表現の意味を考えると良いと思いました。
9:オドケ☆カンタービレッ 鳥取大学
クラウン扮した主人公による、サイレントのチョークトークとマスクの演技でした。
彼は以前にもUntitled Concertでマスクを演じており、その時はまだ舞台での動き方が様になっていないなぁという感じだったのですが、今回は2年連続の出演ということで、どのくらいレベルアップしているのか期待してみました。
結果は、すごく残念でした。
クラウンの動き方が、まずなっていません。大きな動きで歩く様を表現するのは良いとして、本当に「ドスンッ!ドスンッ!」と足音を立ててしまっては、滑稽なクラウンではなく、ただの足音の大きい人です。
ボードを持って、何かに気づいたようなマイムで演技に入る場面、「何を不思議に思っていて」「何がきっかけで」「何に気づいたか」がまったくもって意味不明で、何をしているのか分かりませんでした。
マスクも、クラウンというキャラクターにも関わらずムーブは今までのマスクの動きと変わらないため、非常にミスマッチでした。少しキャラクターに合わせるよう工夫したと思われる箇所も変面の部分で有りましたが、結果としてタネの推測に繋がる動きになっていました。
ピエロの鼻からボールの演技を行うのは、ありがちな表現ですがそれはそれで良いと思います。ただ、最後にボードに描かれたピエロから鼻を取り出したとき、ボードのピエロにまだ鼻が残っているのは筋が通っていません。
そして、その鼻を顔につけて……というところで、鼻がポロッと取れてしまいました。これは不慮の事故だと思うのですが、その取れた鼻を捨て場に捨てて、笑顔で退場していくのは完全にアウトです。頑張って作ろうとしていたキャラクター、プロット、ストーリー、すべてを破綻させてしまいました。
いっそ手で持つでも、口を使って保持するでも何でも良いので、鼻のある状態で退場すべきだと思います。
忘れていた鼻を付けようとして、それが取れて、捨てて、そのまま笑顔で退場していくピエロは、道化どころかむしろ狂気です。
10:PATHOS 高知大学
ゆっくりとした曲に合わせて行う四つ玉の演技でした。
動き自体は、なかなかキビキビしていたので、曲と合っていないような印象を受けました。
曲に合わせて何かを表現しているわけではなく、軽快にアピールしているわけでもなく、特筆して面白いとは思えない、何がしたいのか分からない演技でした。
少しでも何かしらの方向性に振って演出を付ければ、もう少し面白くなったと思いますが、なんとも中途半端だったと思います。
ドロップが有ったのはまあ残念とはいえ、そういう事故も仕方ないと思うのですが、ドロップしたボールがバウンドしてたんですね。
そして、手に持ったボールを捨て場に捨てるとき、要所要所でカチャッと音がしていたんですね。
だから何とは具体的に言えないのですが、これは、明らかにマズかったですね。
ドロップなどの事故が起きることも考慮して、まずはこの辺りをもう少し精密に詰めていくと良いと思います。
11:和妻 近畿大学
伝統的な近大和妻の演技です。
やはり全盛期を知っているせいか、身の振り方など上手いとは思えませんでした。
紙吹雪などの物量で圧倒する方向性を持った近大和妻で、その物量が少なかったように思います。
和傘でぶわっと巻き上げ、舞い上がる紙吹雪の軌跡は、他の部分がどうあれ圧巻なのです。が、その舞い上がり方が何ともみすぼらしい結果になってしまいました。
前の方からはタネもバリバリ見えていたとのことで、何ともお粗末な出来になっていました。
ともあれ、最近勢いが下火気味だった近大和妻の復活を、この演技をスタートとしてどんどん成し遂げて行って頂ければと思います。
継承していく後輩さんに期待です。
司会 京都教育大学
1回生とは思えない、達者な司会でした。
個性でゴリ押しするタイプではなく、単純にクオリティの高い司会だったと思います。
滑舌やアクセントなど、普通の司会ならできて当たり前のことをすべてこなした学生司会者ということで、あっぱれです。
京都教育大学による司会はこれで3回目となりますが、どれもクオリティの高い司会を披露しており、関西の学生奇術においてその地位を確立しつつ有ります。
もちろん演者としてもまた活躍して欲しいところなのですが、しゃべりの技術を風化させず、今後も頑張って行ってほしいです。
全体構成
司会者の問題ではないのですが、トリ演目の前に「次はトリにふさわしい、和風の演技です。」とか言うアナウンスが入りましたが、ツカミの演者にすごく失礼だと思います。
第1部のトリ演者、第2部の後半など、なんでこの出順にしたんだろう?と疑問に思う部分も多くあります。
オープニングにも述べましたが、音響の選び方や使い方など、もうちょっと上手くできたんじゃないかと思います。
同様にオープニングにも述べましたが、コンセプトの破綻がすごいです。汽笛の音で始まって、結局お客さんはどこに向かっていて、どこでこれらの演技を見て、帰ってこれたのかどうかも定かでは有りません。
筋を通すことができないなら、初めからコンセプトの統一を図ろうとしなかった方が無難で良かったと思います。すごくもやもやした気持ちで会場を出ることとなりました。
演者選出の基準は、一体どうなっているのでしょうか。各大学の発表会をちらちら見ていると、同じ演目、あるいは似た演目でもっと輝いている演者がゴロゴロ居たように感じます。Untitled Concertでは、だらだら長い演技を行った演者が選出されている印象で、3分ぐらいでスパッと心に残る演技や、独創的でその人にしかできないような演技を行った演者があまり選ばれていないように感じます。昨年までもそうだったのか、あるいは今年の傾向なのか、そもそもエントリーしている演者にそういう携行が有るのか、詳しくは分かりませんが、ダラダラと退屈な演技が続くのはなかなか見ていて疲れるものでした。
総じて、単純に前年度と比べて、特筆して輝いている演者やものすごく上手い演者、基礎がしっかりしていながら個性的な演者が居なかったように思い、ちょっとグレードダウンしたかな、と思います。
次回は記念すべき10回目、失速してきたまじぽんの勢いをもう一度取り戻し、ぜひともクオリティの高い発表会を作って欲しいと願っています。
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