2013年5月20日月曜日

ストーリーを伝える



ボードビルの話、第6段。マジックに「演出をつける」ということについて。
ストーリー性のあるマジックて、見せ方によってはすごい威力を発揮します。
ちょっと長めの記事になってしまいますが、ご了承ください。


※以前に三畳半工房さんで連載させていただいていたボードビル体験記の再掲です。



衣装の話をしたとき、「ボードビルでマジックをする場合は演出やストーリーを演技に組み込むことがものすごく有効になってくるのです。」と書きました。しかし、急に「自分の演技に演出をつけろ」と言われても、一体何をすれば良いのか分からないと思います。今回はこの「演出」「ストーリー」について詳しく話していきましょう。

~演出を付ける利点~


演技に演出やストーリーをつけることによって生まれる利点は、大きく分けて2つあります。1つは、舞台上で何が起きているのかお客さんに伝えやすくなること。もう1つは、自分の演技にバリエーションを付けやすくなること。この2つです。2つめの利点であるバリエーションのお話は次回にまわして、今回は1つ目に利点について述べましょう。

舞台上で何が起きているのかを演技の中でお客さんに説明するということは、演出無しのサイレントでは至難の技といえます。自分のキャラクターが確立しているマジシャンなら、自分の世界をしっかり作ってお客さんをそこに引き込むことで「ああ、これからマジックするんだ。」と伝えることができると思います。ですが、駆け出しのステージ演者だと自分の持ちネタが少なく、1つのステージ演目を淡々とこなす演技か、あるいは小さなマジックの無意味な羅列になってしまいがちです。これではマジックを見るつもりで来ていないお客さんには、一体何がしたいのかが伝わりません。「なんか玉増えてたみたいだけど。どうやるの?」程度で終わってしまいます。

ここにストーリーをつけることで、伝わり方は劇的に変化します。前回例に出した探偵の演出のようにストーリーを付ければ、お客さんには「探偵のお話なんだな。」ということがまず伝わります。その中に上手く手品を入れることで、自然とお客さんに「不思議だな。」と感じてもらうことができるのです。実はこの「自然と」という部分が、手品とストーリーを繋ぐ重要なポイントとなってきます。自然さがなければその不思議さは、良い意味での「不思議だな。」ではなく、もやもやと腑に落ちない「違和感」になってしまうのです。

人が何かを見て「不思議だな。」と感じることは、内から発生する自然な感覚です。無意味で理に適わない現象を見て「なんでそうなるの?」「奇妙だ。」と感じるのは「違和感」であって、不快な感覚です。手品で求める不思議さは、決してそんな不快なものではないはずです。もちろんその「違和感」を「どうやってるんだろう?」という「探求心」に昇華できる人も居ますが、手品を見てその探求心が満たされることは基本的にありません。

手品を見にきたわけではないお客さんに無理やり不思議なものを見せるのではなく、うまく演出やストーリーを付けたマジックでお客さんの気持ちの中から自然な「不思議だな。」を引き出すことが、ボードビルでは必要になってきます。


~ストーリーの自然さを作るコツ~




演出やストーリーの中でその自然さを作る具体的なコツはどのようなものなのでしょうか?その自然さを作る3つのコツをお話ししましょう。何も難しいことではありません。歴史を遡れば手品に設定が付いていた例はいくらでもありますから、先人に学べば良いのです。


1:順番に説明する


最初のコツはお客さんに「順番に説明する」ことです。演技が始まった時点でお客さんの頭はまっさらです。明転するとそこに演者が立っていて、仰々しい台が2つ、道具、衣装や装飾品。そんな一気に沢山の情報を与えてしまうと、どこから見ればいいのか解らなくなり、お客さんの頭はパンクしてしまいます。焦らず順番に情報を与えましょう。

演技が始まると、舞台上にはバケツが1個……お客さんは「バケツのお話かな?」と思います。そこに登場する演者、何かを探している様子。お客さんは「何を探しているんだろう?」と思います。するとおもむろに演者はポケットから1枚のコインを取り出します。少し喜びますが、コインをまじまじと見つめた後、演者は落胆した様子でコインをポケットにしまいます。そしてまた何かを探し出す演者……お客さんは「お金を探しているんだな。」と思います。すると気づいたようにバケツへ駆け寄る演者。お客さんは「あのバケツにお金が入っているのかな?」と思います。が、演者はがっかりした表情でバケツをひっくり返すと、バケツの中からは何もおちてきません……。
と、こんな流れからマイザーズドリームの演技に入れば、お客さんの頭の中には「お金を使った演技をする」「主人公はお金を探している」などという情報が構築され、自然とストーリーの中でマジックを見ることができます。荒地に城は建ちません。ちゃんと順を追って、基盤から天守閣へと設定や世界観を組み上げていくことが、堅実な表現へと繋がるのです。


2:当たり前なことをする


次のコツは「当たり前なことをする」ということです。言い換えれば「筋を通す」とも言えます。マジシャンはどうしても、現象ごとにポーズをキメたがります。気持ちは分かりますが、今自分がどういう立場を演じているのかしっかり見据えた上でキメましょう。お金のマジックなら、もちろんお金が出てきたら嬉しいですが、その後お金を消す必要はないはずです。消えてしまった演技なら、驚く、探すなどするはずです。そんな当たり前な動作を当たり前にすることが、自然なストーリーの決め手になります。

演者のキャラクターによっては、手品で行うような不思議なことがなぜできるのかという部分を説明する必要もでてきます。先のマイザーズドリームの例だと、お金を探す労働者が空中からお金を取り出せるはずがありません。当たり前です。これを解決する常套手段は「幽霊が憑依する」「神様がくれる」「世界観を神秘的にする」あたりが考えられます。この場合は神様がくれるのが良さそうですね。主人公が神様にお願いすると、空のバケツに突然コインがチャリーン、と。

マジシャンが「加害者」「被害者」「第三者」のどれなのかをはっきりさせることも重要ですね。つまりマジシャンが不思議な現象を起こしているのか、自然に起きている不思議な現象に翻弄されているのか、それともそんな不思議な世界を語る立場にいるのか、ということです。これをはっきりさせるだけで、だいぶ演技の筋が通ります。


3:話を盛り上げる


最後のコツは「話を盛り上げる」ことです。ストーリーといっても、サンタが来てプレゼントを出して帰った、だと何も面白くはありません。起承転結、ちゃんとお話を作りましょう。サンタがやってきたが、その家の子どもたちはサンタを捕まえるための罠を仕掛けていた。そうとは知らずサンタは罠にかかってしまう。なんとかして罠から抜け出そうと、サンタは袋の中から信じられない道具を次々と取り出す……!こんなストーリーだと、次どうなるのかなとワクワクしながら演技を見ることができます。そうなるとストーリーの中で起きる不思議な出来事も、自然に受け入れることができることでしょう。

手品にストーリーを組み込む場合、気を配ると演技がぐっと良くなるポイントはもっと有ります。ですがまずこの3つのコツを押さえておけば、手品を見にきたわけではないお客さんからも自然な「不思議だな。」を引き出すことができると思います。 

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