2013年5月16日木曜日

2011年の寮祭にて



旧ブログの記事を編集してお届けします。
2011年6月11日(土)に行われた盲学校マジックショーの記録です。


~盲学校でマジックショー!?~


お待たせしました。動き始めます。

 2011年6月11日(土)10:30~12:30
 京都府立盲学校寄宿舎 寮祭
 午前の部:模擬店 にて
 「マジシャン万博のマジックコーナー」
       ブースが出展されます。

晴眼、全盲、弱視……
どんな風に世の中を見ている方でも、ぜひぜひ見にきてください。
正直、どうなるか分かりません。
上手くいく保証もありません。
実の所、お客さんにご迷惑をかけてしまわないか心配です。
そんな、まだまだ手探りの状態でこの日を迎えようとしています。
だからこそたくさんの方に私の手品を体験してもらって、色々な意見が聞けたら嬉しいです。

およそ5年間、ずっと私がやりたかった手品です。
本気でやります。



~いざ終えてみると~





模擬店の中にブースを1つ頂き、見にきたお客さんにマジックする形でした。
学んだことや反省点がものすごく多い2時間半でした。

同じ志を持つ方や、興味を持ってくださった方と、今回の反省を共有していきたいです。
手品のタネに関わることは書けませんが、できるだけ今回の内容を公開していきたいと思います。




今回、晴眼の方が17名、弱視の方が4名、全盲とそれに準じる方が4名見にきてくださいました。
この「全盲とそれに準じる方4名」というのがものすごく説明しづらいのですが、まあ、要するに今回用意した「盲学校用マジック」を見てくださった方ですね。

今回用意したのは「トランプの予言マジック」「スプーン曲げ」に加えて、急遽「チャイナリング」をやることになりました。

晴眼者の方には他にも色々やってます。
それでは、それぞれのマジックの印象や改善点を。


「トランプの予言マジック」


あらかじめ「予言の封筒」をお客さんに渡しておきます。まだ開けちゃいけません。
トランプを配っていき、適当な枚数でストップをかけてもらいます。
ストップした枚数のトランプを持ってもらい、ちょっと複雑な方法で1枚ずつ捨てていってもらいます。
最後、お客さんの手元に残った1枚が、なんと封筒の紙に予言されているのです。




点字トランプを使いました。
「なぜ予言?」と思われるかも知れませんが、点字トランプでカード当ては難しいです。
点字トランプって、それそのものがいわゆる摸牌(モウパイ)できるマークトカードなんですよね。
なんせカードに直接凸点を打ってるわけですから、「裏から見て(凹点を読めば)何のカードか分かる」上に「伏せていても表を触れば(点字を触読することで)何のカードか分かる」わけです。
したがって一枚引いてもらう過程で、いくらでも選んでもらったカードを読みとることができてしまいます。
ついでに、トランプの厚さが2~3倍に膨れ上がってる上、安定しないのでテーブルに束で置いたらザーッと流れてしまいます。
この環境下で不可能性を追求したカード当てをやろうとすると、ごちゃごちゃと冗長な手順になってしまいがちです。
そこで、予言というアプローチで「こっそり読みとる可能性」を排除しました。
また、予言の封筒はお土産にもなりますし、もっと大人数にマジックすることを考えれば、カードを選ぶのは代表者1人だとしても、全員に封筒を配ることで不思議を共有できます。
大人数相手には予言というのは非常に良いアプローチだと考えられそうです。
その際、予言の書き方を工夫しなくてはなりませんが、これはま点字の話なので割愛します。

結果は、33点といったところでしょうか。3人中、好反応は1人でした(全盲の5歳ぐらいの子どもにはやっていないので、3人です。)
ギリギリまで弟子と議論した手順なので、やっていることはしっかり伝わる口上になり、現象も理解して頂けたようです。
好反応を示してくださった方は先天的に完全な全盲で、この企画にも色々助言してくださってました」。
自分で体験して、不思議さを感じられたので喜んでくださっていました。
また、予言の紙も点字で「のこった かーどわ (改行) はーと 8 です。」みたいに読みとっていくので、1文字1文字ドキドキして楽しい、との感想を頂きました。
さて、残りの2人ですが「1枚ずつ捨てていく」という過程が冗長に感じられたようです。その2人は若干の視力が残っている方であったため「1枚ずつ捨てていったら1枚残ったぞ。」「予言にはどう書いてあるのかな……」なんていう過程がすっ飛んで、ダイレクトに伝わってしまい、なんとなく「作業的」な印象の手順になってしまったのでしょう。
捨て方はダウンアンダーという方法を用いたのですが、理系の方にはやはり、何か怪しさが感じられたみたいです。
予言を一致させる方法(うまい言い方がなかなか難しいですね……)として、もっとスマートでかつ全盲の方相手でもできる技法がないか、検討中です。


「スプーン曲げ」


これは鉄板でした。結果は100点といって良いところ。4人中4人が喜んでくださいました。
本来スプーン曲げって、お客さんが曲げられない硬いスプーンを、マジシャンがちょっとおまじないをかけると曲がる、なんていうフィロソフィーに基づいて構成されていると思います。
最近では力を加えていないのに、徐々に、目の前で、曲がる曲がる……というのが流行っているような気もします。
今回はそんなビジュアル(視覚的)なエフェクトではなく、ハプティカル(触覚的)なエフェクトに重点を置いてのアプローチです。

お客さんがスプーンを持って、マジシャンは手を添えて……ここからは本当に微妙なニュアンスです。お客さんはほんの少し力を加えます。マジシャンもほんの少し力添えします。どちらも少しです。軽い力をかけた程度の触感です。すると、ぐにっ、と、お客さんの指先でスプーンが曲がります。確実に曲がった感じが指先から伝わります。確認してもらうと、実際に曲がってます。
Gibson氏が1962年に提唱し、Lederman氏、Klatzky氏なんかが1974年ごろから研究されている、Haptics(能動触知覚)の理論に基づいた構成です。
人間の触覚には温度、圧力、重さ、表面のザラザラ感なんかを感じる機能が備わっています。
視覚的なマジックで大きさ、色、形なんかにアプローチをかけるように、触覚的なマジックではこれら触覚的な機能にアプローチをかけようではありませんか。ここでは圧力にアプローチをかけます。

意外にこれは、晴眼の方にもウケました。晴眼の方にはフォークもやりましたが。
触知覚は何か、手品を新しい形で開拓できる要素をはらんでいるのかもしれません。
Hapticsについての入門的な文献としては下記の論文をおすすめします。
http://www.psy.cmu.edu/faculty/klatzky/09LK_APP_rvw.pdf



「チャイナリング」


ご存知、金属の輪っかが繋がる手品です。
Jean Piaget (1896 - 1980)の理論で、位相的な事象(繋がった、外れた、切れた、接触している等)を人は2歳ごろから認識できるようになってきます。
つまりチャイナリングという手品は、子どもにとってかなり分かりやすい現象なワケです。
若いマジシャンさんで「チャイナリングって小さな子どもに分かるのかな?と思ってたけど、やってみたら意外とウケた。」という経験をされた方は多いと思います。発達心理学的には、とても普通の事です。
さて、ピアジェは視覚的にその研究を行っていましたが、触覚的にも同様のことが言えます。
これは神戸女子大学の柴田るみ子氏、田中敏隆氏が1990年に行った実験からも読みとることができます。(http://ci.nii.ac.jp/naid/110002916172)
つまり、子どもはかなり早い発達段階の頃から、位相的な事象を触覚的に理解しているのです。
ということは、チャイナリングも、上手くやれば不思議に感じることができるはずだ、と考えています。

ちゃんとした手順を組めていなかったのですが、結果は66点といった感じでした。(雰囲気で、1人演じてない人が居ます。)
当然ながら、お客さんにリングを持ってもらって叩いて繋ぐ、お客さんが叩いたら繋がるなどのエフェクトを中心に行いました。
ウケなかった方はバリバリ理系で、予言の時にもダウンアンダーに対して「なるほど、◯◯が◯◯になるわけだ。」とコメントしてくださったレベルです。
チャイナリングも、やはり怪しさが残ってしまったのでしょう。この辺りは、もっと公明正大さが出せる手順を組む必要がありそうです。

小さな子どもがものすごく喜んでくれました。その後しばらくその子は座って休憩していたのですが、私が晴眼の方相手にリングをやっていると、繋がるたびにその子が声を上げて大喜びしていたのが印象的です。繋がったのが分かるんですね。


~全体を通して~


全体を通して最も感じたことは、遠慮される方が多いなという残念さです。
全盲の子どもを連れた親御さんが、マジックの看板を見ると、
「あ、マジックか……別のところに行こう。」
と、引き返してしまいます。
「目が見えなくても楽しめるマジックショーですよ!」
といったうたい文句、逆に失礼かと思い今回は掲げなかったのですが、私の方がどこか遠慮していたのかもしれません。
失礼かな、で遠慮せず、少しアプローチしても良かったのかもしれないな、と感じました。
今回一番の反省点ですね。
次回はぜひ舞台でも少し(トランプの予言でも)やって、こんなマジックショーも有るということを知って貰おうかなと思っています。

最後に、今後の展望を考えていきたいと思います。
カードについては、予言の選ばせ方を工夫すると同時に、カード当ての可能性を考えています。
点字トランプを自作することによって、凹点の無い、安定してテーブルにおける点字トランプが出来上がりました。
これを使ってもう少しカードマジックを模索していきたいと思います。
予言は大人数相手に適していると思いますので、それはそれで大事にします。

スプーン曲げは、フォークを全盲の方にも導入していきたいです。
口上と手順、伝え方、あとは微妙な力のかけ方の問題になってくると思いますので、調整していきます。
といっても子ども相手にはちょっと危険な部分もありますから、慎重に演じていくべきでしょう。プレゼントするならスプーンの方ですね。

リングは手順構成からです。3本なのか4本、あるは5本なのか。
あらための仕方も考える必要がありそうですね。ドゥラティ氏やこざわさんの手順を参考に練っていこうと思っています。

新たな演目の可能性として、コインとブックテストを考えています。
こちらも上手くできたらその経過を報告していきたいと思います。


来てくださった全盲の方のことばです。
「僕たちは、やっぱりどこか諦めてる。マジックにしても、例えばお庭にしても、あれは見える人が楽しむものなんだって。マジックは一方的にどんどん”やってる”ものだと思ってた。それを自分自身が体験して楽しむことができたのは本当に嬉しい。もっとこの分野に切り込んで、開拓していって欲しい。」

がんばります!

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