ボードビルの話、最終回です。
当時の自分の経験を引っ張って書いたので、今となっては古い話です。
最後までお付き合い頂き有難うございました。
※以前に三畳半工房さんで連載させていただいていたボードビル体験記の再掲です。
~久々のショウタイム~
2011年8月某日、久しぶりにピエロハーバーのショウタイムに出演してきました。もちろん新ネタです。まだまだ研磨していかないとなぁと思う次第です。
ゲスト枠は私ともう1人、御年76歳の安来節(どじょうすくい)をされる方がいらっしゃいました。その方とお話ししたのですが、ボードビルで舞台人として目指すものって何だろう、ということを連載最後の記事である今回、書いてみたいと思います。ちょっとお堅い内容になってしまうかも知れませんが、許してください。
その方は舞台で目指すものとして「ハコ(劇場)の空気を持っていかなあかん!」とおっしゃっていました。これは少し舞台を経験した方なら、当たり前のことだと感じると思います。でも、この当たり前のことが実はボードビルが最終的に目指す形だと私は思っています。
「空気を持っていく」って、昔から色々な舞台人がそれぞれ感じていることですよね。演出家のマイケル・チェーホフ氏はこれを「劇場のアトモスフェアを作る」と表現し、そのための5つのプロセスをまとめました。詳しくは割愛しますが大まかにいうと、自分が伝えたいものをしっかり作って、お客さんの空気を読み、その空気に乗っかって表現すると、演者とお客さんを合わせて劇場全体が大きな1つの流れに包まれる、といった感じです。
この劇場を包む大きな流れ、言い換えれば演者がとても楽しく演技をしていて、観客もその波に乗ってなんだか楽しくなって、劇場全体が何だか楽しい雰囲気にならざるを得ない状況を、ボードビル全盛期のアメリカでは「スウィング(Swing)」と表現しました。このスウィングという言葉、日本語に訳するのは非常に難しいと思います。楽しくて楽しくて仕方のない状況、といった感じでしょうか。いい日本語が見つかりません。
~「Swing」と「有頂天」~
当時の日本人はこのスウィングという言葉を「有頂天」と訳しました。かなり秀逸な訳だと思います。誤解されては困るのですが、演者が舞台上で有頂天になっているというワケではありません。劇場が「有頂天」になるんです。あるいは「有頂天」で劇場を包むんです。
かく言う私ができているのかというと、なかなか難しいところです。どうしても劇場の空気を読めずに上手くいかないこともしばしばあります。ですが、演目の中のほんの一瞬、3秒か1秒か、客席までが一体になったスウィングを感じることがあります。これは本当に感じてみないとなんとも説明しづらいのですが、舞台経験者の方は少なからず同感してくださると思います。このスウィングを演技中できる限り作りつづけられるよう日々精進しています。
古くからずっと考え伝えられてきたこと。舞台人誰もが素朴に考えてきたこと。舞台経験者ならみんな当たり前のように目指していること。つまり、「スウィング」あるいは「有頂天」で劇場を包むことこそ、ボードビルが目指すものだと私は思っています。
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