2013年5月22日水曜日

9冊目~「見る」ということについて考える~


学生マジシャンに読んでほしいこの10冊、このシリーズもいよいよ大詰めです。
9冊目は「見る」ということについて真剣に考えた、哲学的な本です。

視覚新論
G・バークリ著
下條信輔・植村恒一郎・一ノ瀬正樹訳
勁草書房
¥2,940



~人は世界をどう見ているのか~



手品について考える上で「人は世界をどう見ているのか」というのは、誰もが一度は考えることだと思います。そしてそういう分野の参考文献を探してみると、だまし絵の本や錯覚・錯視の本、注意に関する認知科学の本など様々な専門分野で面白い本がたくさん見つかると思います。

しかし、もっと根本的な「人は世界をどう見ているのか」という部分に切り込んだ分かりやすい本と言うと、なかなか見つかりません。すごく哲学的でアバウトな話題だと思うので、専門書にするのは難しいのでしょう。頭を使ってうんうんと考えなくては切り込んでいけない観点なのかもしれません。

そこに切り込んで、考えに考えを重ねた哲学者が、300年前、その思考の軌跡を1冊の本にまとめました。



この本は、モリヌークス問題という話題を1つの主題において、人は世界をどう見ているのか。見たものをどう知覚し、認識し、解釈しているのか。視覚で認識できることとはどういったことか、逆に、認識できないことは何か。そして、認識できないはずのもの(本著では「距離」が話題に上げられています)を人はどうやって認識しているのか。などなど、様々な切り口から視覚について紐解いています。

モリヌークス問題とは、生まれながらの盲人が開眼したとして、彼の目の前に置かれた立体の形を識別できるかどうか、と言う思考実験の問題です。東京大学の鳥居修晃先生による積極的な先天盲開眼研究によって概ね答えが出てしまっているのですが、その思考を積極的に紐解いたのが、本著の作者であるバークリーです。

生理学や医学的な方向性でもなく、認知科学でもなく、心理学でもない、もっと根源を言及するような観点から視覚というものを捉えた、哲学書です。細かく項が分けられて記述されていきますので、一気に読みきる必要はないと思います。ひとつひとつの項で述べられている内容を、バークリーの意思をテキストから解釈しながらじっくり読み進めて行けばどんどん味の出る本だと思います。1回で完全に理解する必要もないと思いますので、ぜひ手元において何度も読み返して欲しいと思います。

分量はさほど多くないです。前半に本論があり、中盤にバークリーが後に記した著書があり、そして後半は、解説というか付録のような扱いになっています。解説者の先生が20世紀以降の観点から、バークリーの考えを補完しています。これはこれで面白い内容なのですが、ちょっと専門的にモリヌークス問題の解答を記述するような内容になりますので、興味があまり無ければ読まなくても良いと思います。

本著で「見る」ということの根本的な解釈について触れ、そして学び、考えた上で、それぞれのマジシャンさんが興味のある心理学や認知科学へとコマを進めていくと良いと思います。
「人は世界をどう見ているのか」という考えの源流に当たる本です。

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