2013年の1月から3月までの間、生徒にカードマジックを教えていました。
旧ブログの記事を編集して、その記録をまとめていきます。
超長い記事になりそうです……
~全盲のマジシャン、カードマジックに挑戦!~
以前の記事で、チャイナリングによる輝かしいデビューを飾った彼ですが、今度はカードマジックにチャレンジします。
と言うのも、ホームルームで、生徒に手品を教えることになったのです。進路も決まり、高校の普通のカリキュラム内容はすでに終わっているので、本人の希望も取り入れて、こういったことになりました。カードマジックを、4回程度で教えていきたいと思います。
~まずは入門編~
まずは超入門編ということで、トランプの取り扱い方の説明と、視力や触覚の兼ね合いで どの程度のことまで出きるのかをディスカッションしました。
具体的には、ディーリングポジション、ビドルポジション、カット、ディールあたりを練習しました。これはしっかり教えると、特に問題なくできるようでした。
そこから、ちょっとしたギミックカードを用いて、フォースとキーカードロケーションも説明しました。どんなギミックカードを使ったかは、まあマジシャンさんなら容易に想像できると思います。触覚を研ぎ澄まして扱うギミックカードで、最初は少し苦労していましたが、カードの持ち方に多少慣れるにつれて、徐々に精度が上がっています。
さて、いろいろな技法が思った以上にできる半面、失敗もありました。
まず、その生徒の視力(ほぼ全盲)では、トランプの表と裏が判別できないとのことでした。本気出したらマークと数字を確認できるかもしれないらしいですが、ぱっと判断するのは難しいそうです。これは、赤バックを用意してしまった僕のミスかなと思います。
また、触覚的なノイズを排除するために、エンボス加工のないナビゲーターを使ったのですが、これが裏目に出たようです。羞明(あまり明るいと視界がホワイトアウトする)も持っている生徒なので、エンボスなしのつるつるだと表面が光ったときにホワイトアウトする様です。一応、最終的にはシカゴオープナーを教えたいと思っていて、青バックのカードも1枚渡したのですが、ナビゲーターだと色の違いが判断できないらしいです。エンボスがあり、暗めの青バックと明るめの赤バックが用意できるトランプを用意しないとなぁと思っています。
一応、今のところ候補はクラブエンゼルです。これだと、シカゴオープナー用の1枚は、黄色とかも用意できますね。残り少ない授業期間、有意義に手品もやっていきたいと思います。
~ロサンゼルス・ホップ~
次に、ラリー・ジェニングスの「ロサンゼルス・ホップ」を教えました。
「ロサンゼルス・ホップ」とは、ロン・ウィルソンの「ハイランド・ホップ」をラリー・ジェニングスが改案したものだったと思います。(違ったらごめんなさい。)
お客さんが選んだカードを、徐々に候補を絞って当てていく、なかなか緊張感のあるマジックです。
「こちら半分にあると思います。ありますか?」→あります。
「さらに候補を絞って、この5枚の中にあると思います。ありますか?」→あります。
と、徐々にお客さんが選んだカードに近づいていくのですが……
ラストは、衝撃のクライマックスです。ちょっとここで書くのをためらってしまうほどです。
ご批判を承知の上、エッセンスをかいつまんで書かせていただきます。
その5枚のカードをお客さんが再度確認すると、お客さんが選んだカードだけ忽然と消えています。
そして、お客さんが選んだカードは予想外のところにあります。
そんなマジックです。
マジックに詳しい方なら、前回の記事と併せて読んでいただけると、ああ、こういう風に教えるんだなと納得していただけるかと思います。しかしながら1ヶ所、この技法、全盲でもできるの?と疑問に思う部分があると思います。
できるといえばできるし、でも難しいような気もする、と。
僕も、疑問でした。
なので、彼にこのマジックを教えたのはある意味賭けでした。
結果としては、少し慎重に練習すれば充分できそうでした。ちょっとしたカードのズレが視覚的に知覚できないので、触覚的に慎重にムーブを行う必要があります。これで1つ、まとまったルーティーンをレパートリーに加えることができました。
さて、このレクチャーの目標地点はシカゴオープナーです。ということは、避けて通れない難しい技法が1つあります。
そうです。ダなんちゃらです。
ここから先は↑が何のことか分からないと、さらに意味不明な内容になってしまいます。ですが、そのダなんちゃらを教えてみた報告をどうしても書きたいので、ご了承下さい。
ダなんちゃらは、縦に行う方法と横に行う方法と斜めに行う方法があります。カードをずっとホールドできる分、斜めに行う方法が簡単かと思いました。しかしながら、斜めの動きは本人にとってどうも違和感のあるムーブらしく、なかなかコツがつかめないようでした。
そこで、横に行うムーブを教えてみました。実は先ほど挙げた3種類のダなんちゃらの動きの中では、横に行うのが一番自然に見え、シークレットでない普通のムーブに近い動きとなります。すると、すぐに上手くは行かないのですが、思った以上にできそうでした。
一瞬、手のホールドからカードがリリースされるにもかかわらず、器用に扱えています。やはり、私たちの勝手な感覚で何がやりやすそうで何が難しそうかを決め付けてはいけませんね。ある程度の予想を立てた上で、いろいろな可能性を提示するのは大事なようです。
~黒バイスクルのこと~
そうそう、彼にとってはトランプの裏表があまりよく判別できない、ということを書きました。
赤バックがまずかったこともあり、色々考えた結果、「黒バックのバイスクル」で、裏表が判別できるかチャレンジしてもらいました。
結論から述べると、判別できました。裏の模様として、黒い面積が圧倒的に多いことと、エンボス加工が施されていることが良い方に作用した様子です。
赤バックのナビゲーターでも、暗いところなら裏表がそこそこ判別できると言っていたので、光の反射具合も関わっているのかと思っていました。
実際それは大いに関係しているようで、エンボス加工のおかげで裏面がキラリと反射してホワイトアウトしてしまうことは少なくなったようです。これにはもちろん、赤から黒になったという色の違いも関わっていると思います。
しかしながら、触った感じはやはりかなり違和感が有るようです。まあこれは、マジシャンの皆さんに愛されてきたトランプなのですから、慣れてもらうしかないですね。
滑りやすいという部分に関しては、滑りすぎて少し使いにくそうでした。ですが、リボンスプレッドをさせてみたところ、思ったままにやってみただけで綺麗に広がるため、感動していました。シカゴオープナーを目標とすれば、リボンスプレッドはやはり綺麗にできた方が良いので、これからちゃんとしたリボンスプレッドの方法を教えていきたいと思います。
……と、思ったのですが、
リボンスプレッドしたカードをまとめるのが大変そうでした。
何となくまとめようとはするのですが、やはりツルツル滑るので上手くまとまらないようです。
言われてみれば、晴眼者でもここは滑りすぎると難しいような気もします。
練習で何とかなるのであればなんとかしたいですが、難しそうであればリボンスプレッドをあまり用いない方向で考えていきたいところです。うーん、難しい。
ナビゲーターと比べてバイスクルは、髪質が少し柔らかいのですが、これは良かったらしいです。サムリフルなんかが圧倒的にやりやすいとのことで。
「でも、耐久性は前の(ナビゲーター)より無いんですかね。」
と聞かれました。その通りです。でもまあ、プロマジシャンじゃないので、そこまで短期間に何個もデックを潰すこともないでしょう。
さて、先ほど黒バックのバイスクルなら裏表が判別できると書いたのですが、1デック54枚の中で1枚だけ、裏表に迷っていたカードがありました。
スペードのAです。
なるほど、言われてみれば確かに、スペードのAだけは表面の黒い面積が大きいですね。
他の絵札は、なんとなく絵札に感じられるような雰囲気みたいです。
ただスペードのAだけは、彼にとっては「裏面っぽく」見えるそうです。
予想外のところで問題点が発生してしまい、焦っていますが、見分けるコツを探すか、見分ける必要のない手順をベースとして練習するか、まあ何らかの方法で解決する策を探していきたいと思います。
まあ、一番心配なのは、演技中にデックを取りこぼして地面にバッサァーしてしまわないかですね。そうなると、どうしようもないです。もちろん、晴眼者のマジシャンでもそうなっちゃいけないですが。
~シカゴオープナー~
いよいよ当初の目標である「シカゴオープナー」というマジックまでたどり着きました。新しい課題が1つ浮かび上がってしまったので、その報告もしたいと思います。
シカゴオープナーというのは、早い話がお客さんが選んだカードの裏の色が変わるというマジックです。単発の現象で終わるのではなく、2段構えのオチが待っている、クライマックスエフェクトとしても使えるすごく効果的なマジックなのです。
と、こんな書き方では色々と突っ込まれそうな気がしますね。現象が違うぞとか、「オープナー」じゃないのかとか。手品に詳しい方には変に誤解を招いてしまいそうなので補足しますと、今回教えたのはシカゴエフェクトと言われるもので、どちらかというとレッドホットママというマジックの方です。ただ、若いマジシャンさんの間では「シカゴオープナー」の方が通じやすいと思いますし、今後学生マジシャンの世界に入るかもしれない彼にとっては、他の学生マジシャンさんから「どんな手品ができるの?」と聞かれたとき、シカゴオープナーと答えた方が話がスムーズに進みそうなので、そちらの名称で教えました。もちろん、シカゴエフェクトと呼ばれるべきことや、レッドホットママについても軽く話してありまして、それを知った上でシカゴオープナーと教えている感じです。
中で使う技法・方法は、大きく分けて3つとだと思います。
キーカードなんちゃらと、フォースと、ダブルなんちゃらです。
それぞれの技法を使うマジックをすでに教えていますし、レギュラーデックに混じっていても違和感のないギミックカード(コーナーなんちゃら)を1枚だけ使うようにしています。なので、あとは練習あるのみという感じで手順自体は問題なく通せると思っていました。
しかしながら、問題が発生しました。
写真のような状態、リボンスプレッドした状態で1枚だけ色の違うカードがあることが分からないのです。写真では赤デックに青カードですが、これでは赤デックのカードに関して表と裏の判別が付きにくいという問題があったため、黒ベースに赤バックにしました。しかし、それだと黒デックの中に1枚だけ赤いカードが混じっていることが分からないとのことです。どのくらい分からないかというと、リボンスプレッドじゃなく普通に左手ディーリングポジションで、トップから1枚ずつ右手に送っていくような形でスプレッドしても、黒いカードの途中で赤いカードが出現したことが分からないそうです。
黒ベースは、裏と表が判別できるのでアリだと思います。そして、バイスクルなら黒でも赤でもそこそこ入手することが容易なので、妥当な選択だと思いました。しかしながら、このような事情になると話は別です。
幸い、バイスクルには裏の色が違うカードが数多く存在します。ただ1枚の色違いのカードを何色にするか、まだまだ試行錯誤が続きそうです。
~黄色バックのバイスクル~
ついに、色の判別問題が解決したので報告したいと思います。
決め手となったのは、バイスクルの黄色バックです。それも、蛍光イエローという特殊な色のものを使いました。実はこの蛍光イエローのバイスクルは、表面にもホワイトエッジがあり、普通に手品に使うとしても有用な道具です。蛍光ではないイエローバックのバイスクルは、表面の地の色が黄色で、トライアンフ等を演じるときに不都合が生じるのです。そのこともあって、蛍光イエローの方が使い勝手が良いと思って、個人的に所持していた(部室に置きっぱなしにしていた)のですが、いざ使うとなると恐ろしく目にやかましい色で、1枚だけ色違いのカードとして使うとしても主張が激しく、全然使わないままお蔵入りとなっていました。
この蛍光イエローが、生徒には判別できました。裏表も判別でき、黒バックとの差異も認識できるとのことです。ここまで行ってきた生徒との調整だと、濃い色がバックになっているカードだと黒との判別が付きませんでした。赤バックと青バックデすらあやしかったのです。しかしその反、面あまり明るい色のカードだと、フェイスとバックの区別が付きにくいということがありました。赤バックは思いっきりそうなってしまっていました。その折衷案を探す意味で黄色という選択肢を考えていたのですが、蛍光はちょっと白すぎて裏表の判別が難しいのではないかと心配していました。しかしながら、裏表も判別でき、1枚だけ色の違うカードを探すことも可能でした。
思うに、蛍光色の特徴として、光を反射というよりは、それ自身が発光していると考えられるため、色の違いではなく光の強弱に訴えられたのが判別できるようになった大きな理由なのかなと思います。このあたりはちゃんとチェックしていないので、本当にそうなのかはまだ分かりません。
いずれにせよ、これで、シカゴオープナーのフルルーティーンを演じることが可能になりました。
~そして……卒業。~
ここまでが旧ブログで書いてきた記事の内容です。このあと、クロースアップでのデビューまでなんとか持っていきたかったのですが、練習時間とスケジュールの問題でついに叶わないまま、彼は盲学校を卒業していきました。
現在、彼は京都の大学で学生をしています。今は何の部活にも入らず、日々の勉強と、その環境を整備することに追われています。一人暮らしもなかなか大変なようです。
もう少し時間ができたら、またマジックを練習してぜひデビューしたいと本人も言っています。
いつかこのブログで「全盲のマジシャン、クロースアップデビュー!」の記事が書けることを夢見ています。
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