ボードビルの話、第5段。
音響と照明といった、舞台効果のお話です。
※以前に三畳半工房さんで連載させていただいていたボードビル体験記の再掲です。
音響というとせいぜいBGM、照明はスポットライトのことだと考えているステージ演者の方は少なくないと思います。しかしボードビルでのマジックにおいて、音響・照明は背景に流れる音楽や中央を照らす明かりというものに止まらず、もっと大切な役割があるのです。今回はそんな、音響と照明についてお話ししましょう。
~音響・照明は「セリフ」~
サイレントの演者にとって音響は、セリフの替わりにお客さんへ自分の世界を伝える大切な手段です。ですから決して、何となくノリの良い曲や雰囲気の合っている曲、自分の好きな曲などを選んで適当にバックに流しておこうというワケにはいきません。演技の終わりと曲の終わりがピタッと一致しているのはもちろんのこと、曲の要所に特徴的な打点があればそこも演技と合わせるべきです。
さらに言うと、単調な繰り返しばかりの曲を使うよりは、演技全体のストーリーや流れに沿って曲の雰囲気も変化していく方がベターですね。そうなってくると、曲に合わせた手順を組むのか、はたまた手順に合った曲を探すのかが難しいところです。とは言えこれは個人の好みの問題だと思いますし、どちらか一方に決まることでもないと思います。
欲を言うならば、自分の表現したい内容に合わせた曲を作る、もしくは作ってもらえればそれがベストなのだと思いますが、敷居が高く現実的ではないと思います。ボードビルでは、自信の有るパフォーマンスが1つあれば良いというワケにはいかず、いくつかのレパートリーが必要になりますから、それぞれの演技に曲を作っていてはキリがありません。
ふつう音響は、舞台が明転する前に流し始めます。つまり、演技の中で最初にお客さんが得る情報が「音」なんです。決してないがしろにしてはいけないポイントですし、奇抜なことを多少してでも自分の伝えたい世界を表していくべきです。そのためには、効果音もどんどん多用していって良いでしょう。学校のチャイムや雑踏のガヤで場所を表現するも良いでしょうし、目覚まし時計やフクロウの鳴き声なら時間が表現できます。時計の音や雨音なら、これから作る世界の雰囲気や情景を伝えることができます。効果音を視野に入れることで、表現の幅がぐっと広がりますね。
~例を挙げると~
そこに加えてさらに世界を伝えるツールとなるのが、照明です。「照明といえばスポットライト」という概念はまず払拭し、シーリングやサスペンドあたりまで考えを広げてみましょう。かなり表現の幅が広がるはずです。例えば、私が演出した舞台で実際に行った例ですが、次のような舞台を想像してみてください。
ミステリアスな音楽が流れ出す。しばらくすると音楽は小さくなり、重い扉の開く音が響く。同時に、下手袖から舞台上に向けて一条の光(スポットライト)が射す。その光の中、下手袖から一人の探偵が登場する。何かを探している様子だ。するとまた扉の、今度は閉まる音。その音に合わせて光も小さくなっていき、バタン、と扉が締まり切ると同時に光はなくなり、舞台上が暗転される。
どうでしょう、演者はほとんど何もしていません。音だけでもずいぶん世界観が表現できますが、ちょっとした光の演出が表現にアクセントを加えています。音響と同じように照明も、演技を構成する上で重要な役割を担うということです。
もっとも、音響に比べて照明は舞台環境に依存してしまうので、先の例のようにあまり凝ったことをしてしまうと演技に汎用性がなくなってしまいます。なので現実的には、照明で色々なことを表現するのは難しいかも知れません。しかし、スポットライトかシーリングかを選ぶだけでも表現が変わってきますから、演技を組み立てる上でぜひ一度、照明をどうするか考えてみてください。
セリフを発しないサイレントな演技をする場合、音響と照明を上手く使わないともったいないですね。
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